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【館ハシゴ】泉屋博古館東京と菊池寛実記念智美術館

東京で好きなミュージアム2つである。美術館・博物館は好きだけど大きすぎるところは疲れてしまうし、小規模でマニアックな展示をやっているところに心惹かれるようになった。この2館は最寄り駅が異なるため長らく気づいていなかったが、実は距離にして結構近くにあり、歩いてハシゴできる。そんなわけで連休の一日を使ってこの2館を巡ることにした。

泉屋博古館東京

六本木一丁目駅を降りてエスカレーターをずっと上っていき、サイドに植え込みのある道を通り抜けると、開けたところに出る。すると左手に平たい建物がありそれが泉屋博古館である。今回は「ライトアップ木島櫻谷」という企画展をやっていた。

エスカレーターを上る間、何度もこの旗が出現してわくわくさせる
到着!

スライドドアを抜けると正面に受付、左手にハリオカフェ、右手にミュージアムショップ、右奥に展示室がある。展示室はメインの部屋が3つと小さな第4展示室がある。第1展示室は木島櫻谷の四季連作大屏風がドーンと並んでいた。6曲1双の屏風が5点なので大迫力だ。私が美術館に行くようになったきっかけは円山応挙の「大瀑布図」なので、やはり大きな絵がテンションが上がる。

「雪中梅花」は、雪の積もる梅の木にまばらに梅が咲いている絵だ。胡粉を分厚く塗って雪を表現しており立体感がある。梅は咲いているものが少しと蕾がたくさんで、小さくぷくぷくと点在している様子が可愛らしい。日本画では雪は白い紙を塗り残すことで表現されることが多いと思うので、金地に胡粉でもりもりと描かれているのが存在感がすごくて印象的だった。

「柳桜図」は、右手下方に柳、左手情報に桜花が描かれ、ところどころ重なり合っている。桜の花びらもベタっと描かれてぷっくりしている。柳の葉は1枚1枚一筆で描かれわしゃわしゃとそよいでいるようだ。柳桜の重なり合いも美しい。

「燕子花図」は今回の展覧会で唯一写真OKの作品。花の深い青は近づいて見ると少しキラキラしていた。咲いている花も美しいが、これから咲こうとしている花がむくむくと狭いところから出てこようとしている様子が生命を感じさせる。

燕子花図
むくむくと咲いている

「菊花図」は大きな白い菊の花びらがやはり胡粉で描かれているが、彫り塗りという技法が使われているらしく灰色の輪郭が残されている。たっぷりの胡粉が筋を描いていて、それが花びらの筋を表現しているのがきれいだった。ところどころ花の裏側を描いていたり、花びらがめくれているところがあったり、一様ではないところが生きている感じがして飽きない。

第2展示室は『「写生派」先人絵師たちと櫻谷」というタイトルで、円山応挙や円山四条派の絵師たちの作品が展示されていた。鯉、孔雀、鼠、リスなどと動物が多くてどれもかわいい。展示解説によると円山派が「加筆系」、四条派が「減筆系」らしく、確かに細かな線をたくさん描くことにより写実性を追求しているものから、少ない筆数で表現しているものがあり、比較できるのが面白かった。

第3展示室は木島櫻谷の動物画がずらっと並べられていた。京都市動物園に通って描いた写生帳も置かれ、丁寧なスケッチがものすごい観察眼と集中力を伝えていた。

生命が躍動する、繊細で豪快な作品群に心が凪いだ。その心のまま、次の目的地へ向かった。

菊池寛実記念智美術館

躑躅の咲くスウェーデン大使館の前を過ぎて数分歩くと、左奥に大倉集古館が見える。こちらも好きだけど、時間の関係で今回はスルー。右へと方向転換して少し歩くと菊池寛実記念智美術館に到着する。

ビルの合間を通り抜ける
大倉集古館の印象的な屋根


さあ着いた!

門をくぐると縦に細長い建物が見えてきて印象的だ。中に入ると長い廊下があって、右手にあるカフェは賑わっている。大きな窓があってよく手入れされた庭園を見ながら食べられるのが素敵だが、こちらも今回はパス。左手に行くと受付がある。チケットを買うと、受付横の螺旋階段を降りて展示室へ向かう。この螺旋階段が美しくて好きだ。周りの壁には大きな篠田桃紅の書が貼られている。階段を降りると展示空間が始まる。今回は「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」なる展覧会が開催されていた。

「走泥社再考」展のビジュアルが迎える

この展覧会は3章構成であり、前期展示が1章と2章、後期展示で3章を展示するという珍しいシステムになっている。そのため展示全体のストーリーを追うには2回行く必要があり、2回券というチケットも存在していた。もちろん2回券を買う。私は陶芸のことは何も分からないが、走泥社は「前衛」を掲げているだけあって一見しただけで「なにこれ」となる変わった作品が多く感覚的に楽しめる。樂翠亭美術館に一定数の作品が所蔵されていて、和室や庭との相互効果で面白い展示が作られていたのが印象的だったので、東京で大規模な展示が見られるというのは嬉しく、楽しみにしていた。

ずらっと見渡せる展示室、好き

第1章は結成時期の作品が展示されており、ほとんどが器としての作品だった。展示室の端のモニタには走泥社が展示を行ったときの宣伝ポスターや、当時の展示風景などの写真が投影されていて、結成メンバーの若き日の姿も写っていた。それらの中に花が生けられた作品の写真もあった。展示室にある作品たちは何も生けられていない状態でそれでも成り立っていて、実用の姿が想像できなかったから、華道家の手にかかればこんなふうになるのかというのが分かったのがよかった。

八木一夫「春の海」 微妙にフグ要素が入っていることへの驚き。
山田光「二つの口の壺」 UFOみたいだけどこれも器
八木一夫「月」 この不思議な形の愛らしさよ
八木一夫「二口壺」 これもこう見えて器

第2章は「オブジェ陶の誕生とその展開」というタイトルで、時代が進んで花器としてではなくオブジェのような作品が作られるようになった時期の作品が展示されていた。器としての役割を失ったことで自由が増しているようだ。不思議な形をたくさん観察した。

山田光「二つの塔」 二人がひそひそ話している感じが好き
鈴木治「土偶」 写真では分かりにくいが、展示されている台の角度と作品の角度が一致していて美しい
山田光「塔」 角度に関しては同上
川上力三「面相」 塩基配列を記したくなる見た目
藤本能道「無題」 このなんとも言えない変な形がいい。真ん中のくびれているところを持ちたくなる

まとめ

2館とも小規模館ながら丁寧にストーリーのある展示を展開していて、やっぱり好きだなと思った。近頃は展示解説に日本語と英語を併記している館も多いが、それもなく日本語解説だけシンプルに存在していてその分丁寧で読み応えがある。また、2館とも開館時間が18時まで(泉屋博古館東京は金曜は19時まで)なのもありがたい。やはり知名度で大規模館に負けるからか、連休真っ只中でも人が多すぎることはなく落ち着いて鑑賞できるのがよかった。

以上、港区の渋い小規模館をオアシスのように渡り歩いた一日の紹介でした。

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