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禍話リライト【怪談手帖〈未満〉「ウズラトンネル」】

小学校教員を長く務めたEさんには忘れられない奇妙な体験があるという。
それは彼女が、低学年のクラスを担当していた時のことだ。
当時、生徒たちは毎日日記帳を先生に提出する決まりになっていた。
その中に、Kさんという女生徒が提出した日記があった。

〚きのう、かっているウズラにおかしなことが起きました。〛

なんでもKさんの家では、ウズラたちを入れているケージがある部屋は他と別にしてペットシートを敷き詰めているそうだ。昨日の夕方、帰宅したKさんはその部屋に、朝は無かった妙な物が置かれている事に気付いた。

〚その時、おかあさんもお父さんも帰ってきてませんでした。〛

鮮やかな緑色をしたそれは、一抱え程の大きさがあったという。

〚おもちゃのでん車をもぐらせるトンネルをすごくぶあつく、大きくしたかんじでした。〛

プラスチックの様で、しかし幾らか柔らかくてざらざらした奇妙な材質で、側面に角ばったカタカナで”ウズラトンネル”と書いてあった。
お母さんが買ってきたウズラ用の玩具なのかなと思ったそうだ。

〚トンネルと言いましたが、なんだかとってもヘンテコなトンネルでした。〛

入口はそれこそ、ウズラサイズの生き物なら入れるだろう大きさで、一方で反対側は人間の子供サイズくらいとかなり大きくなっていたものの、肝心の出口にあたる部分がピッタリと壁にくっ付いていた。

〚これでは入ったウズラが出てこれないじゃないかと思いました。〛

その時、ちょうど外に出していたウズラ達が物珍しそうに近付いてきたので、Kさんは念のため彼らをケージに戻しておいた。
ところが、ケージの中でもウズラ達は皆トンネルの見える方へ集まってきて、鳴いて騒いでいる。どうも何か惹きつけられるものがあるらしい。
いずれにせよ、広くもない部屋にこんな物があっては邪魔なのでトンネルらしきものを退かそうとしたKさん。
しかし、これが重たい。子供とはいえ全く持ち上がらないどころか、壁側からずらす事すら出来ない。

〚へんだなぁ、どうしようと思っている内にわけがわからなすぎて、なんだかイライラしてきました。〛

理不尽な物体への怒りが湧いてきた彼女は、以前母親が足腰を痛めた時に使っていた杖が納戸にあった事を思い出した。急いでそれを持ってくると、ウズラ達の傍に向けられているトンネルの入口に衝動的に突っ込んだ。

〚ついカッとなって、そんなことをしてしまいました。〛

彼女は突っ込んだ杖先で中を引っ掻き回そうとした。
その瞬間、杖が中でガチっと掴まれた感覚があった。

〚ビックリしました。それは何かにひっかかったとか、はまりこんだとかじゃなくて、明らかにだれかが杖のさきっぽを手でつかんだみたいでした。〛

声を上げて慌てて引っ張る杖は抜けたが、動揺したKさんはそのまま再び力任せに杖を突っ込んだ。そうしたら…

〚ズブッといういやな手ごたえがありました。〛

トンネルの中から、「ぎぃやぁぁぁぁぁ」という異様な悲鳴が上がった。
「うわあああ」と思わず自分も叫んだKさんが尻餅をつくと、引っこ抜いた杖が手元に転がった。その先端に何やら赤黒い汁のような物がベッタリと付着しているのを見て、再びわああああと声を上げて部屋から逃げた。
深呼吸して落ち着いてから戻ってきたKさんが、懐中電灯で照らしつつ入口からトンネルの奥を恐る恐る覗き込んでみると…

〚心ぞうが止まるかと思いました。〛

そこには奇妙な事に、目・鼻・口の整った中世的な真っ白い人の顔があったという。光に照らされたその顔は片方の目の付け根の辺りに、大きな傷跡が出来ていた。両目はドロリと濁って、鼻の下と大きく開けた唇の端から赤黒い液体が幾筋も垂れて、それは明らかに死んでいるようだった。

〚私がころしてしまったんだと思いました。どうしていいかわからなくなって、近所の公えんににげ込みました。〛

そこで日記は終わっていた。
Eさんは読んでいる最中に何度も付いていた溜息よりも、さらに深い息を吐きだして途方に暮れた。何故なら、日記の筆跡は明らかにKさんのものでは無かった。角ばったその文字には見覚えがあった。

「何度か見てるからすぐに分かりました。どう見てもその日記は、Kさんのお母さんが書いたものでした」

そんな事が一度だけあったという。
数日後、学校で飼っていた小鳥が籠の中から居なくなり、代わりに食い荒らされたような大量の虫の羽や手足、幾つかの白い石のような物、そして真っ黒く濁った小さな肉塊が置かれていた。
片付けた男性教諭曰く、今までに嗅いだことがないような酷い臭いがしたとのことだったが、Eさんとしては日記と関連付けて考えないようにした。

「実は…Kさんってご近所なんですよ、未だに」
Eさんは唇をゆがめて、むりやり僕に苦笑してみせた。



このリライトは、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし、編集したものです。
該当の怪談は2023/06/17放送「禍話アンリミテッド 第二十二夜」40:00頃~のものです。


参考サイト
禍話 簡易まとめWiki様



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