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テイラー・スウィフトのfolkloreと時間について

深夜1時。リリースされたばかりのテイラー・スウィフトのアルバム「folklore」を、ひたすらノートに書き写している。

大学院時代、研究対象の作品やその周辺の論文を理解するために時々とっていた手段だ。ひたすらに目の前の言葉を手書きで写し続けることで思わぬ発見をすることがある。

ファンとしてテイラーを応援してきた13年間の中で、曲の歌詞を書き写そうと思ったのは初めてだと思う。

様々な語り手が交差し合うアルバムで、folkloreという名の通り、まるで民間伝承の寄せ集めのように舞台も時代も真偽も今ひとつ定まらない。

歴史上の出来事のようでありながら、全くのフィクションのようにも思えるし、テイラー自身の経験から書いているようにみえる部分もある。

そして、ここまで題材がバラバラなアルバムなのに、一貫したモチーフと音楽性が綴じ糸となり、全てが一冊の短編集として綺麗に纏まっている。

ストーリーテラーとしてのテイラー・スウィフト

ファンとして、テイラーの好きな語彙や言い回し、文章の組み立て方については割と熟知しているつもりだった。まったくもって思い上がりだった。

圧倒的なストーリーテリングの巧さはそのままなのだけど、folkloreの歌詞の文章構成は今までと全然違う...ように思える。

昔のアルバムは割とストレートな比喩を好んで使っていたし、Loverでは敢えて真意をぼかすように何重もの暗喩を使ったりもしていた。

folkloreはREDのようにテイラーの得意な風景描写が惜しみなく散りばめられている一方で、Loverのように名もない感情を表すための繊細な比喩も溢れている。

集大成と呼ぶにはあまりにも早いけれど、少なくとも歌詞という点においては、今までの作品がfolkloreのための習作に思えるほど、完成度が高いと思う。もちろん個人的な好みに左右されている部分も大きい。褒めすぎだと思っても大目に見てください。

時の流れというテーマ

アルバム全体を通して「時の流れ」というテーマが一番印象に残る。folkloreというタイトルなのだから狙い通りなのかもしれない。

例えば、若い男女の三角関係を描くCardigan/August/Bettyの3曲は語られている時期がそれぞれ異なっている。敢えて時系列で並べるとしたらBetty→August→Cardiganなのかな。

時系列を無視した収録順自体が仕掛けとなっているように思える。

他にも、"When you're young, they assume you know nothing (Cardigan)"の歌詞と、それに呼応するような"I'm only seventeen, I don't know anything (Betty)"の歌詞。

Cardiganで、永遠の少年ピーター・パンに例えられた彼がその直後に「父親」に例えられること。("Tried to change the ending/ Peter losing Wendy / I knew you / Leaving like a father")

過去と現在を行き来する映画みたいに、時間感覚が曖昧になってくる。

他にも、the last great american dynastyでは1920−30年代の女性レベッカについて歌っているはずが("There goes the maddest woman this town has ever seen / She had a marvelous time ruining everything")、後半ではレベッカの人生と重なり合うようにテイラー自身の話になっていること。("There goes the loudest woman this town has ever seen / I had a marvelous time ruining everything")


my tears ricochetが死後の視点から語られていること。


sevenは7歳の頃の記憶を大人が語っていること。未来に語り継ぐものとしての愛が語られていること。("And just like a folk song / Our love will be passed on")


epiphanyでは第二次世界大戦で戦ったテイラーの祖父の物語と、現代の病室で眠る女性の物語が交錯していること。


ところどころ、テイラーの過去の曲を彷彿とさせる表現。("Bad was the blood of the song...")


列挙したら他にもあるのだけど、このアルバムに一貫して流れる「時間」というテーマについてはinvisible stringの歌詞に纏まっているのだと思う。

Time
Curious time
Gave me no compasses, gave me no signs
Were there clues I didn't see?

時の流れは不思議なもの
方位磁石もくれないし合図もない
私がヒントを見逃したの?

時間は無慈悲に流れていくもので、記憶も記録も時の流れによって失われたり形を変えていったりしてしまう。

そんな中で民間伝承と言われる伝説や物語は、史実とフィクションの境界線を曖昧にしながらも人々の間で何百年も語り継がれていくもの。

folkloreというアルバムは、テイラーなりの「時間」に対する遊び心なのかなと考えた深夜でした。


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