福丸小糸W.I.N.G.編の果てしないうつくしさ。あるいは、シャニPという「大人」について
こんにちは、高専出身ライトノベル作家兼フリーランス広報の藍月要です。
先日、福丸小糸とW.I.N.G.優勝を勝ち取りました。
da特化で挑み、決勝では不運にもvo流行でダンベルちゃんと殴り合いになりましたが、メロビ三峰や熱血夏葉の3.5倍釘パンチなどで土手っぱらを刺し、なんとか優勝。
優勝の喜びもさることながら、小糸W.I.N.G.編はほんとうにほんとうに、ストーリーがうつくしいです。その熱に浮かされ、この怪文書を書いています。
自分はかつて何年か高校で教員をやっていたのですが、そのときのことを思い出したりもして、すごくグッときた。
以下、いくらかネタバレがあるのでご注意ください。
『アイドル』と福丸小糸
アイドルマスターにおいて、アイドルになった理由はみんなそれぞれです。昔からの憧れだったからとか自分を変えたいからとか、家計を支えるためとかスカウトされてとりあえずとか、月に住む一族のためとか（諸説あり）、いろいろ。
さて、その中で高校一年生の女の子・福丸小糸は、「アイドルになった幼なじみたちといっしょにいたいから」という理由で、283プロの門を叩いています。これは、もうすこし踏み込んで言えば、「もう独りになりたくないから」でもあるのでしょう。
忙しい両親はかまってくれず、昔から勉強ばかりしていて（させられて？）あまり友だちは作れなかった。幼なじみたちノクチルメンバーとも、中学校が別々になったりで距離が離れた時期がある。
小糸にとって濃い関係は幼なじみたちだけかもしれなくて、そしてその幼なじみたちとだって、状況によったら簡単に疎遠になってしまうのだと、彼女は既に経験から知っているんです。
そういった事情から、小糸は「アイドルになる」のが目的じゃなくて、「アイドルになった友だちのそばにいる」ために自分もアイドルになりました。
だから、プロデューサーから「どんなアイドルになりたいか」と聞かれたとき、彼女には答えることができなかった。だってそんなもの、彼女の中にはないのです。
アイドルである以前に、一人の悩める女の子であり、独りを恐れる子どもである福丸小糸。
プロデューサーは、そんな彼女にどう接していくのか。そして小糸は、答えられなかった問いにどう向き合うのか。
これらが、この福丸小糸W.I.N.G.編の大きな大きな見所です。
大人と子ども
シリーズや媒体によって、アイマスのPというのは様々なパーソナルで描かれますが、このシャニマス……特に福丸小糸W.I.N.G.編の彼は、一言で言うと、『ものすごくちゃんとした大人』です。
以下のシーンを見てください。
これは、小糸が両親にアイドルをやっていることを切り出せず（どうせ却下されるという諦観があった）、それをプロデューサーに言うこともできないまま、結局プロデューサーが小糸の家に電話をかけてしまって事態が明るみに出る……というシーンです。
小糸は真面目な女の子。怠惰や悪意で事情を伏せていたわけではなく、両親との関係上、言い出すことができなかっただけ。
だったら謝るべきは、それを相談してもらえるような関係を築けなかった自分の方。それがプロデューサーの判断です。
小糸の性格上、こういったことで嘘を吐くのは、真面目で気も小さい彼女にとって相当に負担だったはず。ほんとうのことが言えたなら、その方が断然楽です。だからこその、「嘘つかせることになってすまない」なんです。
この一幕からわかるのは、プロデューサーは、小糸をひとりの人間としてきちんと尊重しつつも、最大限、守るべき子どもとして扱っているということ。
ていねいにていねいに言葉と態度と行動を選んで、彼女の心に気を配っているのが、一連の様子に強く現れています。
なにがすごいって、「アイドルのこと、何も言ってなかったんだな」のあとに発する言葉が、「小糸に謝らなきゃならないことがたくさんある」というところ。表現が配慮に満ちてます。
これってつまり、この場は自分（プロデューサー）が君（小糸）に謝る場なんだ、と宣言しているわけです。かなりていねいなやり方ですね。
しかし、こういうものはしょっぱなから「君は悪くない」なんてどストレートに言っても、かえって構えさせてしまうだけだったりします。「君は」と「悪」が並んで発声される時点でわりとアウトです。
対し、「小糸に謝らなきゃならないことがたくさんある」……この万全の配慮たるや。めちゃくちゃ練られた表現だなあと唸ってしまいます。
さて、そんな先のものよりもなお、プロデューサーの配慮が光るシーンが次のものです。
もうこれ、一言目から配慮の塊です。すごい……。『幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程』と『生徒指導、教育相談及び進路指導等』に類するいくつかの科目を履修しているとしか思えない。教職取ってるんじゃないですかね、シャニP。実務経験もありそうだな。
「もしかしたら小糸は、頑張ってるところ見られるの
あまり好きじゃないのかもしれないけど」
この発言。すこしだけ大仰な表現で言えば、このときプロデューサーは、小糸に呪いをかけないように注意しているんです。
小糸にとって、努力というのは後ろめたいものです。なぜなら、彼女の大好きな幼なじみ三人は、なんでもすぐにできる（ように小糸には見える）から。がんばらなければ彼女たちの背中に追いつけない小糸にとって、つまり『努力』は、すればするほど自分は三人とは違うと再確認せざるを得ない行為です。
だから当然、人にもなるべく知られたくない。ましてや、誰かに誇れるものなんかではない。
努力を誇れない努力家の女の子、それが福丸小糸です。
彼女の口癖である、「別に普通ですよ！」「全然よゆーですよ！」……背景を理解したあとだと、これほど悲しい言葉もなかなかありません。そう見せなきゃいけないし、そうでしかない——それがこの口癖の源泉です。
そんなこんなを知った上で、この衣装説明を見ると泣く。
小糸はおそらく、自身の努力を誇れない自分を自覚しているでしょう。
あした、羽が生えたりなんてしないことを、彼女は誰より知っている。（幼なじみのみんなと違って）羽のない自分は、必死に地面を走るしかないけれど、そんなのすごいことでもなんでもない。そう思っている。
だけど、それをそのままズバリ、他人からも言われたらどうでしょう。その時きっとほんとうに、彼女の中でその考えは、確定事項になってしまいます。それはおおむね、人生に巻きつき心に焼きつく呪いです。
さて、では以下の二文を比べてみましょう。
A：
「小糸は、頑張ってるところ見られるの
好きじゃないんだろうけど」
B：
「もしかしたら小糸は、頑張ってるところ見られるの
あまり好きじゃないのかもしれないけど」
いかがでしょう？ 実際にプロデューサーが言ったのは、Bの方です。
小糸が努力を後ろめたく思っていることとは、向き合わなくてはいけません。だからこの話をしないわけにはいかない。
でもプロデューサーは、「もしかして」「あまり」「かもしれない」を使って、ほんとうにギリギリの上手いラインで、言葉を固めずに話を進めています。
これはあくまで仮の話なんだけどさ、そういうところがもしちょっとあるならくらいの話でさ——なんて態にしているんです。彼女に呪いが焼きつかないように。
シャニP……。
プロデューサーの配慮は、三文目にも現れています。
「こっそりでもいいから、教えてもらえると嬉しいよ」
こっそりでもいいから！！ 「堅苦しいものじゃないから気軽にで良いんだ」とハードルを下げ、「周りにはもちろん秘密だから」とやわらかく示して安心感を上げる。「こっそり」だなんて、可愛らしい語感の嫌味のない言葉に、そんな気遣いを乗せて。
見てください、これがシャニPです。シャニPなんです。そら恋鐘も千雪も卑しくなるわ。
教えてもらえると嬉しい、というのも良いですよね。「やってほしいな」じゃなくて「やってくれると嬉しい」。
これって、特に小さな子ども相手には定番の言い回しではあるんですが、小糸は誰かの役に立てることをとても喜ぶ女の子です（すこし穿った言い方をすれば、役に立てればすくなくともそのとき、そこに自分の居場所が出来るから）。
そんな彼女のため、意識的にあえて使った言葉でしょう。
シャニPは、しゃがんで俯いている人と話すとき、自分も足を折り畳んで膝を突いて、目線を合わせて手を取れる人なんだなと思います。
例にあげたシーン以外も、とにかく万事、シャニPはこんな調子です。
答えと翼
努力を誇れない努力家の女の子が、プロデューサーといっしょに、そんな自分と向き合う。
そして、『アイドル』になりたくてなったわけではない人間として、これからどんなアイドルになりたいかの答えを出す。
それが、福丸小糸W.I.N.G.編です。どんな答えが出されたのかは、ぜひみなさんの目でご確認いただければと。わたしは泣きました。
彼女に羽が生えるその瞬間を、ぜひ見届けてください。
この記事でお伝えしたいのは福丸小糸W.I.N.G.編のエモさと、そしてシャニPの素敵さです。ほんとうに、とてもまっとうで誠実な、『ちゃんとした大人』なんですよ、彼は。
夢を追ったり現実に迷ったりする子どもに優しく寄り添って、心を守って背中を押してあげられる、ちゃんとした大人。
小糸に限らず、年齢の低い子を相手にしたとき、特にそういう傾向があるように見えます。父性が強い。
なお、逆にというか、子どもではなく『女』を出してくる手合いには、どうしたらいいか迷っているような気もします。やつらは卑しか女ばい……。
いや、個人的にはPドル的なやつほんと大好きなので、これからもどんどん卑しい勢にはがんばってほしいのですが。
余談ですが、なんならむしろ、たとえ現状卑しい勢でなくともこれから卑しくなってほしいとすら思っています（下図参照）。
めぐる、バッチボコのヤンデレであってほしい気持ちがあります。trueのこれとか強い pic.twitter.com/wUfjnXzsFR
— 藍月要＠星海社新書『理系のための文章教室』5/27発売 (@kaname_aizuki) May 12, 2020
以上、怪文書を終わります。小糸のSSRのために、石は取っておこう貯めておこう。
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各種レビューサイトでとても高い評価をいただいており、Amazonでは現在(2021/01/08)、以下の通り！
しかし、読んでくださった方々の評価は非常に高いのに売り上げが足らず、続刊が出せていません。
「クールに見えて、裏ではだいぶ重めな想いを抱えて暴走している女子」と、「そんな彼女の気持ちを実はわかってしまっている特殊能力持ち男子」の、すれちがいラブコメ。
めちゃくちゃ自信作です、よろしければぜひぜひ〜！
追記）
小糸true編も書きました。
雛菜W.I.N.G.編も書きました。
雛菜『感謝祭』編も書きました。
みんなのご支援まってるにゃん！！