「ビジュアライゼーション(可視化)」とは

「ビジュアライゼーション」という概念の基礎を、一度しっかり押さえて置こうと思い書きました。この記事は、「意思決定を助ける情報可視化技術(伊藤貴之著・2018年コロナ社)」の読書メモです。(全内容を網羅している訳ではないのであしからず)

「ビジュアライゼーション(Visualization)」は日本語にすると「可視化」です。以下、原則として「可視化」と表記します。

可視化の定義

この本では、

「コンピュータの描画技術によって複雑な情報の理解を支援すること」

とされています。

これに建築設計分野からの視点を入れるとすれば、

「複雑な情報だけではなく、"図面という2次元の情報を、空間という3次元の情報に変換する"という、人によっては困難な作業を支援すること」

が入るでしょうか。

なお、「可視化」と「可読化」は本来、区別が必要です。例えばその月の交通事故件数をイラスト付きで表示する、というように”口頭で読み上げるだけで伝わる情報”を図化しただけでは「可視化」とは言えません。

可視化の歴史

コンピュータが誕生するより前から、科学系の分野、例えば流体力学で流体の流れを線画で表現する、というような形で可視化は行われていました。(本書では科学系可視化と呼称)

一方で、PCの普及に伴い、GUI操作によってユーザーが欲する情報を画面に提示する技術が普及しました。これは情報可視化(Information Visualization)と呼ばれています。

これら二つの流れは、これまで独立して発展してきましたが、近年は融合する傾向にあります。地理情報処理やセンサー技術の発達に伴い、従来は情報可視化を用いていた領域にも、物理空間の可視化という要素が入るようになってきたためです。

情報可視化の手法

簡単なものではチャート(日本では一般的にグラフと呼ばれる)や散布図から、階層型データを表現するノード・リンク型手法や空間充填型手法、またネットワークをノードとエッジで表現する手法などがあります。

情報可視化にあたっては、情報をどういった視覚的要素に変換するかが重要です。例えば棒グラフであれば数値情報を棒の「長さ」に変換します。
したがって、キャラクターの大きさを数値に比例させる場合などは注意が必要です。なぜなら、仮に縦横比率を固定したまま高さを2倍にすると、面積が4倍になってしまい、見た目から受ける印象の差と、実際の数値の差が一致しなくなってしまうためです。

また、情報可視化結果をどのように評価するかということも意識する必要があります。定量評価なのか、主観による評価なのか。あるいは、可視化結果を被験者による実験で評価する方法もあります。

VR/ARと没入型可視化

日本では2016年はVR元年と言われ、安価なヘッドマウントディスプレイ(HMD)が普及したことで、情報可視化の手法としてVRの事業化に弾みがつきました。それまでは、VRといえば医療や航空機など、ハイエンドな専門業務に使われる技術だったわけです。

このように科学系可視化へのVRの利用はもともとありましたが、例えば「室内という物理空間に気流の流れを可視化して合成する」というような、"AR"の利用は今後もまだ発展していくと思われます。

では、情報可視化へのVRARの利用には、どのような形態が考えられるでしょうか。例えば物事の関係性を表現したネットワーク図は、3次元で表示した方が、より複雑な情報を表示できます。それをVR空間上で、頭上にノードとエッジの図形が浮かんでいるように表現するわけです。
また、ARであれば、実際の道路空間上に歩行者の通行量をグラフで表示するような表現が考えられます。

上記を整理すると

科学系可視化 - VR ・・・ 既存(医療分野など)
科学系可視化 - AR ・・・ 例)室内の気流の流れを可視化
情報可視化 - VR ・・・ 例)ネットワーク図の表現
情報可視化 - AR ・・・ 実空間上に情報を重ね合わせる

これらVRやARによる可視化はイマーシヴ・ビジュアライゼーション(Immersive Visualization/没入型可視化)と呼ばれます。それに対して、没イマーシヴ・アナリティクス(Immersive Analytics/没入型解析)というフレームワークも出てきました。

没入型解析は、視覚に限らず多感覚なメディア技術とユーザインタフェース技術を駆使し、複数ユーザによる協調作業も視野に入れて、より没入的に情報を探索・分析するための枠組みです。「データ分析を現実世界に還元する」という目標のための、一つの究極系でもあります。

可視化の意義とこれから

情報産業は2010年代に大きく変化を遂げ、膨大なデータの蓄積を糧にGAFAをはじめとする巨大企業が出現しました。このような状況にある現代こそ、データを一般顧客、ひいては一般社会に還元する時期ではないだろうか、と筆者は語っています。

一連のIoT技術によって現実世界からデータが収集されてビッグデータとなり、機械学習をはじめとする人工知能技術によって分析され活用されます。この分析結果がVR/ARをはじめとするユーザインタフェースによって現実世界に還元されれば、ループが完成する訳です。

情報可視化の事例は、その情報自体が企業などの機密を含んでいる場合が多く、日本ではあまり公開されてきませんでした。一方海外では論文などの形で、情報可視化の事例もオープンにされる傾向があります。可視化の事例、その有効性が広く知られるようになれば、「可視化」という分野の認知度も向上するでしょう。

参考書籍


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?