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『新居浜OL物語』―待ち合わせは、いつもの『悦』で。

『男女七人夏物語』『抱きしめたい!』『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』―
これらはすべて、昭和の終わりごろから平成の始めごろにかけて社会現象となった「トレンディドラマ」のタイトルです。浅野ゆう子、浅野温子の「W浅野」や中山美穂、織田裕二、三上博史、石田純一などの「トレンディ俳優」たちが出演し、恋愛主体の少女漫画の王道ストーリーのような、都会に生きる男女の恋愛やトレンドを取り上げた華やかなドラマでした。
この文章のタイトルは、このようなトレンディドラマを存分に意識して『新居浜OL物語』。平成のはじめごろに新居浜で銀行員をしていた、ある女性のエピソードです。

私、平成元年に高校を卒業したんですよ。で、高校生のときにその、名前は忘れましたけど、デートと言うか、まあグループデートみたいな感じで行って。そのときに初めてカフェオレを頼んで。漫画で見て飲んでみたい、と思って。そしたら、カフェオレボウルで出てきて。取っ手がなくて、わあ、これどうやって飲むん?と思って。憧れの先輩もいるのに、これ?(ボウルを抱えて飲む仕草)と思って。もう二度とカフェオレは頼まない、と思って。
あと、パフェも食べた跡が汚くて、もうデートでは頼まない、と思いましたね。それが高校のときの思い出。

憧れの先輩を面前にして、カフェオレボウルで出てきたカフェオレや、パフェの食べ方に四苦八苦。ごく普通の高校時代を過ごした彼女は無事、大学卒業後の平成5年に就職。就職先は、「愛媛相互銀行」から名前を変えて間もない、愛媛銀行でした。

ほんとに、変わりましたね。ひめぎんはこの辺にありましたし、明屋書店ももうなくなりましたし。
夫と出会う前は、昼休みに行って、本棚を奥からスタートしてこれだけ見て、終わった後まだ開いてたらこれだけ見て、次の日これだけ見て、というような。レコード屋さんもあったので。マルワレコードか。そこまで行ってレコード見たり。
ほんとは外に出ちゃだめなのに、「ちょっとパン買ってきます」て言って出て。「ちょっと長いなあ、パン買いに行くのに」と言われたりしてました。あのころは、歩いて行ける範囲にあったから。なんでも。
あと、銀行で失敗してお客さんに謝りに行かないといけないときには、田岡秋月堂のゆずせんべいを買いに行かされて、お客さんに謝りに行かされる。何度も、田岡秋月堂行きましたね。上司がポケットからお金出して、「これでせんべい買ってけ」って。すごい出来が悪かったんで、一番おせんべい買ったと思いますね(笑)

愛媛銀行新居浜支店は当時、昭和通りの南側、いまの「デイサービスひうち」のあたりにありました。その東隣には「明屋書店」。さらに東に少し行くと、銀ビル内に「マルワレコード」。マルワレコードから道を挟んだ北側に、せんべいの名店「田岡秋月堂」。まだまだ店舗がひしめき合っていた昭和通り。「歩いて行ける範囲になんでもあった」にも納得です。
さて、そんな彼女にも運命的な出会いが。のちに人生の伴侶となる、「キラキラのオーラが出ていた」という男性です。

『悦』、めちゃめちゃ行きました。夫が昼休みに会いに来るので、待ち合わせをしてお茶飲んだり。喫茶店じゃないけど、「そば八」でお蕎麦食べて、支店長に見つかって、二人分払ってもらったり。
(昼休みにここまで会いに来るって素敵な話ですね。)
主人はバイクに乗っていたので。河川敷で桜を見ながらパンを食べたり。
私も、会う時間がなかなかないので。だから出勤前に夫のアパートに行ってちょっとだけ会って、それから出勤してというような。「悦」はデートではなくて、昼休みに行く感じですよね。銀行員って、いつ終わるか分からないから。お金が合わないと帰れないから。だから、夜は待ち合わせをせずに、家に来たり、彼の家に行ったりしてましたね。

喫茶『悦』は、当時の愛媛銀行の西隣、昭和通りに沿いにあった喫茶店。昼休みにバイクで会いに来てくれる「彼」との、行きつけの喫茶店でした。

今でも、柔和な笑顔と気さくな人柄で多くの人に愛されているこの女性。いまでも、「家でも職場でもない居場所」として様々な場面で、喫茶店に通いつめています。

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