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学級崩壊が起こらないシステム

2020/01/22 07:58

 最近、『大草原の小さな家』をシーズン1から見ているのですが、70年代に子供の頃、日本で見ていた時とは違い、今は親の目線、在米邦人としての目線で見ているので、新鮮な発見や気づきがあります。



 ローラ達の学校は、キンダーガーテン(幼稚園年長)から12年生(高校3年生)までの異なる学年が一クラスに会する、ごく小さな学校です。農閑期だけ通学する大きな男子生徒が問題を起こす時もありますが、先生一人で、見事に整然と秩序を守っています。



 ただ、ひとつ見ていて気になったのは、ローラの宿敵ネリーの弟、ウィリーが、些細なことでしょっちゅう立たされることです。学校のシーンでは、必ずといっていいほど立たされています。ミス・ビードルはとても心温かく聡明な先生なのですが、ウィリーの、わざわざ言う必要のないような茶々や冷やかしには容赦ありません。ウィリーが何か言うとすかさず「ウィリー、教室の隅に立ってなさい」と顔色ひとつ変えず冷静沈着に指示します。ウィリーの発言のほとんどは悪意がなく、日本だったらむしろ、面白いことを言ってクラスを沸かせる人気者になりうるのではないかとさえ思います。



 それを見ていて、うちの子が学校に行き始めた頃のことを思い出しました。娘がキンダー(幼稚園年長)の時、先生に叱られたとえらく凹んで帰ってきたことがあります。高校2年になった今でもそのことは根に持っているようで、思い出す度に言うのですが、「叱られるようなことは何もしなかった」らしいのです。なんでも、何かの作業をするのに誰かと2人組にならなければならないところ、モタモタしていたら男の子と組まなければいけなくなって泣いた、というのが罪状らしいのです。子供の記憶なので、実際はもっと迷惑行為を行っていたのかもしれませんが、内気で外面の良い娘のことなので、「ただモタモタしていた挙句メソメソ泣いてて叱られた」というのはおおよそ間違いないのではないかと思います。



 また、息子がキンダー(義務教育最初の学年)に行き始めて2、3週間経った頃のこと。お迎えのため教室の前で待っていると、息子がギャン泣きして出てきました。聞いてもヒックヒック過呼吸状態で状況が分からないので、先生に「息子に何かありましたか?」と聞いたら、「今日はチケットが10枚貯まった子がご褒美をもらう日だったのですが、Gくんはまだ10枚貯まっていないので、ご褒美をもらえなかったからでしょう」とのことでした。



 ポイント制度。これはアメリカの小学校で一般的に行われているシステムのようです。1日問題なく過ごした子は1日の終わりにチケット(ポイント)をもらいます。1度でも先生から注意されるようなことがあった子はもらえません。ポイントが一定数貯まったら、小さなオモチャだとか文房具のようなご褒美と交換することができます。ポイントは能動的に稼ぐこともできます。つまり、先生のお手伝いや教室の片付けなどを率先してやることで、ポイントを稼ぐのです。息子は自分以外のほとんどの子がオモチャをもらっている状況に、自業自得、自分の行いは結果として自分の身にふりかかる、という現実を生まれて初めて思い知り、ショックを受けたのであろうと思われます。




 アメリカの学校では、任意で保護者が先生のアシスタント的なことをするのが一般的で、私も週に1、2度ボランティアをしておりました。教室内で宿題の添削をしたり生徒の作品を壁に貼ったりしていた時は、授業の様子を見るともなく見ていたのですが、5、6歳児が黙って先生の話を聞き、発言を求められたら手を挙げ、指名された時だけ話す、ということをきちんとできているのに驚きました。そして、数ヶ月観察していくうちに、それを可能にしているのが他ならぬポイント制度であることを学んだのです。




 自分の能力をアピールする者はそれだけのものを得、そうでない者は失う。与えられている機会と条件は平等なので、結果の不平等に関しては、誰も文句を言いません。学校でオモチャをもらって帰ってくる子といつまでもオモチャがもらえない子がいる。アメリカの実力主義ってこういうことか……と思ったものです。これが良いのか悪いのかはケースバイケースだと思いますが、このようなシステムでは、少なくともオモチャが大好きな学齢のクラスで、学級崩壊は起きないわけです。



 70年代、80年代の日本で子供時代を過ごした私なんかは、軍隊教育の名残がまだ微かに残っていた昭和の教育現場と比べて、映画やメディアで見るアメリカの教育現場を「自由そうでいいなぁ」なんて思っていたものですが、実際はアメリカの教室の方が窮屈であるということを知ったわけです。

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