「ハノイの塔」
※この小説はブランド「gallemy(ギャレミー)」によるパーカー
「Hanoi's Hoodies」のコンセプト小説になっております。
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今から5000年まえ,インドのベナレスという町に大寺院があり,そこには世界の中心といわれるドームがありました。その中には台が作られていて,その上にはダイヤモンドでできた棒が3本立っていました。インドの神ブラーマは,世界が始まるときに,この棒に黄金でできた円盤を64枚さしておきました。この円盤は下が大きく,上に行くほど小さくできていて,ピラミッド状に積み上げられていました。そして,ブラーマは僧侶たちに次のような修行を与えました。
1. 積み上げられた円盤を,すべて他の棒に移すこと。
2. その際に,1回に1枚しか動かしてはならない。また,小さな円盤の上にそれより大きな円盤を乗せてはならない。
3. すべてこの3本の棒を使って移すこと。棒以外のところに円盤を置いてはならない。
ブラーマは,この円盤がすっかり他の棒に移った瞬間に,世界は消滅してしまうと予言しています。5000年たった今でも,寺院ではこの修行が続けられているそうなのですが・・・
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世の中の大抵に意味なんてなくて、その無意味を享受し愛すことのできる生物を人間と呼ぶ。
であるのなら
もしかしたら私は人間ではないのかもしれない。
目の前に広がるダイヤモンドの棒、手に触れる黄金の円盤を見下ろしふとそんなことを思う。
完成から10分の1にも満たないそれをひとつ、また一つと隣の棒に移動させる。
「お姉ちゃんまだそれやってるのお??」
学校から帰ってきた小学生の妹が言う。
人間の権化かのようなそれはランドセルを放り投げ、私に寄り添う。
「これ楽しいのお??」
「そんなに楽しくないよ。」
少し笑ってみせる。
「でもね、私たちがこんなおっきいお家に住めるのも、素敵な学校に行けるのも、これをしてるおかげなんだよ。私たちは5000年前この修行を授けられた僧侶の唯一の子孫だからね、国からいっぱいお金もらって、この塔を完成させなきゃいけないの。」
「ふううん、でもこれ完成させたら世界が終わっちゃうんでしょ??」
「そうだね。人間は予言だとか言い伝えだとか伝説みたいなものがとにかく好きなんだよ。そのためにはいっぱいお金だってくれるんだよ。」
「世界が終わっちゃうのに変なのお。よくわかんないけど、遊ぼうよお!!」
裾を引っ張り上下左右に揺らし可愛くごねてみせる。
「じゃああなたがこれやってくれる??」
不敵な笑みを浮かべ妹に告げる。
「すいません、引き続き頑張ってください。」
どこで習ったんだか分からない妙に礼儀正しい日本語で奇妙なほど丁寧な角度で腰を曲げ頭を下げた。
脱ぎ捨てられた靴を拾い、行ってきますと叫ぶ。宿題のせずに遊びに行く彼女の後ろ姿はいつもやけに眩しい。
“お姉ちゃんなのだからあなたがやるの”
10年も前になるか、
一歳になる妹を目の前に母親がわたしに告げた
怒鳴っていたような気もするし諭したような気もする
当の母はこの運命から逃れようとお金だけを持って早々に姿を消した。
残された呪いのような “それ” は10年経ってもなお私の中にへばりついてくる。
いっそのことほんとうに体を操り呪って欲しいものだ、言葉による呪いとは呪術師によるある種の他人任せ、わたくしごとで全てどうにでもなってしまうからタチが悪い。
諦めて家を出てしまえと言うわたしがいれば、では妹はどうするのだ、そのまま置いていくのかというわたしもいる。
ジレンマに挟まれた末にここにいざるを得ない決断に至るのであれば、いっそ思考など捨て去っておくれよ、体を操りこの無意味を享受してくれ。
始めることより、終わらせることの方が、如何なる場面でも容易くはないのだ。
外は嫌なほど眩しい夏模様、似つかわないニットを着たこの部屋は暗闇のままだよ。
そっと暗がりが静寂と混じり合った。
「えーこちらまもなく世界が終わるとされているハノイの塔、完成まであと一歩とされています!」
「世界消滅まで残りわずか!歴史的な瞬間を我々は目にします!」
「約5000年続いたハノイの塔!ついに今終焉を迎えようとしています!あちらの女性が持つ金の円盤を下ろした瞬間世界が消滅へと導かれます!」
夥しい数のキャスター。全世界へと繋げられるカメラの数々。花束の如く向けられるマイクロフォン。暗闇を照らすフラッシュライトが太陽の如くわたしを照らした。
その白く輝く光の向こう側に、かつての母が涙を流しながら笑っていた。
「きてくれたんだね...」
目線を合わせて、少し微笑む。霞ゆくフラッシュライトから視線を下げ、意を決する。
「では、いきます...」
観衆の期待に応えるように、合図を放ち、右手に掲げた円盤をゆっくりとおろす。
期待という名の静寂が世界を包む。
焦ったい気持ちを大いに購入し、その期待を噛み締めながら、円盤を重ねた。
カコン
金属音が響き渡る。
空気が揺れ、反芻して聞こえたそれが耳に残り鳴り響く。
息を呑み、世界の終わりを待つ彼らをじっと見つめ、わたしも静かに目を閉じた。
身体中に締め付けられた縄が解かれ、力なく倒れ込む。
やっと、ようやく人間になれそうだ。
どれほどの時間が経ったのだろうか、
しびれを切らした1人のキャスターが口を開いた。
「これは......何も......起きません......」
正しく発音された言葉はわたしの元へは届かなかった。
聴覚よりも先に視覚が刺激され、思わず目を開いた。
瞳孔を刺激する白く荒れる嵐。夥しい数のフラッシュが当てられ、暗闇が徐々に白く侵食される。聴覚が再生された時には、大軍なる足音が忍び寄り、静寂は怒号に変えられていた。
「何も起こらなかったようですがこれはどういうことでしょうか!!」「世界の消滅は起こらなかったようです!!!我々の期待は裏切られたのです!」「どうしてくれるんですか!!!何も起こらなかったじゃないですか!!!!」「変な期待させるんじゃねえよ!!!!」「金もらってたんだろ!?全部返せよクソが!!」「なんも起こらねえならお前なんている意味ねえんだよ!!!」
突きつけられるマイクはやがて拳銃へと姿を変える。無数の銃口が突きつけられ、今にも解き放たれてしまいそうだ。カメラのレンズからスライム状の液体のようなものがニョロニョロと溢れ出し、それはキャスターの形に整えられ、彼らはまた次々と拳銃を向ける。
「お前のせいだ!」
「お前のせいだ!!」
「お前のせいだ!!!」
「お前のせいだ!!!!」
オマエノセイダ。
狭い部屋の中、溢れんばかりの人で満たされ、押し寄せる。息もままならないそこで、皆一様にただ私へ殺意を向けるのみだ。
怒号地響き沈黙対照的それ、繰り返される声、そこから皆がタイミングを合わせたようにスッと音が消える。美しささえ感じるそれは森閑としたしじまを味わせた。
次の瞬間、白い閃光の束と共に、発泡音が鳴り響く。視覚聴覚は乱れ狂い、その音はスローモーション特有の低い音となり私の耳を介す。真っ直ぐ額へと向かう弾はゆっくりと歪み、けれども確かに私の額へ、ゆっくりゆっくりと向かう。
目の前で起こりかける自分の死にただ体は動かないまま。
ゆっくりゆっくり自分の死を待つだけだ。
もう.....
「やめて!!!!!!!!!!!!」
夏に似つかわしくもないニットのせいか手に持つ円盤は微かに汗ばみ、額から机へと一滴の汗が顎をつたい流れ落ちる。垂れて落ちたその先にはダイヤモンドの棒、完成から10分の1にも満たないハノイの塔が並べられていた。
現実と夢
身に起こったそれを理解するにはさほど時間は掛からなかった。一抹の安堵を噛み締め、額に溜まる汗を拭いた。
「お姉ちゃんまだそれやってるのお??」
学校から帰ってきた小学生の妹が言う。
人間の権化かのようなそれはランドセルを放り投げ、私に寄り添う
「これ楽しいのお??」
「そんなに楽しくないよ。」
少し笑ってみせる。
あれ....
「でもね、私たちがこんなおっきいお家に住めるのも、素敵な学校に行けるのも、これをしてるおかげなんだよ。私たちは5000年前この修行を授けられた僧侶の唯一の子孫だからね、国からいっぱいお金もらって、この塔を完成させなきゃいけないの。」
なんだっけこれ....
「ふううん、でもこれ完成させたら世界が終わっちゃうんでしょ??」
「そう....だね...?人間は予言だとか言い伝えだとか伝説みたいなものがとにかく好きなんだよ....そのためにはいっぱいお金だって....うん....あれ...」
「世界が終わっちゃうのに変なのお。よくわかんないけど、遊ぼうよお!!」
裾を上下左右に引っ張り可愛くごねてみせる。
引っ張られた袖を成すがままにされ、ただじっと前を向いていた。
意味なんてものを考えた時、突き詰めるとその無意味さに気づく。
光り輝く外で、やはりこの部屋は暗いままだ。
先ほどの汗が乾き、今更少し冷えてきた。
どうやらまだ、私は人間になれそうもない。
あとがき
他人からの期待にちゃんと応えなきゃと、そう思う自分がまたプレッシャーに感じるときなんてないですかね、思ったよりも世の中自分のことなんて誰もみていないと思いたいけど、それでも気になる周りの目は必ずあって、そんな面倒なことが頭ん中ぐるぐるぐるぐるしちゃう時ってあるんだと思います。
僕は日々生きているだろうか、私はやりたいことをしているのだろうか、楽しくもないのに笑っちゃいないかい、そんなことしてたら毎日がずっと時計の中に閉じ込められちゃうよ。って。
そんなこんなが伝わって、何か明日から少しでも前向きに生きていこうと思えたんなら嬉しいです。
表向きにPRしてないためにgallemyというブランドが小説から服を作っているなんて思う人はほとんどいないと思う。だからこそ、今回ここまで読んで、そして今これを読んでくれてるあなた、とてもとても感謝申し上げます、こんなところまできて拙い僕の小説を読んでくれてありがとうございます。
また書きます。
赤髪くん
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