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cEDHにおける《むかつき/Ad Nauseam》考

cEDHというものに触れてから半年間、色々なデッキを使ってみて、自分の中に「EDH理論」みたいなものが我流で形成されてきたので、メモがてら記事という形にしてみることにした。


1.今回の議題

今回は《むかつき/Ad Nauseam》について。

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僕がEDHに触れるに際し、リストを様々調べて見てみたところ、「黒いデッキならとりあえず《むかつき/Ad Nauseam》と《ネクロポーテンス/Necropotence》入れとけ」と言わんばかりの採用率を誇ったカードであった。

確かにライフが20点であることを前提にデザインされたカードは、EDHに於いてはそのデメリットが軽減されたり、ほぼ無いかのように扱われてバグを起こしているのは理解できる。実際ほぼすべてのデッキに《真鍮の都/City of Brass》や《マナの合流点/Mana Confluence》は投入されているし、《色あせた城塞/Tarnished Citadel》も2人構築では考えられないカードだ。《ヨーグモスの取り引き/Yawgmoth's Bargain》が禁止されていることからも、ライフの支払いという行為がEDHでは2人構築以上に軽いものであると扱われていることは明白だろう。

そして、ある程度高いレベルでのEDHを回数プレイしている方々なら、対戦相手の《むかつき/Ad Nauseam》によって辛酸を嘗めさせられた経験も多くあるだろう。直接負ける要因となったカードの評価が高くなるのは、対戦ゲームである以上必然といえる。

では、《むかつき/Ad Nauseam》は遍く黒いデッキに須らく採用されるべきなのか?

今回は、《むかつき/Ad Nauseam》を採用することのメリットとデメリットをフラットな視点から考えることでこのカードの『まっさらな評価』を試みる。

ということで今回のキャッチコピーはこれ。

その《むかつき/Ad Nauseam》、本当に必要ですか?


2.《むかつき/Ad Nauseam》採用のメリット

単に「むかつきはザコ!w」と言ってこの記事を締めてもただの逆張りガイジになってしまうので、ちゃーんと考察していこう。

まずは、《むかつき/Ad Nauseam》を採用するメリットから。

・そのままゲームを終わらせることができるほどのハンドアドバンテージを稼ぐことができる

正直、《むかつき/Ad Nauseam》を採用するメリットはこれに尽きると思う。

一部のジェネラル絡みコンボを除いて、デッキ内の特定のパーツを2枚以上集める必要があるEDHに於いて、一度に何十枚もカードを手に入れることができるのは即勝ちと言って差し支えない。

しかもこのカードはインスタント。やろうと思えば、対戦相手のエンドフェイズに打ち込み、そのままアンタップしたマナを使って勝ちに行くことも可能なのだ!

瞬間的マナ加速の得意な黒であれば、これを早いターンに打ち込むことは容易で、まさしく不可能を可能にするカードと言っていい。

これに関連して、

・単独でフィニッシュできるエンドカードが一枚増える

という点も挙げられるだろう。

EDHでは、豊富なサーチカードを用いてコンボパーツを探しに行くのが常であるし、《むかつき/Ad Nauseam》有する黒は、《悪魔の教示者/Demonic Tutor》《吸血の教示者/Vampiric Tutor》《伝国の玉璽/Imperial Seal》《願い爪のタリスマン/Wishclaw Talisman》など、そのサーチが最も得意な色である。瞬間的マナ加速と合わせて、様々な2枚コンボ、3枚コンボを決めに行くのが黒の常套手段である。

しかし、「マナはあるけど、サーチが一枚しか無い……」みたいな場面に遭遇したことは多々あるだろう。それを解決してくれるのが《むかつき/Ad Nauseam》である。そのマナを一気に勝利へと変換してくれる。

まとめると、《むかつき/Ad Nauseam》を採用するメリットとは、『デッキの殺傷能力を上げることが出来る』とすることが出来るだろう。


3.《むかつき/Ad Nauseam》採用のデメリット

相手を殺すことを至上命題とするプレーヤーにとってのカードゲームに於いて、《むかつき/Ad Nauseam》は採用し得のカードであるように思えるが、ここからはデメリットの考察に移る。それは、

・デッキの構築が著しく制限される

ことである。

いくらEDHに於いてライフの支払いが軽いものであるとしても、実は40点しか無いことも事実であって、フェッチランド諸々を考えると最速で《むかつき/Ad Nauseam》を撃ってもだいたい40~35点くらいのライフで走ることになる。

ここで気になるのがデッキ内の平均マナ総量である。

デッキに《むかつき/Ad Nauseam》を採用している諸兄は、今すぐMoxfieldにデッキを登録してみてほしい。非公開設定にも出来るので、自分用のメモとしても有用だ。

登録が終わったら、ぐりぐりっと下にスクロールしてみると、こんな感じの文章が表示されていると思う。画像は僕の使っている《ロフガフフの息子、ログラクフ/Rograkh, Son of Rohgahh》+《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット/Tevesh Szat, Doom of Fools》の場合。

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これは、「デッキ内の平均マナ総量は1.36だよ。土地(マナ総量0)を除いたら1.9だよ。このデッキの合計マナ総量は133だよ。」という意味で、普通はあんまり気にしなくていい。このすぐ上にあるマナカーブの表のほうがよっぽどデッキの安定性に寄与する。

しかし、下の青い部分が今回話題にしたいもので、「お前《むかつき/Ad Nauseam》採用してんじゃん!これ撃ったときのデッキ内の平均マナコストは1.32な!」ということが親切に書いてある。

つまり、《むかつき/Ad Nauseam》を撃ってカードをめくった場合に、1枚につき平均1.32点のライフを失うことがわかるのだ。

すなわち、初期ライフ40点からむかつきを撃ったとして、限界までいくとだいたい30枚くらいのカードが手に入る計算になる。先に述べたライフの変動幅を考えれば、このデッキでは30~26枚のカードを手に入れることが出来るカードとして《むかつき/Ad Nauseam》を扱うことが出来るということだ。

至極当たり前のことであるが、「フィニッシュに必要なカード+フィニッシュに必要なマナをこの30枚で全て揃えられるような構築にしなければならない」ということが、ここで言う構築制限である。

デッキを構築するに於いて、この点は大きな足かせになると考えている。特に青いデッキについての話をしたい。

青い《むかつき/Ad Nauseam》デッキといえば、有名どころでは《織り手のティムナ/Tymna the Weaver》+《ルーデヴィックの名作、クラム/Kraum, Ludevic's Opus》、《反体制魔道士、ケス/Kess, Dissident Mage》、《鋭い目の航海士、マルコム/Malcolm, Keen-Eyed Navigator》+《激情の薬瓶砕き/Vial Smasher the Fierce》などが挙げられるだろう。

彼らは、TurboNauseの名の下に、いち早く《むかつき/Ad Nauseam》を唱えて勝利することが出来るようにデッキを最適化してあるはずだ。

しかし、ある問題が生じる。それは、「《むかつき/Ad Nauseam》を2ターン目に唱える」という、TurboNauseの本懐を遂げることだけを考えれば、《騒々しい写本、コーディ/Codie, Vociferous Codex》や《ロフガフフの息子、ログラクフ/Rograkh, Son of Rohgahh》+《愚者滅ぼし、テヴェシュ・ザット/Tevesh Szat, Doom of Fools》の方が、ジェネラルが《むかつき/Ad Nauseam》のキャストに直接貢献するという点で優れているという事実だ。

さらに、《むかつき/Ad Nauseam》を唱えた後の受けの広さもこちらに軍配が上がる。《ロフガフフの息子、ログラクフ/Rograkh, Son of Rohgahh》デッキにおける《モックス・アンバー/Mox Amber》や、双方に言えることであるが、《業火への突入/Infernal Plunge》《弱者選別/Culling the Weak》を受けとしてカウント出来る確率も圧倒的に高い。

では、そのようなデッキに勝利するために青いデッキはどのような策を講じるか?その多くは、カウンターの増量という形に現れると思う。

《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》《否定の力/Force of Negation》《唱え損ね/Miscast》《呪文貫き/Spell Pierce》など、やや受け身よりのカウンターが増えてくる。しかし、これは先述した《むかつき/Ad Nauseam》のプランとは矛盾するものだ。

これが、ここで言う構築制限である。《むかつき/Ad Nauseam》を用いた戦術と矛盾する戦術を採らざるを得ない状況になったとしても、《むかつき/Ad Nauseam》を切り捨てる判断をするのは難しい。

それをより一層難しくしているのが、《死の国からの脱出/Underworld Breach》コンボの存在であると考える。

僕は、EDHにおける非ジェネラルコンボとして有力なもののうち、《むかつき/Ad Nauseam》と最も相性が良いのが《死の国からの脱出/Underworld Breach》コンボであると考えている。なぜなら他のコンボではマナ+カード2枚以上を要求されるのに対し、《死の国からの脱出/Underworld Breach》コンボでは墓地の枚数にこそ左右されるが、《悪魔の教示者/Demonic Tutor》一枚でコンボを完走することが出来るからだ。

故に、赤の入っている《むかつき/Ad Nauseam》デッキから、《むかつき/Ad Nauseam》を抜く判断は非常に難しい。(《織り手のティムナ/Tymna the Weaver》+《ルーデヴィックの名作、クラム/Kraum, Ludevic's Opus》デッキに関しては《直観/Intuition》ルートがあるので、正直《むかつき/Ad Nauseam》を切ったほうが強いような気もする)

構築段階で矛盾を孕んでしまうデッキは非常に脆い。その点で、《むかつき/Ad Nauseam》は構築に著しい制限を与えるカードと言える。

これはゲームプランに対する制限と言い換えてもいい。《むかつき/Ad Nauseam》の存在から、黒いデッキはよくコンバットの的になる。

cEDHでよく殴ってくる《鋭い目の航海士、マルコム/Malcolm, Keen-Eyed Navigator》や《織り手のティムナ/Tymna the Weaver》のコンバットで死ぬことは少ないが、この2点でも先程の理論に則れば1~2枚めくれるカードが減ってしまうことを意味する。

さらに、《むかつき/Ad Nauseam》を唱えた後に必要になる0マナマナファクトもゲームが伸びればデッキに埋まっていることは少なくなる。

《むかつき/Ad Nauseam》はゲームが伸びれば伸びるほど、弱いカードになってしまう。デッキとしてゲームプランを2キル、3キルに寄せきらないといけないことも、構築制限という言葉の意味の一つだ。


4.《むかつき/Ad Nauseam》は弱いのか?

デメリットをガーッと書き連ねてしまったので、《むかつき/Ad Nauseam》が弱いと言っているように聞こえたかもしれないが、そうではない。

《むかつき/Ad Nauseam》は強力無比なカードである。《深淵への覗き込み/Peer into the Abyss》と比べても、2マナ軽く、早いターンなら得られる効果はほぼ同値である。

しかし、このカードは強さを引き出すのに、構築段階で著しい介護を要求する、というだけの話だ。2人構築における、相棒に近いイメージのカードだと思って僕は運用している。

ということで僕なりの《むかつき/Ad Nauseam》採用理論は、

・赤が入っていること

・2キルをメインプランに据えていること

この2つとして、デッキを組んでいる。

こうすると《騒々しい写本、コーディ/Codie, Vociferous Codex》や《ロフガフフの息子、ログラクフ/Rograkh, Son of Rohgahh》デッキしか有力なジェネラルは存在せず、《むかつき/Ad Nauseam》を受け入れられるジェネラルは少ないことがわかる。(とはいえ僕も浅いので、他にもいたら教えて下さい)

具体的なデッキの話をするなら、《織り手のティムナ/Tymna the Weaver》+《ルーデヴィックの名作、クラム/Kraum, Ludevic's Opus》、《反体制魔道士、ケス/Kess, Dissident Mage》、《鋭い目の航海士、マルコム/Malcolm, Keen-Eyed Navigator》+《激情の薬瓶砕き/Vial Smasher the Fierce》などを僕が組むなら、きっと《むかつき/Ad Nauseam》は採用しない。ミッドレンジ然としてしっかりゲームを中盤まで伸ばした後、ジェネラルで稼いだリソースで勝ちに行くカードを唱えるような構築にすると思う。

《むかつき/Ad Nauseam》をなんとなく採用している諸兄は、一回《むかつき/Ad Nauseam》を離れて、デッキのゲームプランを考え直してみるのも面白いと思う。実際僕は様々なデッキが《むかつき/Ad Nauseam》を抜くことによってスムーズにプレイを組み立てることが出来る様になると考えている。

今回はこのあたりで筆を置かせていただこうと思う。

ご意見等あればぜひ僕のTwitterまでお寄せ頂ければ有り難い。では。


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