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BPSDを事例で説明する

少し前は、認知症高齢者の「問題行動」なんて言われていましたが、最近は「BPSD」と言われています。「問題行動」と何が違うのでしょうか。
また、BPSDに対してどのように対応したら良いのでしょうか。
BPSDの意味と対策を事例を通して説明してみようと思います。

BPSDとは

BPSDの図

認知症の中核症状と周辺症状
公益財団法人長寿科学振興財団ホームページより

図を説明すると、上から、アルツハイマー病等の変性疾患が原因で
「脳の細胞が死ぬ」「脳の機能が低下します」。
それによって、中核症状と呼ばれる
「記憶障害」「実行機能障害」「見当識障害」
等が起こります。
記憶障害等の中核症状に
「本来の性格や心理症状」
「環境や人間関係」
が加わって
徘徊等の「行動症状」
興奮のような「心理症状」
が起こる事を表しています。

上から読んだだけでは、
わかりづらかったですね。

事例

事例で説明してみようと思います。
※個人が特定されないように、事例の内容は一部変更しています。

Aさんの事例

Aさんは、70歳代半ばの女性で、アルツハイマー型認知症、旦那さんとは死別していますが夫婦と子供三人の家庭を築いた方で、子育てをしながら旦那さんと家業のクリーニング店で働いていた方でした。ホームに来てからもホームの活動を自分の仕事と認識しているご様子で調理・洗濯などを行っていました。
職員や他の利用者ともうまく関係を築いていた方でした。

Aさんの変化

そんなAさんが外に出て行ってしまうようになりました。
また、今まであまりなかった他の利用者や職員の悪口を陰で言ったり、家事を「やりたくない」とやらないことも増えていました。
若いので平気で2時間でも3時間でも歩けます。
一日一回は自分で外に出ていくし、行方不明になったり、警察に保護してもらう事もありました。

そんな時私達職員は…?

そのような状態になると、職員間での話し合いは
「裏口の鍵が開いてたから、そこを閉めるようにしよう」
「ホームに鍵を掛けたほうが良いのではないか」
という論調になってきました。

ホーム長の私としては、管理的なホームにはしたくないとの思いから
「鍵を外さないのがうちのホームの方針です」
みたいな対策を言ったりするようになっていました。

Aさんの気持ち

2か月程したある日、こんなことがありました。
自分が夜勤の夕食後だったと思います。

Aさんが行ったり来たり、トイレに座ったりといつものようにウロウロと歩いていたのですが、私のところに来てこう言ったのです。

「さがらさん。もうどうしよう。私『わかんなくて』『訳わかんなくなっちゃって』『何して良いかわかんないの』」
と。
困ったような、今にも泣きだしそうな顔をして
「何もできなくてごめんね」
と誤るのです。
話を聴いて、内容を整理すると、
調理については、
「ぐちゃぐちゃになっちゃって」
「わたし変な事するから」
「やらない方が身のため」
と言います。
片づけをしている利用者さんについては
「あの人は自分勝手だから」
と言います。
職員については
「『あれやれ』『これやれ』命令される」
と。

Aさんの思考を推察すると、、

調理や片づけなどをしようと思ってやろうとするけど、「ぐちゃぐちゃになっちゃって」

自分でも「変なことをしている」感じていて
「やらない方が身のため」と思い

うまく出来ていない自分を認識させられた結果、他の調理をしている利用者さんを見て、「あの人は自分勝手だから」と考えるようになり

できない自分を認めたくないと思って家事をやらないようにしたり
難しくなった調理に対して、無理やりやらされると感じていた様です。

そこに、
主婦や家業をしてきた「今までの生き方」や、ホームで家事を行ってきた責任感から「何かやりたい」「やらなきゃ」と思っているのに
「できない」と歯がゆさが原因で

どうしてよいかわからずに歩き回ったり
何もできなくて居場所を感じられずに外に出て行く

と、私は解釈しました。

「問題行動」として捉えていた…


その言葉を聴いて私は、
一番困っているのは認知症の方本人なのだ
と強く思いました。

結局、私たちは、「出て行ってしまう」という行動にしか目が行っていなくて、出て行ってしまう結果に対して「鍵を閉めるの。閉めないの」論になっていました。

つまり、この利用者の行動を「問題行動」と捉えて、問題を防ぐ対策にしか目が行っていなかったのです。

BPSDを起こらない様にするには


では認知症の方にどのように関われば良いかというと
脳の疾患としての「中核症状」があり、それ自体は治すことができません。それなので
記憶障害(という中核症状)があっても
本来の性格を想像してケアに活かしたり
不安を感じさせない環境にしたり
「適切なケア」を提供できれば
BPSDという「徘徊」「妄想」等を起こらないようにしたり、軽減したりすることはできると言われています。

事例からのBPSD説明と対策

認知症の中核症状と周辺症状
公益財団法人長寿科学振興財団ホームページより

Aさんの行動を最初に説明した図にあてはめてみると

Aさんは、脳の変性により「記憶障害」が以前より進んでしまい、調理が思うように出来なくなってしまいました。これが中核症状です。
それに加えて
本人本来の「調理をしてあげたい」という性格に
うまく出来ない事からの「苛立ち」
本人が人の目を気にするという性格
また、
やりたいように調理ができない環境
などが加わって
「徘徊」「攻撃性」「不穏」「焦燥」というBPSDが出てしまっていたのです。

AさんへのBPSD対策

最後に、Aさんについてどのように対策したのかを説明します。
センター方式のⅮ-1シートというのを参考にして、Aさんの「できる事」を職員と一緒に調理をしながら探しました。
「やりたくない」と言っていたのにやらせるの?と思ったかもしれませんが、
「できる」家事を見つけて行い
「できない」事はそっと職員がフォローして無理強いしないようにしました。
平たく言うと
「今」できる事で仕事をしてもらうようにしました。

なぜなら、中核症状でできない歯がゆさから調理をやりたくなくなっていましたが、
Aさんが本来求めていたものは、「家事がしたい」という事だったからです。

まとめ

事例を通してお伝えしてきました。
整理すると、
認知症の方のBPSDは、本人の内的体験を表現している表れです。
それなので、本人からBPSDという形で気持ちが表出された場合は、起こった結果だけを見るのではなく、認知機能の低下が原因で本人の気持ちの中で何が起こっているのかを、探っていきましょう。

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