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「石は自然のもの。練って作るものじゃない。」という”ひとっさん”の言葉から「完璧な石」について考える。

「庵治石」を愛する親方に弟子入りをして5年。

結婚してすぐ、滋賀に住んでいたボクら夫婦に長男ができたことが分かって、香川高松に里帰り出産をすることになった妻。そんな妻に会うために、ボクは週末ごとに香川に通っていました。四国が大好きで、うどんが大好きだったボクは、この毎週末の香川を楽しみにしていました。そして、もう1つの楽しみが今の親方で妻の父親である”ひとっさん”と飲むことでした。香川に来る度に、”ひとっさん”としこたまビールを飲み、いろんな話をさせてもらいました。

ボクの師匠である親方の”ひとっさん”は、高校を出てすぐに石の職人になり、50年以上ずっと「庵治石」でお墓さんを作り続けてきました。仕事だとか、商売だかとか以前に「庵治石が好き。」、「石を見るとワクワクする。」と語るように、「庵治石」のことが大好き。「庵治石」を愛する気持ちはおそらく世界一だと思います。

いつも思いますが、そんな”ひとっさん”が語ることには、本当に大切なことがたくさん詰まっています。ボクが「石屋になる!」と決めたのも、この親方”ひとっさん”といろんな話をしてきて、たくさんのことを教えてもらったことがキッカケ。今でもいろんな話をするし、ずっと聞いていたいくらいです。妻は「毎回同じことを話して、何がおもしろいの?」と言ってくることがありますが、一緒に仕事をするようになって5年経った今も、”ひとっさん”の言葉からは毎回学ぶことばかりです。


”ひとっさん”がよく言う言葉の中でも、ボクが最も大切に思っているのは「石は自然のもの。練って作るもんじゃない。」という言葉。お墓さんを作っていると「キレイな石で。」とか「目合いが揃っているものを。」という言葉をいただくことがあるのですが、一見普通のこの言葉について「完璧な石」で仕上げることはどういうことか…という視点から、少し考えてみたいと思います。

「完璧な石」について考えてみる。

まず「庵治石」の特徴を少し。庵治石の丁場は、「大丁場」、「中丁場」、「野山丁場」、「庵治山」と4つの丁場があります。そして、その中にも採石をしている業者がいくつもあります。そして、それぞれの丁場ごとに目の細かさ、色合いなど、特徴がそれぞれ違うので、「庵治石は厳密に言うと200種類を越える。」と言われるくらい、採れる場所によって雰囲気が変わってくるということです。

うちの「松原等石材店」は、「大丁場」の「大進石材さん(以降『大進さん』)」の石を使わせてもらっているのですが、同じ「大進さん」の石でも、採る場所が少し変わるだけで、目合いや色合い、「庵治石」独特の模様の「斑(ふ)」の浮き具合などの雰囲気が変わります。つまり、石は均一ではありません。さらに、「黒玉」や「白玉」という黒や白のホクロのようなものがあったり、流れる帯のような「ナデ」と言われる模様が出たりします。自然のものだから、当然と言えば当然です。

さらに「庵治石」はキズが多く、すべての原石の中かあらお墓さんとして使える割合は数%と言われています。そんな中で「庵治石」で完璧に揃った石キレイに揃った石でお墓さんを作る…ということは、至難の業…なのです。

それでも「完璧な石」を求めるとしたら…?

難しいことは承知の上で、それでも「完璧なもの。」「キレイなもの。」を求めるのであれば、どう言うことが起こるか考えてみます。例えば、「◯◯家の墓」と書いてある竿石、とその下の台の2つの石だけで考えてみます。

模様が合わない、目合いが合わない、色が合わない…ということで納得いかなければ、どちらかを交換する必要があります。交換しても合わなければ、また交換です。もしも、それに「黒玉」があって納得いかない…となるとまた交換。また色が合わなくてまた交換。納得いくまでに5回交換したとします。そうなると、確かに出来上がったお墓さんはキレイで、合っているものができるでしょう。

しかし、ここで交換されて残ったものはどうなるかというと、多くの場合は在庫として残ってしまうことになります。みなさんが思っているようなオーソドックスな形であれば、もしかしたらまた別の機会に使うことができるかもしれません。でも、その別の機会までは在庫として抱えておかなくてはなりません。もしかしたら、機会がないかもしれないし、オリジナルの形であれば、もうその石は使うことができません。つまり、完璧を求める…と言うことは、それだけ石が必要になり、その分だけ手間がかかるので、言うまでもなく価格に反映されてしまうことになります。

「完璧」ではないのが自然の石。

”ひとっさん”がいう「石は練って作るもんじゃない。」という言葉は、難しい「庵治石」を長年扱ってきたからこそ…の言葉。石を挽いて、思うようにいかない時に相談すると、必ず「石は自然のもの。完璧な石はない。」と”ひとっさん”は言います。ただ、完璧なものは難しい…と言いながらも、その仕事を見ていると徹底したこだわりです。色合わせ、目合わせが難しいとされる「庵治石」ですが、”ひとっさん”が段取りした「庵治石」はどう見てもとてもキレイです。

”ひとっさん”に、このことを伝えると「一番大事なのは石。」と言います。それは「大進さん」の石が「庵治石」の特徴がある石で、かなり安定している…ってこと。産地での評価も最も高い石の1つです。ひとっさんはいつも「採れる石がいいからできること。」と断言します。

「大進さん」の石で、”ひとっさん”のこだわりで揃えられた「庵治石」は、おそらくそれ以上のものはないと思います。ボクから見たら、もしかしたら「完璧」と思うこともあります。だけど、”ひとっさん”は言います。「石は自然のもの。練って作るものじゃない。だから、完璧なものは無理。」と。

よければ、ぜひ庵治産地に遊びにきていただけたら…と思います。”ひとっさん”の作る「庵治石」のお墓さん、ぜひ見にきてくださいね。

庵治石細目「松原等石材店」3代目 森重裕二




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