タイトルの付け方:創作のための戦訓講義03

事例概要

解説

ネットに無いものは「無い」

 筆者は大学院で文学研究をしていた経歴があり、その個人的経験から言っても、上記の指摘は重要であると考える。研究領域においても、ネット上で検索しヒットする論文以外の、図書館に収められた単著が顧みられずらいという話を聞き及ぶことが多い。

 実態はさておき、大学院での研究という極めてアカデミズムかつインテリな空間でさえある種この様だという認識を教員も学生も持っている。ましてや一般的な人間、特に未成熟な生徒や児童は推して知るべきだろう。

 そうした社会において、ネット外の情報にアクセスする方法を指導することは重要だが、同時にネットで検索できる情報に質のいいものを置いておく、というのも重要だ。研究を志す人間相手なら「ネット以外の情報を拾えないのはお前の能力不足だ」と一蹴することもできなくはないが、一般人相手にはそれは通用しない。特に「ナチスはいいこともしたはずだ」と思い込み、ブックレット一冊すら読み込まず作者に突撃するような馬鹿が相手では。

検索するのもかったるい

 自身の政治的主張、その根幹すら人はネグって適当に済ませようとする。趣味の気楽な読み物ならなおのこと、というのは想像に難くない。実際、多くの創作指南書ではタイトルや著者名は特徴的に、かつ検索が容易なようつけるようアドバイスすることが多い。

 例えば『書きたい人のミステリ入門』でもタイトルや著者の名前の重要性を説いている。ただし、新人賞に応募する時点ではタイトルなどの凡庸さがマイナスになることはほぼないようだ。どうせ読むし、どうせ後からいくらでも変更できるという事情もあるのだろう。

 筆者や多くの読書家諸氏にはいまいち分からないことだが、大抵の人間はちょっと興味があって本を読んでみようと思っても、検索して簡単に見つからないと諦めてしまう。そんな甘ったれに読ませる本はない! ……といかないのが商売の大変なところ。タイトルや著者名などという割と作品の本質から遠いところで諦められるのももったいないので、それなりにキャッチャーなものにするのが無難だ。

長いタイトル書いてみた

 ちなみに筆者は昔、異世界ファンタジーものを書いたときそのタイトルをすごく長くした。その名もずばり『不浄の聖女は復讐したい:無能な兄二人のせいで異世界に転生しました、女の子になって』である。ちなみにタイトル全部は暗記していなかった。

 長文タイトルは無根拠に馬鹿にされがちだし、実際馬鹿らしいというか適当に情報をグダグダ書いているだけのものも多い。ただ長文タイトルと言っても諸々の都合上、無制限に長くできるわけではなく、当然情報の取捨選択が行われる。その様は17字ですべてを表現する俳句の推敲をしているかのようだった。

 その苦労の様はブログに記してあるので読んでほしい。一見適当に見える長文タイトルも、つけるのにこれくらいは考えているのだ。まあこれほどいろいろ考えているのは少数派かもしれないが。なにせWeb小説という魔境では一話目を投稿して反応が悪ければそこで終わらせ次の作品を出す一話ガチャなんてのもあるくらいだし。

戦訓

 「芸術的なタイトルがつけられない!」と嘆く向きもあるだろうが、ぶっちゃけタイトルなんて小説の要素としてはほんの数パーセントに満たないものなので、そこを変にこだわって読んでもらう機会さえ逃すくらいならいくらでも妥協していいだろう。そもそもWebに出している時点で、そんな芸術的なタイトルが必要なほど高尚な作品でもないだろうし。

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