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人間のダメなところが出ているね

訪れてくださり、ありがとうございます。
本記事は、米国オレゴン州・ワシントン州を中心に毎月1万部発刊されている「夕焼け新聞」に連載中のコラム『第8スタジオ』の転載記事(修正・加筆含む)です。本記事は300円の入場料をいただきます(価格は字数や内容によって変動)。「夕焼け新聞マガジン」は8年目に入り、毎月1本のペースで配信しています。2017年からスタートし、現在までに80本の記事をお届けしてきました(個人的にこの年月にびっくり!)

このマガジンの原稿は合計80本に達しましたので、お知らせしていました通り、これを機にサブスクリプションに移行する予定です。こちらのマガジンの更新をとめて「夕焼け新聞vol.2」という新しいマガジンを開くことを考えています。毎月1本は少ないと思うので、これに追加してもう1本のコラムをつけて毎月お届けしていく予定です。

異国で暮らす日本人の葛藤、就活、仕事、家庭、育児、バイリンガル教育、ギフテッド教育などについて書いてきました。今後も取材を続けます。ここまで続けてこれたのは毎回記事を楽しみにしていて下さる読者さまのおかげです。心より感謝申し上げます。


 毎年思うことだけれども「今年日本に帰れるかなあ」と心配する。仕事をどう休むか、高騰する飛行機チケットを買えるか、残してくる夫のことなども頭によぎる。

 改めて思うのは一年に一度日本に帰ることのできる贅沢だ。これって当たり前のことじゃないなと思う。父と母が生きて待っていてくれる場所がわたしにとって日本で、これをあと何年続けていけるだろうなあ。永遠はないから、よけいに。

 今回の一時帰国では東京ではなく関西空港を利用した。東京行きは軒並み飛行機がなかったが、関空行きならたまたま見つけることができたのだった。

 わたしは一度も関空を利用したことがなかったので怖かった。一度も行ったことのないところはやっぱり怖いんだなあとも思った。

 せっかく大阪に寄ったついでに子どもの熱望していたUSJに行こうかとも考えたが「人が溢れかえってるよ」「すべての品物が高いよ、こんなものにと思うもので4000円するよ」「並び過ぎていてアトラクションにはほとんど乗れないよ」「とにかくお金がかかる」という周りからのUSJ感想を聞いて気持ちが萎えて、結局大阪街歩きをすることにした。

食べて歩いて、食べて歩いて、それを繰り返した。

長女いわく「5メートルに1つは食べてみようかなと思うものがあるのが大阪だね。全部魅力的。難波とか心斎橋とか道頓堀とかの話なのかもしれないけれど、これはいくつお腹があっても足りないね」ということだった。わたしもまったく同じことを思った。さすが食い倒れの街!

 もっとも印象的だったのは、関空に降り立ち、シャトルバスでホテルに向かおうとしたときのこと。夜の便で関空に降り立ったので時間は午後10時30分を過ぎていた。

 事前にホテルには連絡したものの、シャトルバス乗り場がなかなか見つからない。出口から右に100メートルは進んで、間違っていて、今度は左に200メートル進んで、そんなことを繰り返したのちに出会ったのがシャトルバス運転手のマツウラさんだ。

「我々もね、空港にお金を払ってシャトルバス乗り場を作ってもらったんですけど、空港職員でさえここを把握していない。間違えたところをお客さんに伝えてしまうんですわ。あんたたちだけじゃないですよ、間違えたの。毎日こんなことが起きてるんです」

 そうか、そんな事情があったのかとその事実を受け止めながら、一方で、次回ここ関空に来る時に果たしてそれを覚えていられるだろうか、自信がないなあと思った。
 
真っ暗な道のなかを進むホテル行きシャトルバスに乗ったのはわたしと娘の2人だけだった。ほかに乗客はいない。

 マツウラさんはよく喋る運転手さんで「で、あんたたち、どこから来たの?」とマイク越しに聞いてくる。当然わたしたちに聞いているのだ。

 わたしは疲弊していたので、あまり喋る気持ちではなかったのだけど、大阪弁の口調に心をほぐされたのか「ロサンゼルスです」と答えた。

 正直にいえば、わたしは「どこから来たの」と聞かれる時、どう答えるかを毎回操作している。

 コロナ以降、そういう考えが自然に染み付くようになってしまった。防衛本能ですね。

 この答えが結局、マツウラさんの心の中にある何かを刺激し、話は思わぬ方向に転んでいくことになった。ほんと、人生ってわからないものです。


「21才の時やったかな、当時ね、月給が3万円の時代。役員のような偉い人でも5万円の時代ね。日本からロサンゼルスまで片道15万円だった。よう覚えとうよ」

「給料5ヶ月分ですね?」

「そうそう。それをね、僕はね、用意したんです。当時付き合っていた彼女がいてね、ふたりでロサンゼルスに片道切符で行こうと思ってたの。僕は鶴見に住んでいた。英語もできなかったし、当然仕事の展望もあるわけじゃなかったし、もう裸一貫だよね。若さで向こうに行ってなんとか一旗あげようって思ってたの」

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