「ボードビリアン」 『パルプ・フィクション』:創作のためのボキャブラ講義35

本日のテーマ

題材

「パイロット版に出たんだって?」
「人生一度だけの栄光」
「どんなやつ?」
「女秘密エージェントの話。タイトルは『フォックスフォースファイブ』」
(中略)
「ナイフよ。ふふっ。私の役はレイブン・マッコイ。サーカスの芸人に育てられたっていう変わった設定だったのよねえ」
(中略)
「それと古いジョークをいっぱい知っているのよ。ボードビリアンだったおじいさんに教えてもらった古いジョーク。もし上手いことシリーズになってたら毎回そのジョークをひとつ言うはずだったの。ドラマのトレードマークにする予定だったのよ」

(本編40分ごろ)

意味

ボードビリアン vaudevillian
 軽演劇の演者。喜劇俳優。


解説

作品解説

 タランティーノの有名な犯罪映画のひとつが今回取り上げる『パルプ・フィクション』だ。複数の登場人物の視点と時系列がシャッフルされた構造と、ある種の冗長性がある会話劇が特徴的な一作である。

 場面はハンバーガー好きで聖書を引用する黒人の殺し屋、ジュールスの相棒であるヨーロッパ帰りのヴィンセントの視点で描かれる。ヴィンセントは自身のボスの妻ミアの世話を一日任されることとなる。ボスのマーセルスは愛妻家で、ミアの足を揉んだだけの男を突き落として半殺しにしたほどだという。ヴィンセントにとってこの仕事はマーセルスに忠誠心を試されているものだと考えている。

 ミアをつれレストランに行ったヴィンセントは、そこで彼女と会話をする。それが題材の場面で、ミアがテレビドラマのパイロット版、つまり単発試作版に出演していたという話を聞いている。そのドラマの具体的な内容と、ミアが演じた役が彼女自身から語られているわけだ。この女秘密エージェントの話は後に『キル・ビル』のネタ元になったなど、本作には多くの裏話があるようだ。

物語の難解性と冗長性

 さてミアが言うように、この古いジョークはドラマの企画が成立した場合、一話ごとに何かしら挟む予定だったようだ。しかしパイロット版限りとなったため、ミアはこれらのジョークをひとつしかしらないし、たいして面白くもないという。問題のジョークは作中で開示されるが、実際面白くない。吹き替えだから、というのもあるかもしれないが。

 本作の特徴は時系列シャッフルによる難解さと、会話劇の冗長性にある。その点で言えばファスト映画、倍速視聴がある程度行われうる現代では評価が難しい映画と言えるかもしれない。ある種こうした無駄と弛緩を楽しむのが本作だと言える。一方で時系列のシャッフルはむしろ再視聴性を前提にしたもので、これはビデオショップで勤務し、テープでの映画視聴を週間としていたタランティーノらしい、といわれることもあるようだ。

 実は冒頭シーンと最後のシーンで、ある登場人物が映り込んでいたり。まあそういう仕掛けを楽しむ映画だと言える。

作品情報

『パルプ・フィクション』(1994年製作)


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