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【note限定エピソード】ハレの日は、とびきりの服を着て。 ―昭和のおしゃれな若者たち

明治政府の欧化政策や「大正デモクラシー」を端緒として、和装に代わり洋服が庶民の間に普及し始めたのは、今からおよそ100年前。以降、大正期の「モボ・モガ」から、戦後の「落下傘ドレス」、イギリスのファッションモデル・ツイッギーの来日で火がついたミニスカート、アイビールック、ヒッピーブームとパンタロン、竹の子族、バブル期のワンレン・ボディコンなど、流行にうるさい若者たちは常に「最新のファッション」を追い求めていました。新居浜や西条にも、そのような若者はたくさんいた様子です。今回は、そんな当時の若者たちの「おしゃれ」についてです。

西条は、お祭りがお正月やから。みんな着飾って。だから、この店出した昭和の時代は、ばかみたいに売れてたんよね。だからもう、結局おんなじ物を売ると、祭りになるとみんな集まるでしょ、あっちを見ると「ああ、あの人、うちの服きれいに着てくれる」と見つけるわけ。で、こっち見たら「ああ、おんなじ服着てきた」言うて。売ってるのは自分やからね、分かるの。わー、それ以上近づかんといて、いうて。この場所離れたい、いうて思う。

こう語るのは、西条商店街まちづくり協議会の会長で、西条銀座街商店街にブティック「シーハー」などを構える越智將文さん。商店街が一番栄えていた頃を知る身として、商店街の振興に奔走する「シンガーソングテイラー(歌う洋服屋)」です。
若者たちが洋服を買い求める場所は、いまでこそネットショッピングや大型ショッピングモールなど多種多様に存在しますが、昭和時代は主に地元のブティック。越智さんのようなブティック店主は、若者たちのおしゃれを支える側でした。

これくらいの大きさの店(だいたい学校の教室1つ分くらい)でも、10人くらい店員さんがいましたからね。どこもふつうに。とくに婦人服屋は。従業員だけでそれくらいなのに、そこにお客さんも来るから。もう、毎日バーゲンセールしよるみたいなもんよね。
で、この「シーハー」でいうと、昭和56年にオープンして、最初の10年、途中からバブルになったから、あの時代の売り上げはすごかったですね。祭りに支えられて。どこも、レジが万札でつまる。お札でレジが開かなくなる。とくにお祭り前なんか、もうすごかったですよ。松山にまで轟いてましたからね。西条では服が足りない。祭りの頃になると。西条の女の子、中学生高校生たちが、祭りのときに服がいるから、いうて。

親の代から続く衣料品店経営の中で見てきた、数々のファッションブームの栄枯盛衰。多くの西条市民にとってハレの日に違いない「祭り」の日をピークに、「置けば売れる」「西条では服が足りない」と言わしめるほど、老若男女、とくに若い女性たちがこぞって地元商店街のブティックで服を買い求めた、昭和の時代です。

昔の日本映画を見るのが好きなんですけど、『ミナミの帝王』とかに描かれてる時代なんかは、ここらの商店街がピークの頃よね。みんなミニスカートはいて。女の人らがキラキラしてて。そういう女性たちに、婦人服屋は支えられてましたからね。このへんは田舎だから、都会のような‘ちゃんとしたブルジョア’はいなくて、OLというのも少なくて、堅い企業の女の人か、先生か、公務員か、という感じの人はお金を出せる、という感じ。「なんで一生懸命仕事しよん?」と聞いて「服買うため」とみんなが答える感じだったんだから、最高の時代よね。みんな働くのは、服買いたい。ええものを着たい。いい化粧品を使いたい。女の人はずっとそうだった。戦争終わってから、ずーっと高度成長してる中だったからね。

「服を買うために働く」若者たち。数々の‘ファッションブーム’を消費する側だったそのような(かつての)若者たちの一人は、一方で当時をこう回顧します。

ぼくらのときはね、ラッパズボン、ベルボトムというようなのが、何センチ以上あったらいかん、25センチか30センチだったと思うんやけど、それ以上あったらいかん。制服のズボンも広げとったんよ。で、校門に先生が立っとって、測るんですよ。それで、広かったらアウト。高校1年のときはマンボズボンいうて、細いのが流行って。おふくろに直してもらって。それがちょっとしたらラッパズボンにころっと変わって、ぶかぶかのを履くのが流行って。細いベルトも流行ってね。
ジーンズもね、「リーバイス」とかが流行ったけど、実際に自分で買えるのはあんなのではなくて、コットンの‘もどき’しかなかった感じ。本格的なのはなくて、ジーンズもどきを作業服のお店とかで買ってね。
いろんなおしゃれをしたいから、男の子は吊りバンドが流行ってたね。裕次郎の映画なんかを見てたら、吊りバンドしててかっこええなあって。で、普段は中にしてるんやけど、体育の時とかに服を脱いだ時に、「どうだ」と見せびらかしたりね。

大量消費の時代から、多様性の時代へ。インターネットの普及やSNSの急速な浸透で、興味や流行の多様化・細分化はさらに進み、「みながこぞって買い求める」という対象が生まれにくくなってきた時代です。「どうだ、と見せびらかす」という行為も、目立つことが’諸刃の剣’になることの方をまずは危惧する時代かもしれません。
当時のファッションが周期的にリバイバルブームを迎える中で、当時の若者のこのような直情的なメンタリティにも目を向けたいな、と思うエピソードでした。

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2022年1月15日に開始した展示も、3月6日(日)に最終日を迎えました。週1回を目指して更新してきた【note限定エピソード】も、今回の更新が最終エピソードとなります。
それぞれのエピソードをお読みいただいた方、リアクションをいただけた方、誠にありがとうございました。

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