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九州夏旅 2019 ①

【遅刻者とヨッカブイ】


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「もう受付時間は終了しております。」

13:35 を示す時計のデジタル表示をじっと見つめてしばし呆然。途方に暮れて成田空港第三ターミナルの青いレーンの上で立ち尽くす。

なんということでしょう。

あまたの旅人の話に聞くが、自分が遭遇したくはない『飛行機乗り過ごし問題』ここに爆誕。

いつも成田空港に行く時は京成スカイライナーを利用する。他にもあるが、デンライナー(仮面ライダー電王に登場の電車)に似ているのと都心から40分弱で着く早さが便利なので積極的活用の山本寛斎デザイン。たまにやらかすのが山手線から乗換の『日暮里駅』『西日暮里駅』を間違えるというミスだ。

電車の乗り換えは、若干の鉄分があるので得意な方だ。住んだこともない土地でも間違えないほど乗り換えは強いが、一部の駅で何故か場所と路線図を飲み込めない『バグ』が時折出てしまう。それが今回起こった。なんということでしょう。1本乗り過ごして次に乗るが、第三ターミナルが遠くて遠くて5分が間に合わない。遅刻は許さないLCCの非情さよ。だから安いのだが。


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翌日の『ヨッカブイ』祭りに行くルートとして、前泊して鹿児島中央駅から朝6時ま47分発のバスで加世田に向かう。そうしないと間に合わない。朝早いのでネカフェ泊で良いかと思い、宿の予約をとってないのが不幸中の幸い。今から鹿児島行きの次発便を聞くが、翌日の同じ時間しかないそうだ。なんということでしょう(3度目)。

速やかに九州の他の空港行きを探す。熊本行きはあるが、前泊しても早朝の新幹線の到着時間が間に合わない。そして値段は倍である。このままだと折角の祭りのための有給がフイになる。更に探すと本日17:00発の福岡便がちょうど1席空いている。博多からなら夜発の夜行バスで鹿児島中央に着けば予定通りのバスの時間に間に合いそう。速攻ポチる。首の皮一枚で繋がる状態。

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福岡空港へ夜のフライトは市街地真ん中に降下するため夜景へダイブする感覚。これだけで単純に気分は上がる。降り立つ福岡空港の通路に並ぶ広告はどれも地元出身の俳優“瀬戸康史”推しの圧があり、さすが地元の応援は“ちかっぱ愛が強い”。


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まだ夜行バスまで時間があるので、晩ご飯に水鏡天満宮の横『真』に向かう。オリジナル・ラブの田島貴男さんも推してる鯖の名店だ。たとえ店の場所を忘れても『アクロス福岡』を忘れなければ大体辿り着けるので面倒がない。中州にも行ってみたいが別の機会に。それにしても博多の街は光が水路まで靡いて洒落て、夜景がどこから見ても映える。

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『真』の大きな焼きサバ定食で満足して、飲屋街の中にある銭湯『都湯』のスカイミントの湯に浸かると、数時間前にやらかした事もすっかり忘れて、さっぱりしてから夜行バスに乗り込んだ。何となく、夜行バスが途中に寄る真夜中のSAの独特の雰囲気が好きだ。ああいう夜はもっと長くてもいい。揺れてあまり寝れはしないけれど、それも身体に刻まれるのが安旅の情緒よ。


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8月22日早朝の鹿児島中央駅は思ったよりも涼しい。乗り換え便に間に合う余裕もあるので歩いて行ける『西田温泉』に向かう。夜行の冷房でバキバキになった身体をほぐすのに、朝から開いている銭湯はとても重宝。鹿児島の銭湯は温泉が多いようで手軽な贅沢だ。飲むことも出来る温泉をがぶ飲みして温泉成分に全身を満たしてから加世田に向かう。心配していた天気も持ち直して晴れてくれる。


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かつては鹿児島交通枕崎線(南薩鉄道)の駅があったらしいバス終点のターミナルには当時の駅舎のままなのか、車両がオブジェとして鎮座している。隣には『南薩鉄道記念館』もあるのだが、時間が早く見られないのが残念。

目指す祭りが行われる高橋地区への移動手段はタクシーのみ。運転手さんは地元の方だが、ヨッカブイはあまり知らないようだった。やがて目の前に現れる森と田畑に囲まれた高橋地区は小さな島っぽく集落の入口には沖縄のような『石敢當』があった。帰りのバスで見えたのだが、周辺の古い民家も琉球風がいくつか目についた。

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事前のザックリ下調べでは、公民館に集まってから9時頃にお祭りが始まるそうで、公民館にて座して待つ。らしき中高年カメラマンが、すでに数人ほど集まり談笑している。

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しばらくして酸素ボンベを半分に切ったような鐘を竹竿に吊るして、オジさん2人がカンカンカンとハンマーで打ち鳴らし始める。すると公民館の玄関からツギハギ着物を藁の帯でしめた男達が出て来た。頭をすっぽりシュロで覆い隠して顔は見えない。足もとは裸足で手にはズタ袋を持ち、ゆっくり歩き出す。

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不思議な風体の『大ガラッパ(河童)』が集落を巡り、目についた子供を袋に詰めて暴れて、最後に神社で相撲と踊りで終わるのが祭りの流れ。この日の南さつまの空は晴れて抜けるように青い。


先頭は鐘を鳴らし、その後ろを大ガラッパが歩き始める。背中に挿した笹の葉はお祓いで水難除けである。『ヨッカブイ』は水神祭りだ。歩いて向かう先は保育園で、遠目にも見える異様な集団が近づくと庭の園児がやおら騒ぎ始める。

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大ガラッパが保育園に入るや否や園内は阿鼻叫喚。声をあげ次々と子供を捕まえては、容赦なくあっという間に袋に入れてしまう。「ひゃあひゃあ」と泣き叫んでいる子の後ろでは保護者が口を開けて大笑いをしている。荒っぽいが、だからこその厄払い。手を合わせて「ごめんなさい」を繰り返す子供も、スルッと袋に入れられる。


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大ガラッパが一通り暴れると、玉手神社にゆっくり向かい出す。数年前は袋に入ったであろう、小学生ほどの子供達が飛び跳ねながら後ろを付いていく。小さな集落の中で子供と異形の者が一緒にいるという昔話のような光景をカメラマンが笑みを浮かべて、前に後ろに回り込み何枚も撮影している。シャッター音と、一斉に鳴きだす蝉の声と、鐘の音が夏空の下で混ざっていく。


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いくつかの道を曲がると玉手神社の鳥居が見える。大ガラッパは鳥居を抜けると口々に「ホゥ〜ッ、ホゥ〜ッ」と叫びながら石段を一気に駆け上がっていく。神社には土俵があり、カラフルな廻しを着けた小学生くらいのコガラッパ(子供)と小さな行司が待ち構えている。大ガラッパは、まだ周りで子供を捕まえたり遊んだりしている。土俵の上では相撲が始まっている。最初はコガラッパ同士が戦い、勝ち残った一番強い子が大ガラッパと相撲で勝負をする。向き合って取り組んでコガラッパが何度か勝ち、負けた大ガラッパは力なくゴロリと転がる。周りの大人達が、手を上げ声をあげて喜んでいる。

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関東は、あまり神社で土俵は見かけない。四国出身の自分には神社と土俵はセットで馴染みがある。ゆったりとした雰囲気が流れて、この九州の地で遠い昔の夏に紛れ込んだような懐かしさを揺り起こされる。

最後に大ガラッパが土俵を囲んでゆらゆら踊り始めた。『十八度踊り』という、ゆるい振り付けの踊りが終わると祭りは終了。まだ全然午前中で、9時から始まって2時間半ほどしか経っていない。しかし時間の流れが違うような濃い奇妙な感覚に包まれている。

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ヨッカブイ祭りのゆるやかな魅力が、見に来た人を包んでしまう。いずれ袋に入った子供も大きくなったら異形の存在になり集落の子供を見守るのだろうか。ゆっくり長く続いて、また見に来れたなら幸いである。


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今年は水難避けのご利益を貰ったので、安心して帰りのフェリーに乗ろうと思った帰りの一本道はとても暑かった。



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