『野原ひろし昼メシの流儀』の意味不明さの一端:創作のための戦訓講義73


事例概要

発端

※シュールな場面が多いことで連載開始時より評価の高まる作品。ロシア料理回を作者自ら解説。

※この時点で作者の感覚が尋常一様でないことが分かる。W杯に直接言及しない理由も不明だし、時事ネタなのにあくまで発想は連載時期ではなく打ち合わせ時期である。

※いや分からんだろという小ネタ。というかシルエットも判然としないし……。

※話の流れをぶった切るような小ネタも。

反応

※時期的にこっちの方がまずい。

※実際小ネタとしても強引な割に程度が低い。

※特に昨今は新作と旧作がサブスクで並べられることも多いので、時事ネタの扱いは慎重になるべきだろう。個人的にはこうした時事ネタで「古さ」を感じるのは好きだが。

※意味不明ではあるがそのシュールさこそ本作が評価されている要因でもある。

当時の私見

個人見解

 時事ネタを含める方法論についてはいくつか宗派がある。作品に不要な場合、時が立つと読者が理解できなくなり古さも感じるため入れるべきではないというスタンスを取ることが多いように見える。個人的にはそういう古さを感じるのも鑑賞のうちだと思っているのでむしろある程度は入れていっていいと思うが、その辺は作者と鑑賞者の認識とスタンスに大きく左右される。

 ただ本作で例示された時事ネタの挿入が下手であることはおおむね同意されるだろう。冒頭、サッカー少年を見てロシア料理に意識が飛躍するが、これは2018年のワールドカップがロシア開催だということから来ている。ならばワールドカップに言及すればよく、それを避ける理由はない。時事ネタは古くなると言っても、ワールドカップくらいメジャーなものであれば気になった鑑賞者が調べるのも難しくはなく、言及ひとつで時事ネタが抱える風化の問題は概ね解決されただろう。というかこの手の不自然な言及のしなさは、風刺ネタとかでやるやつじゃ……。

 不自然なほどワールドカップについて言及しなかった割に、扱うネタはサッカー選手の名前を会話に無理やり挿入し、最後に判然としないシルエットクイズを入れるだけである。特に会話ネタが最悪の部類で、時事ネタを理解できない鑑賞者には主役であるひろしを差し置いてモブの女性二人の会話がひたすらクローズアップしているように見えるだけだ。しかもその会話が名前を挿入する都合で強烈な違和感を生じさせている。これもワールドカップに言及しさえすればある程度とっかかりが出来たはずだが……。

 それら時事ネタ挿入についての是非はあるが、そもそも本作はメシ漫画としては致命的にグルメレポートが下手だ。読んでもらえば分かるが、じっくり煮込まれてとか、いろいろ煮込んだとか、グルメ漫画なら言及してしかるべきところを適当にスルーしている。そのくせこんな時事ネタに腐心するようでは力の入れどころを間違っているとしか言いようがない。

 一方で、この計算されていないだろうシュールさこそ本作の持ち味でもあり、ファンが評価するポイントなのも事実だろう。実際こうした計算外のシュールさは簡単に出るものではないから、一定のファンが付くこと自体は不自然でもないのだが……。

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