見出し画像

禍話リライト【甘味さん譚「蜘蛛が嫌いなのではない」】

今回は甘味さんが実際に体験した話ではなく、とあるグループと縁を切るキッカケになった話。


たまたま廃墟の写真を撮るのを趣味とするグループと知りあいになった。
一緒に行けばガソリン代も浮くし、奢ってもらえればご飯代も浮くし、甘味さんにとっては良いグループだった。(冷静に考えればひどい話なのだが…)
甘味さんは直接会ったことが無いのだが、彼らにはとある先輩がいるらしく、その人は廃墟は大好きなのに蜘蛛や、蜘蛛の糸が大嫌いという難儀な人だった。
当然のことながら、大抵の廃墟には蜘蛛の巣や蛾が居るものだ。
彼らも、当初は先輩が蜘蛛嫌いなのを知らなかった。
とある出来事が起きるまでは…。

ある日、彼らが廃墟の地下を探索してた時─。
真っ暗な地下を手探りで進んでいた。
他の部屋を回っていた時は、1番後ろから強力な光源で前方を照らしてくれていたK先輩。
なのに地下に来た途端、光が届かない。

「……ちゃんと照らしてくださいよ~」

後ろから2番目にいた子が、振り向きながら先輩を叩いた。と、同時に大声をあげて先輩が逃げ出してしまった。

「???」

一同は一瞬、何が起こったのか分からなかった。怪現象も何も起きていないのに…。
周りを見ると大きな蜘蛛の巣が張ってあり、そこには巣の主であるそれなりのサイズの蜘蛛が天井からぶら下がっていた。
逃げ出した原因がわかった彼らは、いったん車に戻ることにした。
車でブルブル震えるK先輩に

「蜘蛛っすか?」

「ああ”?ちげーよ!」
否定しつつも震えは止まらず、顔色も真っ青だ。

「やっぱり蜘蛛なんだ~」

それ以来、蜘蛛いじりをしていたら誘ってもあまり来なくなってしまった。
5回に1回、参加すれば良い方だったという。
年下にイジられたらそりゃいい気はしないだろうと思いながら、甘味さんは話を聞いていた。

そんなある日、甘味さんとK先輩を含めたグループで一緒に廃墟に行く機会があった。
組み分けで先輩と甘味さんの2人で探索にあたっていると、人の手くらいの大きな蜘蛛に遭遇した。さすがの彼女も驚いたのだが、当の先輩は平然としている。

(あれ?蜘蛛苦手じゃなかったっけ?)

そう思ったが、知らないふりをしてその場をやり過ごした。

何事もなく探索は終り、打ち上げと称してファミレスへ立ち寄った。
仲間達がトイレやドリンクバーに散っていき、またも先輩と2人っきりになった。黙っているのも何だったので、今宵の感想を述べた。

「楽しかったですね~」

「…甘味ちゃんさ、蜘蛛が出た時、ちょっと態度が変だったけど」

(ヤバ…もしかして態度に出てたのかな?)

「ひょっとして、あいつらから何か聞いた?俺が蜘蛛嫌いとか」

「はい、実は聞いてました」

「だから嫌なんだよな…別に蜘蛛が嫌いな訳じゃないんだよ」

「え?そうなんですか?」

「うーん、あんま言うとあいつらがビビるから言ってないんだけど…」

そう前置きをして、K先輩は“蜘蛛嫌い”の発端となった、あの夜のことを話し始めた。



とある廃墟に行ったとき、地下に降りていく道を自分が後ろから照らしていた。なぜなら、その時1番大きくて高光量の懐中電灯を持っていたから。
だから、自分だけ気が付いてしまった。
前を行く後輩3人は見えてなかったみたいだが、右側の壁に人がいたように見えた。まるで壁にピッタリと張り付くように。
一瞬、人形かと思ってそちらを見た。
本来なら行く先を照らさなければいけないのだが、あまりに気になって反射的にその方向へ光を向けた。
そこには確かに人形があった。女の子のようだった。
五体満足ではあったのだが、一点だけ奇妙なところがあった。
顔の左側が無い。
ズブズブと、まるで壁に埋まっているかのように顔の半分がない。
そんな不気味な人形が、壁に張り付いていたのだ。

(こんなのが横にあったら普通言うだろ?)

「…おぃ」
後輩に声を掛けようとした矢先──

「…ちゃんと前を照らしてくださいよ~」

ライトの光がブレていたのを咎めるように、後輩が文句を言う。

「ん…あぁ、ごめんな」

俺にしか見えてないのか?そう思って、再び右を見るとそこには何もなかった。

(見間違い…ではないよな)

まさか、動いた?
そこでふと、人形ではなかったのか、そう考えてしまった。
と言うのも、自分と同じくらい背丈(180㎝くらい)があったからだ。
マネキンは基本自立できない構造だ。ましてや顔半分が無く壁に寄りかかっているのだから。
そんな不安定な状態でマネキンが立っていられるとは思えない。
理解しがたい状況に、頭が混乱してくる。

(やっぱり人形じゃない…)

混乱はやがて恐怖へと変わっていく。

「先輩!前照らしてくださいって~」

後輩に促され、視線と懐中電灯を前へと向けた。

(…あれ?)

前を行く後輩3人の右側がひと1人ぶん空いていたので、その先が見えたのだが。
奥の暗闇から凄い勢いで人が走ってくる。
その姿は、さきほど見かけた“人形”とそっくりだった。
今度は顔の左側もしっかりある完全な姿だ。
そんな女性が、無表情でこちらに向かってくるのが見えた。

「うわあああああああ!」

叫びながら、必死に外へ向かって走った。
後ろからその女が追いかけてくるのを、背中で常に感じていた。
ようやく外に停めていた車に辿り着き、肩で息をしながら

(後輩たち置いてきちまった…どうしよう、なんて言えば良いんだよ)

必死に考えを巡らせているとー

「急に叫んで逃げちゃって、どうしたんすか?蜘蛛が怖いんすかぁ?」

背後からヘラヘラ笑いながら、後輩たちが廃墟から出てくるところだった。

(マジか、あの女には気が付いていなかったのか?)

理解が追い付かなかったが、とっさに話を合わせることにした。
置いてきてしまった事と、そんな怖いものがいたのに教えなかった事。
そんな後ろめたさがそうさせたのかもしれない。
とにかく、たまたまそこに蜘蛛がいたから、蜘蛛嫌いのレッテルを貼られることになった。


「だから俺、蜘蛛は怖くないんだよね」

「あ~じゃあ蜘蛛怖くないですね、お化けですもんね」

「そうなんだよ…」

“蜘蛛嫌い”の意外な真相が明かされ、そこで話は終わった。


帰宅後、甘味さんは家でお風呂に入っている時に嫌なことを思い出した。
以前その後輩3人から聞かされていた、妙な事を…。

〚先輩の家で遊んだり、自分たちの家に先輩が遊びに来た時も急に大声出してビックリする。そうなると、その場で解散か、先輩が家に帰ってしまう。後から蜘蛛が原因か聞くとはぐらかされてしまう。道を歩いていても、大きく迂回して歩いたりする。蜘蛛が原因か尋ねると、恥ずかしいのだろうか、はぐらかされてしまう。だから、行動が不自然だから事あるごとに蜘蛛嫌いとイジっている…〛


…ファミレスで話した時も、廃墟の一件以来その女が出てないとは言われてはいない。
蜘蛛が怖くない事は実際に見て分かっているので、それが原因ではない。

(もしかして、そのお化けにずっと付き纏われてない?)

その事実に気付いた彼女は、その後輩グループと縁を切ることにした。
付き纏われてるのを見たくないし、何が出るか分かってるのに一緒にいる必要もない。
というのが、甘味さんの持論だ。


そもそも、蜘蛛嫌いで誤魔化し続けるには無理がある。
そんなレベルの話だ。

「先輩が怖がってるのって、ひょっとして蜘蛛じゃないんじゃないですか?」

K先輩は、その言葉をずっと待っているのかもしれない。

甘味さんは、そう締めくくった。






このリライトは、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし、編集したものです。
該当の怪談は2023/05/27放送「禍話アンリミテッド 第十九夜」42:25頃~のものです。


参考サイト
禍話 簡易まとめWiki様


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?