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「タバコ」


※この小説はブランド「gallemy(ギャレミー)」によるトレーナー

「Cigarette's Sweatshirts」のコンセプト小説になっております。

ぜひ実際のgallemyの商品もご覧にいただけると幸いです。

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「きっと初めてで多分色々不安だと思うんだけど、うん、僕が幸せにします。付き合ってください。」
「はい。こちらこそ。」


真面目な顔をしてみたけどお互い恥ずかしくてすぐに吹き出した。

眠らない街渋谷に構える大きな大学、その1番高い場所、誰もいない静かな狭い空き教室。夕暮れ、役目を終えた太陽がお月様とバトンタッチを交わす頃、カラスの鳴き声と246のクラクション。そこで私たちは約束を交わした。世界に響くことのないボリュームで、誰にも触れられない空間で。
オレンジに照らされる君が照れながらつぶやく。


「ほら、僕たちがずっと一緒にいたらさ、それだけで世界に抗ってる気がしない?」




私の恋人は私につくづく優しかった。

伸びきらず跳ねた襟足、低めの身長に頼りない体格。ナヨナヨした喋り方は男らしいとは程遠い。先行する憧れに置いてけぼりで、服に着られたそのファッションは少しダサくて愛おしくあった。

彼は私のことが手にとるようにわかるようだった。

嫌なことはしない、余計なことは言わない、欲しい形の愛をくれる、たこ焼きを食べる時マヨネーズをおかない、黙ることの愛。

愛とは何か。形ない概念的それをグーグル先生に尋ねたところで返ってくる答えはどっかの誰かが語る純度100%の綺麗事だ。結局、自らの体験したことにしか信頼などなく、誰かの写し出す愛は川岸に散らばる石ころみたい。

好きなことをしてくれるより、嫌いなことをしないでいてくれる方がよっぽど愛だと思うと彼は言った。

彼のこと彼のすることを嫌いだと一瞬でも思ったことはない。いや、あっても彼だからと笑って許せてしまうような、自分への容認を司るところが彼にはあった。そんなところが唯一苦手だったのかもしれない。

笑っているのに冷静で、ふざけているのに物事をよく見ていて、数ある言葉から最適解を私に与える。消去法でしか考えをくれない君は本当はどこを見ていたのだろう。

ただ私は嫌いなことを2人で確かめたかった。
喧嘩した後のセックスを調べたかった。
彼の作るダンスホールで踊る私ははしゃいでいた、酔っていたかったのだ、不安になる前に、



知ってるよ
君が私の嫌いなタバコを吸ってるの






彼はよく笑う人だった、犬みたいに笑う彼が可愛かった。
可愛いと思った時には沼だ、可愛いは正義で可愛いは地獄だ。

私の話す思い出はありきたりでいつもオチのないつまらない話を幸せに変えてくれるのはきっと彼しかいない。でもこれもあれも消去法のゆえ。

綺麗に包装された箱の中身が気になることに理由はいらない。気になるのだから仕方がない。中身を取り出すためにビリビリに破かれた包装紙に誰が罪悪感を抱くだろう。中身を彩るためのそれなのにどこまで破いても中身が見当たらないんだ。

つき当たり、沈み込む、彼のコートは甘ったるい煙が香る。

気づかないふりをする私を、気づいているあなたも知っているよ。
私たちいつから何も言えなくなったんだっけ。
嫌いなことはしてほしかった。
だってさ嫌いなことだってあなたといたら好きに変わるかもしれないのに。

長所で好きになり、短所で恋をした。私の愛はそこにあって、私の綺麗事とはつまりそういうことで、君のいう愛と私の綺麗事は決して交わることのない平行線を辿る。「交わりたい」と願うほどに角度を変えるこの線に、気づかないフリをして同じ角度に逃げていく。

彼は私のことが手にとるようにわかるようだった。近づき方を知るものは遠ざかり方まで心得ている、彼の用意したフロアで踊る能しかない私は無様で情けなく滑稽だ。一緒に踊ろうってそんな一言を言えないのが、ただ滑稽なのだ。




あなたと絡める夜は、嘆かわしくも1番正気でいられる時間だった。

抱かれている時だけ本気で好きでいてくれる気がして、腰を揺らす必死な彼の顔をずっと見ていた。

指を絡ませ、首筋をなぞって、垂れ流しのサディスティックにノイズ混じりのクラシック。力任せに差し込まれる人差し指、微かに残るタバコの匂いが好きで、そのままそっと噛みつき舌を絡める。

もっと奥まで掻き乱しておくれ
匂い(あなた)が私に染み込むように。




歩道橋の上を振り返り、焼けつくような夕日、今日の太陽は月にその場所を譲らんと空にしがみついていた。カラスの鳴き声と246のクラクション。

あれから2年が経つ頃、
猫好きな彼に合わせ猫カフェにいこうという私を優しく断り、もっと優しい声で別れを切り出した。

あの日、あの夜、確かに君は泣いていた。

君は私のことを今でも手に取るようわかっているつもりだろうか。わかっているんだとしたら、間違ってるよ多分。

傍観者の如く乱れぬリズムで鳴らすセミの音、ナヨナヨした彼の泣き声は夏夜の湿った空気とマッチしていた。

私が欲しいのは君の涙じゃなくて、今から泣こうとする私を抱きしめる温度だった。ありがちな別れのわけを語る君に最後まで騙される私じゃないと思いたかった。

他人事のようにいつか君が語った恋愛論

好きな映画を見て、好きな小説を読んで、好きな曲を聴いて、たくさんの僕の好きなものを誰かが好きになってもその誰かのことを僕は好きにはならないと思う

他人事に聞き取る私にすでに呆れていたんだろう


運命の人は彼ではない、いやだけではない

彼も私の運命の中にある人で

きっと運命の人は他にもいて

降りかかり生きていく人生の中で

運命の人は1人じゃない、何人もいる、きっと


依存できるものがある暮らしは安心感を生み、ひとり立ちを抑制する。

「何かに寄りかかって生きたい人生ですよっと」








109の2階しゃがれた喫煙所

照らされるスクランブル交差点に吐き出した煙

私ばかり置いてけぼりのこの街で

そういえば彼はいつも独りだった。

孤独という共通点はパラドックスを含んでいて、なんか好き

何かを燃やすのが好きなんて下手な理由で

今日も甘ったるい匂いを纏う









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あとがき
キャスターマイルドってタバコは甘い匂いがするようで
109の2階の喫煙所が好きだったんですけど
渋谷をみんなよりほんの少し高い位置から見れて
109って渋谷の中心なのに喫煙所あるところとか
2Fってとことか
でもコロナの影響でなくなっちゃったみたいですね
渋谷で好きな場所が僕にも一つ減ってしまいました
ここまで読んでいただきどうもありがとう
また書きます

赤髪くん

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