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禍話リライト【板の敷かれた家】

草むらの中に、白い殺風景な建物があった。
元々は何かの施設だったんだろう、というような外観。
見る限り、地下への通路もあり、部屋数も数えきれない程の大きさだ。
雑草生い茂る緑一色の世界に、突如姿を現す白い異物。
その建物が現役だったころは良かったんだろうが、廃墟化した今となっては不気味さだけが際立っていた。
建物内の倉庫にはラックや物が詰め込まれた段ボールが散乱しており、その段ボールには10~20年前の日付が書かれたまま。
箱の中を見た人によれば、伝票や納品書などの書類が入っていたそうだ。
日本語で書かれているなら判別するのは容易だが、何かの文字と数字の羅列で全く何が書かれているのか分からないらしい。

大量に遺棄されている段ボールのなかに、一際異様なものがあった。
ぱんぱんに中身の詰まった箱を開けると、その中には大量の絵本が詰め込まれていた。
何らかの施設だったのは間違いない。
子供部屋があったのか、それとも職員が子どもを預けられる託児所が併設されていたのか。
子どもが扱う物だからだろう、絵本の装丁が劣化しボロボロだったが、有名な作品含め幼稚園から小学校低学年が読みそうな作品が大量に残されているのだという。


その廃墟に行くとすごく不幸な目に合う─そんな噂があった。
だから、建物の入口まで行くとみんな怖がって引き返してくるのだ。
特に注意書きのようなものがあるわけではないらしい。
例えば、入口にスプレー文字で『この中に入ったら恐ろしい目に合う』とか、そういうものはない…のだが。

「行ったら分かるよ…」

そこに行った人は口々にそう漏らすのだそうだ。
また、その敷地は定期的に誰かが草刈りをしているらしい。
行政なのか、管理者なのかは分からないが、建物の周り、そこだけが綺麗になっている。
敷地の外はあんなに雑草で埋め尽くされていたのに。
それが余計に恐怖を増幅させた。



I君、S君,N君の3人が、それぞれ彼女を連れて件の廃墟を訪れた。
みんな霊感は無かったが、それでも実際に着いてみると確かに気持ち悪い…。
草を掻き分けていくと、突然視界がひらけ、巨大な建造物が姿を現す。
一部が割れていたり、無かったりする窓─。その全ての窓から何者かが、侵入者である自分たちを見ているような気がする。

(こんなに視線を浴びるのは文化祭のステージでバカなことをして以来だ…)

これは無理だと、N君のカップルは入り口で待つことになった。

「俺たちだけでも行くか」

2組のうち、S君のカップルが先に中へ入った。
その直後、建物から大きな音がした。

ガタン!


S君たちを見送ったI君たちカップルは驚いた。
てっきりコンクリートの打ちっ放しと思っていたのに、よく見ると入口にだけ大きな1枚の板が敷いてある…それこそ大人用の敷布団くらいの。
しかも建物の経年劣化にそぐわない、比較的新しめの板だ。
他の入口もあったのだが、そこが1番入りやすそうだ。

「ここから入るか」

いざI君たちが入る時、何も言わずに靴を脱いで板の上を歩いた。
彼女も同様にだ。あらかじめ相談していたわけではなかった。
それなのに2人同時に板の上だけを、脱いで歩いた。そしてコンクリート部分になったら、靴を履くという奇妙な行動。

「え?」

「な、なに今の…」

理解の追い付かない状況に、二人は顔を見合わせた。

「お、お前ら急に何やってんだよ!打合せなしで自然に靴脱いだの?!」

待機を選んだN君たちが後ろから見ていて、そう呼びかける。
それを聞いたI君は震えあがった。

「え…え…わかん…ない。……え…なに?」

「なにって…人様の家に上がる…んだから…?」

I君の彼女の一言で、その場にいた4人は慄然とした。しっかり靴を脱いで、板の上を通って二人は外へ戻る。
二組で、先に入ったS君たちを待つかたちとなった。
しばらくして─

「埃だらけで汚かったな~」

「私、埃っぽいの無理なんだよね」

普通の廃墟探策をしてきたような感想を述べながら、彼らは戻ってきた。
例の板を土足で踏み越えて…。
待っていた4人の強張った表情を見て

「なんだよ?」

「いや、分かんないんだけどさ…俺と彼女、普通に靴脱いじゃったんだよね」

「廃墟なのに?行儀良すぎだろ!」

N君たちの証言によれば、Ⅰ君たちは流れるように自然に靴を脱いだ。
事前に打ち合わせていても、あんなシンクロはしない。
例えるなら、ボーリングに行き慣れた人が板についた様子で靴を履き替えるようだった。
自然にやってたけど、それは絶対に普通じゃない!しかも一言も話さないなんておかしい!と力説した。

「やっぱりここはヤバいところなんだよ!」

「中とかも別に普通だったし、そんなヤバくないだろ~」

S君が一笑に付して、その日は解散となった。


その1週間後─。
S君が、職場で利き手とは逆の指を切断する事故に見舞われた。
病院に運ばれ、医者から義手になると告げられるも、本人は仕事上のミスだと反省していた。
もともとガサツだった彼の不注意、本人含めて周囲ではそんな扱いだった。
義手になると決まった時、彼は電話で彼女へ報告した。
心配をかけまいと「労災も認められたし、これからは公共交通機関を安く利用できるぞ」と冗談めいて彼女に話す。
しかし、明るく振る舞うS君とは対象に

『ヤバいよ、あの建物に行ったからだよ。なんでも良いから祈禱とかお祓い出来る人探そうよ』

「手の怪我は職場でのことだし」

『違う、違う。いつ事故にあったの?』

「今日だよ。いま、病院から電話掛けてるんだ」

『…今朝、夢を見たの…』

「は?」

『私が子供なの』

「お前、何言ってんの?」



彼女の話はこうだ。
子どもになった彼女が、廃墟探索で行った場所の、例の草が刈られたところを走っている。
向かっているのはあの建物だ。
中に入ろうと思ったら、入り口の板が敷いてあったところに姉妹と思しき小さな女の子が座っていた。

「おかえりなさい」

と姉妹に声を掛けられて、急に自分がおままごとの途中だったことを思い出した。
3人でその場に座り、古めかしいおままごとセットで遊ぶ。
それは明らかに、一世代前の物だった。

「ご飯が出来たからいただきましょう」

「そうね、いただきましょう」

「はい、これ」

そう言って女の子の1人が、箸置きに箸をおくように何かを置いた。
それは、第1関節から先の、小さな指だった。

「な、なんで!なんで指なんか置くの!?」

「「あはハははハは!そうだよね、指は出さないよね。おままごとに」」

そうやって爆笑する声が大人の女性だった。

「「おままごとの範疇を越えてるよね~」」

「「そうだよね~。でも、しょうがないよ。」」

「え?」

「「靴、脱がなかったんだもん」」

「は?え?ちゃんと靴脱いでるよ!」

さっきおままごとの前に確かに靴を脱いだはず。
混乱しながらもそう返す彼女に

「「そうじゃないよ。ほら、前に靴脱がないで上がったから~」」

「「それじゃあ、いただきます」」


そこで目が覚めた彼女は、とてもじゃないが仕事に行ける精神状態じゃなかったので会社を休んだ。
そして昼頃、指が義手になったとの電話がS君から掛かってきた。
彼女は自分が見た夢とS君の事故との不気味な符合に慄いたという。
その話を聞いたS君は、ネットで高額の遠隔お祓いを彼女と一緒に受けたそうだ。
さらには現地に赴き、しっかり謝った。

「「ほんとうにすいませんでしたッ!」」

彼らの感情のこもった詫びが届いたのか、それ以降、大きな不幸には見舞われずに済んでいるそうだ。


その廃墟の正体は何なのか?
大量の絵本がなぜ破棄されているのか?
夢に出てきた女の子たちは何者なのか?
そして、謎の遠隔お祓いの実態とは?
何もかもが、未だに分からず仕舞いである....…。




このリライトは、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし、編集したものです。
該当の怪談は2020/02/15放送「THE 禍話(第30夜)」26:40頃~のものです。


参考サイト
禍話 簡易まとめWiki様


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