「ナショナルアンセム」 松田青子『女が死ぬ』:創作のためのボキャブラ講義08

本日のテーマ

題材

 イースト通り二十九丁目とマディソン街が交差するポイントで、ナショナルアンセムは、手をつないでいる二人の青年を見た。
(中略)
 カップルなんてそこら中にたくさんいるけど、たくさん見たことがあるけど、こんな二人は知らない。恋ってこんなにきれいなものなのかとナショナルアンセムは驚いて、泣いた。

(収録作「ナショナルアンセム、ニューヨークへ行く」)

意味

ナショナルアンセム national anthem
 国歌のこと。この掌編集では日本の国歌を指している。


解説

作品概要

 松田青子の掌編集、つまりショートショート集の一編が今回のテーマである。ナショナルアンセム? と思うかもしれないが、この掌編集の雰囲気からまずは見ていこう。

 表題作「女が死ぬ」は物語展開のために女性を殺す、あるいはその他様々な苦境に陥れる安直な物語展開に対する皮肉である。「あなたの好きな少女が嫌い」では男性にとって都合のいい少女への視点がある。「ミソジニー解体ショー」はもろ直球、あのガールたちが同窓会を繰り広げる「ボンド」などもあり、基本的に見ての通りの批判的な掌編が多い。

 それだけでなく、猫が可愛い的な話や買い物メモみたいなものまであるけど。

 まあこうした経緯なので、取り上げる作品「ナショナルアンセム、ニューヨークへ行く」の意味するところもおおよそ分かるだろう。またこの掌編は文庫版で確認する限りでは、その前に「ナショナルアンセムの恋わずらい」が収められていることを念頭に置くべきだろう。どういう話かは……掌編だし各自で確認してほしい。

補足

 まあぶっちゃけ、ナショナルアンセムって直球で「国歌」だろうと分かるのでこれ以上説明のしようがないんだよなあ。扱った作品が掌編集だしここで終わってよくない?

 この掌編集で挙げられている「ナショナルアンセム」は無論、日本の国歌「君が代」を指している。じゃあなんで「君が代」と書かなかったのか。作者が気取ったのでなければ、日本の国歌を英語で表現すること自体がある種の皮肉だからじゃないだろうか。保守のお偉方にとっては特に。

 あとはたぶんナショナルアンセムって書けば保守のおっさんはこれが君が代のことだと分からないんじゃないかと思われたとか。知らんけど。

情報

作品情報

松田青子『女が死ぬ』(2021年5月 中央公論新社)
※『ワイルドフラワーの見えない一年』(2016年8月 河出書房新社)から改題文庫本化

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