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管理的なホームを変えた話し(ヒヤリハット活動には気を付けるべし)

管理的なホームを変えるにはどうしたらよいでしょうか。
7年前に異動でホーム長になった時、うちのホームはとても管理的で、歳月をかけて少しづつ利用者さんを中心に考えられるホームにしてきました。
管理的になってしまっていた原因の一つとして、ヒヤリハット活動の運用の仕方が間違っていた事があげられます。
そこで今回、ヒヤリハット活動及びリスクマネジメントの考え方をまとめることで、管理的なホームにしない方法を考察したいと思います。

管理的なホーム

私が平成27年に人事異動でホーム長になった時は、とても管理的なホームでした。
どんなところが管理的だったかと言うと
以下の様な事が日常的に行われていました。

調理をしない

利用者さんが調理をしていませんでした。
グループホームとはそもそも
家庭的な環境のもとで家事などの生活行為をする事で、認知症の予防や認知症でも尊厳を持って生活する事ができるようにする」
という入居型の事業所です。
それなので、家事を行う事はグループホームに期待される機能なのですが
当時のホームでは、調理は一切行っていませんでした。
もちろん、利用者さんは包丁なんて使えません。
理由は包丁を持つ事を職員が危ないと考えているからです。

玄関に鍵が掛かっている

玄関に鍵が掛かっていました。
利用者さんが出て行ってしまう事を危惧して常に玄関の鍵は施錠してありました。
更に玄関が開くたびにファミリーマートみたいな音が鳴るようにもなっていました。

外出しない

利用者さんが外出する事はありませんでした。
職員に出るという発想自体がありませんでした。

利用者さんが立ち上がると、職員が「どこ行くの⁈」と聞く
言葉では
「どこいくの⁈」
と聞いていますが、言っている意味は
「座ってて!」
です。
本人からしたら座ってなくてはいけない理由などあるのでしょうか。

職員が管理的になってしまったのはなぜ?

職員が管理的になってしまった理由のひとつにヒヤリハット活動が考えられました。

職員に、包丁を使わせていなかったり、外出しない理由を聞くと
「決まった事だから」
と返ってきます。
どこで決まったのかを聞くと
「リスクマネジメント委員会の防止策で」
との事です。

職員はリスクマネジメントを検討する委員会で決まった事を基に動いているようです。
そのリスクマネジメント委員会で行われていたのがヒヤリハッと活動でした。

ヒヤリハット活動とは

ヒヤリハット活動とは
ヒヤリハット活動とは、ハインリッヒの法則に基づいた
一つの重大事故の裏には同じ性質の29件の軽微な事故・災害があり、その裏には事故には至らなかった300件のヒヤリとしたりハッとした事例が隠れている
という考え方で
「ヒヤリ」としたり「ハッ」とした事を小まめに見つけて
対策する事で大きな事故を防ごう
という取り組みです。
工事現場や工場などで多く取り入れられており、最近では病院や介護現場で取り入れているところがあります。

ヒヤリハット活動の罠

しかし、ヒヤリハットの活動を介護現場に持ち込むには注意しなければいけない事があると思っています。

当時のホームではヒヤリハット活動にかなり力を入れており、ヒヤリハット事例を見つけて記録に残し、月末に集計をし、集計を基にリスクマネジメント委員会を開催して防止策を作成していました。
一見しっかりとやっている様にも見えますが、運用の仕方に疑問を持ちました。

ホームでの運用の仕方で疑問に思ったのは
ヒヤリハットの対象を利用者にしている
ところです。
対象を職員のミスやホームの環境にするのならわかります。事故に至らなかった人為的なミスを見つけて集める事でミスの傾向を探る事ができるからです。
しかし、対象を利用者にしてしまうと
利用者さんは認知症が原因で失敗をしてしまうものなのに(だからホームに入っているのに)
利用者さんに失敗をさせないようにしよう
というジレンマを抱えてしまいます。
結局、認知症の方が失敗しない様にするには、調理させない、立たせないという何もさせない様にするしかなくなってしまいます。

どのようにすればよいか

ホームでのヒヤリハット活動は、対応策もよくありませんでした。
対応策が、上に書いたように、
包丁を使わせない
玄関から出さない
立ち上がらせない
と利用者の行動自体をやめさせるものになっていたからです。

その対策では、事故が起きない代わりに、先に述べたようなグループホームの本質を失ってしまします。

ヒヤリハット活動は建築現場などで行われていますが
対策が
工事をしない
とはならないでしょう 笑
工事をする事は大前提で事故を防ぐにはどうするか
となっているはずです。

ヒヤリハット活動を介護現場で行う場合も同様に
利用者の自由を保障した上で、事故に繋がらない対策を考えるべきなのです。

ホームを変えるには

管理的なホームを変えるには。ヒヤリハット活動をやめるしかない
これを理屈で話しても理解してもらえません。何度も当時の現場のリーダーにお話ししましたが無駄でした。事故がないという事実があるからです。事故が無い代わりに、利用者の自由も奪われている事に気付かないのです。

ホームでのヒヤリハット活動は、やればやる程
利用者さんの行動を抑圧する結果になる
にも関わらず、
①事故がない
②数を集めるので夢中になり易い
という点で職員が承認されてしまい、活動をする事が目的化してしまっていました。

それなので、ヒヤリハット活動の月末集計と対応策の会議を中止しました。

リーダーは納得していませんでしたが、仕方がありません。利用者さんの為です。

ヒヤリハット活動をやめた結果



ヒヤリハット活動をやめた結果、利用者さんは自由になりました。
上に書いた事はなくなり、ホームのカギは開けることができ、利用者さんは包丁を使って料理をするし、自由に動く事もできます。利用者さんの笑顔も増えました。

そして、利用者さんのその姿をご家族が知るようになります。
そうなると
外に出てしまって行方不明になっても
転倒して骨折してしまっても
ご家族は仕方がないと思ってくれるのです。
それよりも、日々の取り組みを評価してくれます。

もちろん、事故で利用者さんが痛みや苦しみを持ってしまう事は辛い事です。
しかし
骨折しても、また歩けば良いのです。また歩けるようにベストを尽くします。

予防しすぎて毎日を不自由させてしまうのではなく
一日一日を大切にできるように支援する事が
認知症の方の幸せにつながる
と強く思っています。

なぜならば
今を大切にしないケアは
明日も大切にしないからです。

日々のケアを利用者さんの為に徹底することが一番のリスクマネジメントだ
と私は考えています。

まとめ

今、介護現場ではヒヤリハット活動をしているところはかなり多いと思います。
うちのホームで行っていた活動を悪い手本として、利用者さんが毎日を充実して生活することに活かして欲しいと思い書いてみました。
私の実感としては
認知症ケアにおいては
利用者さんは失敗してしまう事の方が多く
事業所は失敗を大らかに受け入れられる場所であるべきです。
それなので
ヒヤリハッと活動を行うならば、職員や環境に対して働きかける為に使いましょう。


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