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読書感想文

岸田奈美さんの「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」を読み終わって、思い浮かべた人がいた。
ちびまる子ちゃんの作者、岸田さんも大好きだと言っている、さくらももこさんのこと。

私はさくらももこさんが好きだ。
こどもの頃からずっと作品を読んできたし、読者の一人として思い出がいっぱいある。

小学生の頃、りぼんを買ってもらえば一番先に「ちびまる子ちゃん」を読んでいたし、中学生になってからはエッセイを知って、活字だらけの本でもこんなにおもしろい本があるのかと「もものかんづめ」「さるのこしかけ」「たいのおかしら」を繰り返し読んだ。
「ももこのいきもの図鑑」では「ベタ」という大きなヒレの、とてもキレイな魚がいることを知った。迷宮器官を持っており、小さなビンやコップで飼えると書かれていて、いつか飼ってみたいと思って読んでいたけど、それを叶えたのは20年以上経った最近のことだ。

「憧れのまほうつかい」を読んだ後は、本屋さんでエロール・ル・カインの本を買った。
それは高校生の時だったけれど、「おどる12人のおひめさま」はすっかり大人の年齢になった今でも、何か絵を描く度に参考にしたくて何度も開いている。
「そういうふうにできている」を読んだ時は、まだ自分とは縁のない、「妊娠・出産」という出来事を面白おかしく読み、10年以上後、自分が妊娠した時には本の内容と自分の状態を比べたり、また読み返してこどもの名前を考えたりしていた。

お茶のペットボトルに付いている、のほほん絵日記(息子さんに「ニッカグリのサレだって!」と言われ、何の事かと思ったら「3日ぶりの晴れ」だとわかった、というような日常のエピソード)が読みたくて、お茶をゴクゴク飲んで集めたり、アニメのエンディングで「アララの呪文」を見てうっかり泣いてしまったり、静岡に行った事はないのにおでんをみると「静岡ではお肉があるんだよな」と思っていた。

ピエールラニエの時計も宝石もおひなさまも、健康食品もワインもタバコも、豆柴もオウムもカメも、私が手にするようなものではなかったけれど、さくらももこさんがときめいているその様子を楽しんでいたし、しりとりの流れでしか口にしない「ルビー」が何色かも知らなかった私も、パライバトルマリンは地球の色だということはしっかり覚えた。
バリのナシゴレン、台湾の豆腐花、香川のうどん、テーブルいっぱいに注文するシフォンケーキ…たくさん出てくるおいしいものは私の心にメモされて、大人になって少しずつ食べては、「ああコレが…」と過去のさくらさんのおいしさに共感している。
カヒミカリィ、コーネリアス、大滝詠一、祖父江慎、ガウディ、土屋賢二、長谷川健太…さくらももこ作品の中から知った人たちだ。

さくらさんの作品を通じて知ったものや人が、どれほど私の暮らしに浸透し、広げてくれたか、言い出せばキリがないほどになっている。

何度引っ越しても私の本棚にはいつもさくらももこ作品が並び、家でも、バイトの休憩中も、電車の中でも持ち歩き、交換してまた読み直し、新刊を見つければ中身を知らなくても自動的に買った。
コミックに数ページある文章や、後書きによく書かれていた「みなさんお元気で」という言葉も、子供の頃は「さようなら」と同じ、挨拶のひとつとして読んでいたのに、大人になって本当に、みんな元気が一番!と切実に実感するようになった。(コジコジが七夕の短冊に「みんなげんき」と書いたおかげで、みんながなんだか急に元気が湧いてきたぞ、というお話が忘れられない。
あと、コジコジで、おしりが2つに割れている理由、いきなり穴だとキケンだし、3つだと意味がないから、というのも忘れられない)
楽しいことが盛り沢山な日々に見えるけど、そんなにもお忙しそうで、さくらさん、あなたこそ、ぜひお元気で、と届かないとわかっていながらも願っていた。

さくらさん自身を見たのは、NHK「トップランナー」という番組のゲストで出演されている時、ラジオ風に撮影されたうしろ姿だけだったけど、さくらさんのありとあらゆる表情は、ものすごくたくさん私の中にあって、スーパー一方的だけど、私にとって、とても大切な大親友のような存在になっていた。

そしてそれは、これからもずっと長く続いていくもので、さくらさんの人生に起こる様々な出来事を、おもしろく、優しい気持ちで知っていけるものだと思っていた。

しかし、平成30年8月、突然、さくらももこさん訃報のニュースを目にする事になった。
とてもとても、信じられる事ではなかったけど、テレビでもネットでも大騒ぎになっていた。
そして登録してあった公式LINEでも、さくらプロダクションのホームページでも「永眠いたしました」と書かれている。

うそだ、うそだよ、なんで?やだやだ、そんなの絶対にいやだ!
チャキチャキしたかわいいおばあちゃんになりたいって言ってたじゃん!
あたしゃ、まーだ漫画描いてるよって言いたいって書いてあったもん!
まる子もコジコジもエッセイも、まだまだまだ読みたい。考えれば考えるほど、どんどんどんどん悲しくなっていった。そしてハッとした。

いつも心配しているお母さん
何があっても調子が変わらない父ヒロシ
まだお母さんがさくらももこだとは知らずに、目の前でファンレターを書いていた息子のめろんくん、美人で優しい千香ちゃん(賀来千香子さん)、玄関で父ヒロシを見て爆笑したよしもとばななさん、ずっと大好きなたまちゃん、さくらプロのスタッフの人たち、くいしんぼう同盟…
さくらさんが大切にしていた人々とのエピソードは私にとっても大切なものになっていて、さくらさんの文章を通して知っていたその人たちの日々までも、丸ごと失ってしまった事に気づいたのだった。

会ったこともない、作家と読者という関係とは思えないほど心にダメージを受けた。

そしてこれからも、私は繰り返しさくらももこさんの本を読むだろうなと改めて思った。

あぁ、本当に、さみしい。


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リビングに、読み終わった「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」を置いていたら、「岸田奈美さんて、誰だっけ?」と夫がきいた。
noteとかTwitterで見てる作家さんなんだけど…
ほら、全然タイプじゃない友人に告白されたんだけど…とか、自由ヶ丘でケーキ屋さんを聞かれて…とか、その、岸田奈美さんだよ、と言うと、
「あぁ、その岸田さんね、話してたね。」と思い出していた。そうだ、私はすでに岸田さんのことは夫に話していたんだっけ。文章を読んだその後には、今日会って近況を聞いてきた友人の話をするように夫に話していたんだった。

さっそく、浸透していた。

本のどこを開いても、岸田さんは全力だ。
すっごく遠い向こうから、全速力で転がってくるか、自転車をゴイゴイ漕いでくるような感じ。
しかも、泣きながら。

岸田奈美さんとお会いしたのはサイン会の時だけだ。それなのに、この本を読んだだけで、大喜びしている満面の笑顔も、悲しくて、のびたみたいに、わんわん泣く姿も、信じられない!と驚く表情も、お母さんから届いたLINEスタンプを2度見する様子も、
全部目の前で見た事があるような気がしてしまう。


一つエピソードを読むたびに、奈美さんを、良太さんを、お母さんを、お父さんを、好きになっていく。

絶世の聞き上手だった母は、入院していたとき、病室に見舞客がたえなかった。最初は友人や親戚ばかりだったのだが、いつの間にか、看護師や理学療法士なども集まってくるようになった。みんな母に話をきいてもらいたいのだ。予約表なるものがベッドサイドに登場したとき、わたしは度肝を抜かれた。

私も度肝を抜かれた。こんな人、いるんだ。だってみんなの話を聞いているのは、入院してる本人だ。

でもサイン会でお会いして、お母さんのひろ実さんと少しお話させてもらった時にわかった。私の順番はほぼ最後、たくさんの方々の対応をされた後、まとまらない私の話を、柔らかい表情でしっかり見て、聞いてくれていた。話したくなる気持ち、すごくよくわかった。


だれに笑われても、あわれまれても、まったく気にせず。
もぐもぐ食べて、すやすや眠り、げらげら笑い、大人になっていた。
そして、私を助けてくれた。

奈美さんの目を通した良太さんは、いつも自然で、頼もしい。お二人のやりとりはどれをとってもおもしろい。良太さんのお話、もっと聞いてみたい。

良太さんからはどんなふうに奈美さんが見えているのかな。どんなことがおもしろくて、どんなことが大切なのか。


パパね、救急車に乗るとき、何回も言ってた。『奈美ちゃんは大丈夫や』『奈美ちゃんはオレに似とる』『だから絶対に大丈夫や』って。

先見の明をもつお父さん、浩二さんのこの言葉はとても強い。なんで大丈夫なのかなんて本当の答えは浩二さんの中にしかないし、ひょっとしたらご本人も「そう感じる!」のような言葉にならないのかもしれないけど、

さあ行け、良太。
いったことのない場所に、どんどん行け。

という奈美さんの言葉と同じような想いがあるのではないか。

信頼しているし、愛しているし、見守っている。

好きなように、好きな場所で、好きな人と、どんどん挑戦して、転んで起き上がって、助けられて、助けていってほしいのではないかな。

父からもらったもので、わたしはたくましく育ち、たくさんの人に助けてもらい、今日も生きている。

娘がこう思えるなんて最高だ。


「ママが、生きててよかったって思えるように、なんとかするから」
でまかせは少しずつ、本当に少しずつ、現実になっていった。

「奈美さん、こんなに頑張れるなんてすごい!」って、一冊読んでいる間に何回思っただろう。英語の先生に言われていた、

「おお、マジでやったんか。いやあ、すごいわ。」

という言葉は、ものすごい数の人に思われてきたのではないだろうか。

絶望して、悲しくて ”ただ、毎日、死なないように” 生きて、もうこれからの人生、なんにも辛いことが起きないようにしてほしい程の経験をしているのに、岸田さんは楽しい方に、笑える方に、優しい方に、自分の足で向かっていく。

「すごいですね」なんて気軽に言えない努力の量で、家族を幸せにしていく。こんなにも親を輝かせるこどもがいるだろうか。

家族全員が、人のかわいさ全開だ。


全部読み終わった後も、ふと手に取り、もう一度読み始めると、続きが気になって読んで、また笑う。

目まぐるしく起こる出来事の一つ一つがものすごく濃く、大泣きしながら、びっくりしながら、助け合いながら、とても素直に生きている。
そしてスピード感のある、つい笑ってしまう文章を、これまた全力で書き綴られている。

まだ岸田さんの本を、たった一冊しか読んでいないなんて信じられないくらい、岸田奈美さんを好きになっている。さくらももこさんを追いかけていたように、岸田奈美さんを追いかけていれば、笑って泣いて、びっくりしてズッコケて、大忙しで幸せだろうな。これからを、たくさん知りたい。

この本に、出会えて良かった。

私はまた、作家と読者というスーパー一方的な大親友に、岸田奈美さんとなりたいと思う。

サポートをしたいと思うくらい楽しんでもらえたと自信になります。 読んでくれてありがとうございました!