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元祖「女子ウケ」?の赤い屋根―彼女が彼氏を連れていく『じゃがいもの家』

新居浜方面から国道11号線を松山方面へ。いよいよ桜三里の山道がはじまる、という麓に、まずは太い筆文字で店名が書かれたラーメン屋。しばらくすると、青色のコンビニ。そしてその先に、かわいらしい赤いとんがり屋根のお店。お店の佇まいを見ても、看板に書かれた丸文字の書体を見ても、一目で古くからあるお店だと分かる、アンティークな雰囲気。これが、今回の主役『じゃがいもの家』です。

自分としては、「ポテトハウス」としたかったんですよ。じゃがいも料理がメインで。でも「ポテトハウス」いうたら、ありふれとる感じがして。田舎でそんなのつけんでいい、田舎は田舎くさい感じでいいかなと思って、『じゃがいもの家』。ああ、そうしようと家内となって。一回聞いたら笑いが出るような。

マスターは、店名の由来をこのように語ります。一回聞いたら忘れ難い、笑いが出るような店名。多くの方が『じゃがいもの家』と初めて聞いて抱く印象がほぼそのまま、店名の狙いでした。見事なネーミングです。
店名の話題の中で、同じく「一度聞いたら忘れない」店名としてマスターが挙げたのが、別のところで紹介した『雷のへそ』。今の四国中央市にあった名店でした。

あそこは緑がテーマで、『雷のへそ』。そんな名前つける時代なんよね。そんなのが珍しくていい。『じゃがいもの家』もね。だから、普通のコーヒー屋さんというイメージではなくてね、やっぱり、笑いが出るような店にしようとね。『雷のへそ』とか『とんがりぼうし』とか、そういうのがいっぱいできたんよ。店名にインパクトのある。で、女の子に好かれる店にしたかった。だから、赤と白。『雷のへそ』は緑と白。とんがり屋根をつくって、ちょっとフランスの郊外にあるような、外観にして。『雷のへそ』とおんなじ人。ここのデザインは。一緒のころに建ってるんですよ。

新居浜からのドライブにちょうどいいところにあった、と多くの方に記憶されている『雷のへそ』。あちらは土居で、こちらは丹原。あるいは、あちらは緑で、こちらは赤。対になっているように見える両店に共通していたのは、車を持った当時の若者たちが競うように集ったということ。中でも『じゃがいもの家』はとくに、若い女性から絶大な支持を得ていました。

この店は、女の子のための喫茶店として始めたんよ。
だいたい、女の子が行けるような喫茶店がなかったんよ。喫茶店と言えばたばこがセットで、男が彼女を連れてくるイメージ。でもここは反対にね、女の子が彼氏を連れてくるイメージでね。ドライブで松山から来てもね、彼女の方が「『じゃがいもの家』行こう」いうてどんどん来てくれるんよ。女の子が、クレープとかなんとか頼んでくれて。ここらだとまだ、ワッフルって何?クレープって何?ていう時代。都会の子は知ってるんやけど。分からんわけではないんやけど、食べたことがないという。ホットケーキみたいなもんよ、いうて。これは街で流行っとんよ、いうて。

時代はまだ、デートと言えば彼氏がリードして、お金も全部出す、というのが主流の時代。そんな中でも、「女の子が彼氏を連れてくる」という、今でいう‘女子ウケ’を狙った稀有なコンセプトをもってヒットした『じゃがいもの家』は、マスターが「恥ずかしい」と感じるほど、テーマカラーの「赤」を前面に押し出した店舗外観が特徴の一つでした。

赤と白がね。なかなか、赤い屋根のお店というのがなかったんですよ。赤い屋根の店ということでは、この辺では一番に作ったはず。いまはいっぱいあるけど、一番に作ったはず。自分がこの店に出てくるのが恥ずかしかったんやけん。できたときに「赤は赤でもその赤、いかんわあ」と思ったんですけど。「いや、これが純粋な赤です。」と言われて。
走ってたら嫌でも目について。でも、外国だと田舎にこんなのが建ってる。で、塔がついてる。ああ、そうなんやと思って。ちょっと建ってる、というふうなのがよくて。

赤い屋根に白い壁。入口付近のとんがり屋根。店内にもカウンター部分に赤白のストライプがあしらわれています。マッチの柄と同様、障子の格子を意識したという窓枠はなんと、開店当時は赤く塗装されていたとか。とにかく、「恥ずかしい」ほどの鮮やかな赤。

内装も什器も、各席のペンダントライトも開店当時のまま。赤い屋根も、それが遠くから目に入ってくるのも当時のまま。『じゃがいもの家』は今でも、そんなアンティークな雰囲気を優雅にまとって、桜三里のふもとで元気に営業を続けています。

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