『暗号学園のいろは』大変なことになる:創作のための戦訓講義20


事例概要

何があった?

※『暗号学園のいろは』4巻刊行記念イベントでたいへんなことになった。

当時の私見

一話連載時、単行本一巻時点のレビュー

個人見解

西尾維新×ジャンプとして

 『めだかボックス』に続く西尾維新原作漫画として連載されたのが本作である。メフィスト賞作家ということもあり奇をてらった作風が目立つ作者だが、実のところかなりのジャンプフォロワーらしい仕草も見せており、王道展開などに強い執念もうかがわせる。

 そんな作者の前作『めだかボックス』も西尾維新らしいキャラクターが多数登場。特に生徒会戦挙編から登場する球磨川というキャラクターが人気で、彼の登場からめだかボックスは本番とすら言われている。

 本作も西尾維新らしい外連味のあるキャラ、展開、そして暗号と言葉遊びが仕掛けられ、西尾維新を普段摂取しない読者にもジャンプの漫画形態ということで入りやすい一作になっているに違いない。

ミステリ×戦争

 西尾維新はこれまで、エンターテイメントに特化して作中で社会問題を扱うことはほとんどなかった。ゼロ年代特有と言うべきか、特異な世界観を展開する作者の作風からしても、社会問題を織り込む余地があまりないという事情もあった。ところが本作は戦争をテーマとしており、当初それはフレーバー程度のものかと思っていたが、今回はかなり強くテーマに沿った物語を展開しているらしい。

 暗号という題材も当初は西尾維新の言葉遊びに適した題材選択程度に思っていたが、この分だと暗号という題材、戦争のために育成される子どもたちというテーマを通じて西尾維新はさらに新しい作風を開拓しようとしているのかもしれない。

ミステリ×少年漫画

 私が本作に期待しているいくつかの内のひとつは、少年漫画雑誌という舞台でミステリを扱うことである。コナンや金田一少年など他雑誌ではミステリの有名作があるが、ジャンプではあまりその手の作品は流行らない。精々がネウロくらいのものだ。

 ミステリというジャンルの欠点はその重さにある。どうしても展開を丁寧にしなければならず、週刊連載のスピード感にそぐわない部分がある。コナンなどは長期連載のため連載当初と今では週刊誌に求められるテンポ感が違う中、長期連載の土壌があるからこそミステリとしてのテンポを維持できるという側面はあるかもしれない。同じサンデーでも今から新規連載でミステリ作品をやるなら、さらなるテンポアップが求められる危険はある。

 サンデーでそれなのでジャンプはさらに入れ替わりが激しく、その中でミステリというジャンル自体がそもそも不向きだ。これはなろう系全盛のWeb小説系にも言えることだが、そこで西尾維新が自身の作風を前面に押し出しながら、少年漫画として最適化されたミステリを出してきたのに驚いた。そういう意味でも、ミステリとしても少年漫画としても今後注目を続けたい作品なのだ。

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