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#40 ティボー・ピノ選手の若手時代の6年間のパフォーマンス推移(5秒, 1分, 5分, 60分パワー)

割引あり

トップアスリートは過去の自分を超えるため、一体どのくらいのトレーニングを積み上げているのでしょうか?

今回ご紹介する論文では、あるワールドクラスのサイクリストが行った6年間のトレーニング記録が追跡されています。

18歳の若者がグランツール出場までに積み上げた6年間のトレーニングの変遷を見ていきましょう。


ティボー・ピノ選手

この論文は一人の選手を6年間追跡したいわゆるケース・スタディです。

選手名の記載はありませんが、論文中の経歴の紹介からティボー・ピノ選手で間違いないと思われます。

論文筆者にティボー・ピノ選手のお兄さんの名前もあり、お兄さんは研究者なのでしょう。

まず始めに、ティボーピノ選手の経歴についてこの論文に関わりのある年代について図でまとめてみました。

今年引退宣言をされていますが、本当に色んな戦績を残されているので、詳しくはwikipediaをご覧ください。

この論文ではプロ入りする1年前の2008年(18歳)からグランツール出場を含めた6年分のレースとトレーニングの記録、そして出力パワーの変遷が集計されています。

ティボー・ピノ選手の身体プロフィールは以下の通りです。

身長:180cm
体重:62kg(2008年)~65kg(2012, 2013年)
VO2max:85mL/kg/min



出力パワーの変遷

まずは出力パワーの変遷です。5秒、1分、5分、60分の4つのパワーをご紹介します。表記はパワーウエイトレシオ(w/kg)で示しています。

5秒、1分のパワー
5分、60分パワー

この期間にティボー・ピノ選手はフィジカルアップにより3kgの体重増加があったようです。

5秒、1分と無酸素能力が求めらるパワー発揮の伸びが鈍い一方で、5分、60分パワーは継続して向上しています。

参考までにパワー・トレーニング・バイブルに載っている基準値表で照らしてみると、ティボー・ピノ選手は5分パワーがずば抜けて高い選手なんだろうなということが分かります。

基準値の参考:パワー・トレーニング・バイブル

山岳賞を取ることも多かった選手ですので、こういった特徴を武器に闘っていたことが伺えます。



トレーニング時間とRPE

続いて各年ごとの、週あたりのトレーニング時間の結果です。

真ん中の横線が平均値(各年の週間トレーニング時間の平均)で、上下にある丸印が±2SDの範囲を示しています。

この時間の中に、レースも含まれています。

±2SDの範囲は、「ほとんどの週がこの範囲の数値におさまる」というイメージです。上限値、下限値ではありませんのでご注意ください。

たとえば2008年では、週あたりに行ったトレーニング(レース含む)時間は平均で10.1時間で、2008年のどこかの週は18時間であったり5時間であったりした週もあるという見方です。

年を追うごとに徐々に平均時間が増えていますね。

2009年に一気に平均時間が増えたのは、この年にプロ登録となったことが大きく影響していたと述べられていました。

参考に各年のレース数、距離を載せておきます(川崎調べ)。

2008年はプロ登録前だからなのか、レース数は少なくなっていました。


次にRPE(主観的運動強度)の週間平均です。

平均値にそこまで大きな変化はありませんが、グランツールに出場している2012年、2013年は+2SDの値が7を超えています。

注意してもらいたいのが、この値は「週の平均」です。一日ではありません。

週の平均値が3台後半になるということは、RPEが「6~7:きつい」を超える日が3日、「1~2:軽い」のような軽く流す日が3日、レスト1日といった週が平均的な週のイメージです。

週の最高平均RPEは2008年は5.7、2012年にはこの期間での最高値7.3となったようです。

週平均時間と合わせると、2012年には一日2時間前後を「とてもきつい」と感じる強度で7日連続で行うような週があったのだということになりますね。

グランツール期間なのかトレーニング期間なのかは分かりませんが、本当に凄いと思います。

また週平均のRPEが5~8で「高い」と評価されており、そのような週が2009年には4回、2012年と2013年には11回あったようです。

凄まじいトレーニング負荷ですね。



他の特徴

◆有酸素能力とトレーニング時間の相関

年別の週平均時間と5分、60分パワーの関係をみると、0.9前後の相関があり非常に関係の強いものでした。

つまり週のトレーニング時間が長くなることと5分、60分パワーの向上に非常に強い関係があったということです。

逆に5秒、1分パワーに関しては週平均時間との相関は見られませんでした。


◆ティボー・ピノ選手のトレーニングの特徴

彼は山岳での5分~1時間前後のパワー発揮をストロングポイントにしており、この強度帯でのクライム、またインターバルトレーニングを数多くこなしていたということでした。

この辺りの強度帯はオーバーリーチングになる可能性が高く、トレーニングは細心の注意が必要であると述べられています。


◆ウィークポイントの改善

有酸素能力の高さが求められるパワー帯が非常に強い一方で、1分以内のパワー発揮がウィークポイントになっていたようです。

この点を改善するため2012年はスプリント・インターバルトレーニングに力を入れ、大きな改善が見られています。



以上、今年で引退を表明されているティボー・ピノ選手の若手時代にスポットを当てた大変貴重な論文をご紹介してみました。

トレーニング時間もさることながら、週平均のRPEの高さには本当に驚きました。

プロサイクリストがいかに過酷なトレーニングを続けているのかが垣間見える論文だったのではないでしょうか。

私はこの論文を読んで以降、グランツールを観戦する際に選手へのリスペクトが今まで以上に跳ね上がりました。

今年で引退されるティボー・ピノ選手、現役生活本当にお疲れ様でした。


今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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今後も読みに来てくださいね。

ご紹介した論文

Pinot, J., & Grappe, F. (2015). A six-year monitoring case study of a top-10 cycling Grand Tour finisher. Journal of Sports Sciences, 33(9), 907–914. https://doi.org/10.1080/02640414.2014.969296

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