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からをやぶる

アイザワは実際ぽんやりしていた。

これまで色々あって本当に疲れていたので、以前の恋人と別れてからは「別に一生独り身でもいいかなあ」などと考えていた。

とりあえず仕事はできているし、友人関係にも恵まれている。住んでいる場所は結構な田舎だが、娯楽の少ない田舎故に都会と違って(最低限気をつけてさえいれば)コロちゃんにそこまで怯えることもなし、そもそも住むだけなら特に問題視することもない。かがくのちからってすげー!
なので最近までは本当になーんにも気にすることなく、明日のご飯のこととかを考えながら自由に暮らしていた、

いたのだが。

ある日、ふと冷静になって考えた。
ちゃんときっかけがあったのだがそれは後で書くことにする。

アイザワの友達にはだいたい恋人(もしくは嫁・旦那)がいる。
遠距離だとか異性だとか同性だとか、形はそれぞれ違うけれど。いくら遊んでいようがきちんと帰る場所がある。皆にはそういう大事な人がちゃんといるのだ。
それに比べて自分はどうだ?いい歳こいて未だにフラフラしている。

そんな事を思ったら、自分自身に対して無性に腹が立った。

ちなみに、独り身のことを悪く言うつもりは無い。
そもそも人生は自分のモノなので、他人にとやかく言われようがやりたいことやって好きなように生きて死ねれば本来はそれでいいのだ。多分。
それに結婚やら出産やら子育てやらで苦労している話は色んな人からたくさん聞いているし、できることなら自分もこのままでいたかった。

しかしアイザワは、自分の人生に疑問を持ってしまった。
ずっと望んでいたことを思い出してしまった。

本当にこのままでいいのか?
誰にも必要とされないまま死んでいいのか?

誰かに必要とされたかったんじゃなかったのか?

怒りと焦燥とその他もろもろの感情に突き動かされたアイザワは、勢いのままに友人(天使ちゃん)からの誘いを受けた。

それが「友人に会って欲しい。それで、もし気が合うようなら恋人になってやってほしい」という話だ。

もっと相応しい相手がいるだろうと数ヶ月ほど断り続けていたのだが、これが自分を変える最後のチャンスだと思った。

もし相手がアイザワに価値を見出してくれる人だったなら、自分も真剣に向き合おう。
過去に囚われてずっと前を向けなかった自分も、いい加減変わらなければならない。
そして、変わるのは間違いなく今だ。

この時のアイザワはそう確信していた。
おもいこみのちからってすげー!


そして、いざその相手に出会う……前の日のこと。

アイザワは転職を決めた後輩に会いに行った。

数年ぶりに会いたかったというのがもちろん大元の理由だが、ほぼ初対面の相手、しかも自分が最も苦手としている異性という存在に会わなきゃない事実にビビっている自分の背中を蹴飛ばすためでもあった。

後輩に会って背中を蹴飛ばしてもらう?ナンデ?
ボブは訝しんだ。

◇◇◇◇◇

そもそも天使ちゃんの誘いを受けたきっかけは、間違いなくこの後輩の影響なのだ。

お互い離れた場所にいるのでネット上のみではあるが、アイザワは割と長い期間、後輩の転職活動に関する奮闘ぶりを眺めていた。あまり踏み込みすぎるのもアレなのでホントにほとんど眺めていただけだが。
そのおかげか、アイザワにも知らず知らずのうちに前向きになるバフみたいななんかがかけられていたらしい。

そして後輩は無事に転職が決まった。ヤッター!
それを見て昂った。「自分も変わりたい」という思いが湧き上がった。
アイザワはたんじゅんだった。

しかし自分は転職を望んでいたわけではなかったので、それ以外で現状を変える方法を色々と考えて……心の奥底にずっと押し込んでいた「自分にとって一番必要だと思えて、尚且つアイザワを一番必要としてくれる存在に出会いたい」という願いを取り戻したのであった。

今考えてみたらかなり無謀な願いだなコレ。

◇◇◇◇◇

後輩に実際に会って話してみると、なんかこう……言葉とかにスゴイツヨイ・パワが漲っていた(アイザワの感想です)。

おいしいラーメンを一緒に食べて、転職の話とかお笑いの話とか今後の話とか、とにかく色んなことを話して。

アイザワは(勝手に)勇気づけられた。

色んな偶然が重なって、たまたま数年共に過ごしただけの関係。それでも未だにその繋がりが残っていて、こうして嬉しいことを一緒に喜べるような関係でいられるのはとても幸運なことだと思う。

大きな一歩を踏み出した勇気に、心からのソンケイを。
これから先の人生がもっといい方向に向かいますように。
アイザワは勝手に願っています。

コロちゃんが収束したら、またメシでも食いに行きましょう。


そしてアイザワは戦いに挑んだ。
その結果……自分が最も求めていた相手だったドギーに出会う事ができた。

正直なところ出会ってから現在まであまりにもスムーズに事が進んでいるので「これはドッキリなのでは?」と思うことは多々ある。
それでも今のところは問題なく過ごせているので良しとしよう。

紹介してくれた天使ちゃんには本当に頭が上がらない。
そして、自分のこれからを考え直すきっかけをくれた後輩にも本当に感謝している。

以上、アイザワのからをやぶったお話でした。

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