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8月が愛おしくなる小説(滋賀編)

昨年読んだ小説は8月モノがどれも面白かった。

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』は、滋賀生え抜きの素敵な女の子の話。物語は2020年8月に始まる。西武大津店閉店の一報を知った中学2年生の成瀬は、閉店まで毎日西武大津店に行き夕方のローカルテレビの中継に写ることを宣言する。この話の語り手である幼なじみの島崎は子どもの頃から成瀬の突然の宣言を受け止め、見守ってきた。島崎は、また何か始まったぞと思いながらも呆れるのではなくわくわくしながら成瀬のことを見守る。言われた通りにテレビで成瀬の姿を確認し、SNSでのエゴサで話題になっているかチェックしたり。

島崎だけでなく、成瀬を取り巻く登場人物が成瀬に向ける眼差しは優しい。表紙イラストの成瀬はどこか遠くを見据えているが、その視線の先にあるものがみんな気になってわくわくしてしまうような、そんな魅力が成瀬にはあるのだと思う。でもそれでもやっぱり彼女は等身大の少女なのであって、どうしたって応援したくなるのだ。

8月が終わりに近づいて夏休みから2学期に向かう感じとか、M1とか、夏祭りとか、8月のクソ暑い空気を纏ったストーリーが、成瀬のエネルギッシュな姿と重なって好きだ。

この世の鬱屈を吹き飛ばすようなパワー溢れる成瀬の姿を目にして、読んだ人は皆、「成瀬が天下を取」るのが現実になるのを心待ちにすることだろう。

琵琶湖を吹き抜ける風が頬に当たるのを感じるような爽やか青春エンタメ、万人におすすめしたい。今月出る続編も楽しみだ。

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