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これが最後の号泣ごっこ 『ポニイテイル』★38★

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たった1週間で青い毒キノコが、赤いハイビスカスになるミラクル。

人はどんどん変わる。

昨日と今日は別人。一瞬、一瞬、変わる。

シンプルに、勇気を出せばいい。

物語のスピードは、赤いスポーツカーのように一気に加速する。

悲しいくらい、どんどん、どんどん。

嬉しいくらい、どんどん、どんどん。


レミ先生も変わる。マカムラも変わる。リンリンも変わる。

そしてウチも——あどは声を妖精にして、親友に伝えた。


「リンリンが主人公の、新しい物語が始まったのね」


何それ? バカ?——そう返されるタイミングだったのに、リンリンの言葉は優しかった。

「あどちゃんもきっと……会ってない間に、いろいろあったんだよね」

「うん。いろいろあったよ。リンリンよりずっとショボいかもだけど」

「話せば長くなるね」

「たぶん」

「レミ先生と海に行ったんだって? どうだった?」

「楽しかった。でも、言わなーい」


バンビとハムスタはグローブソファで身体を寄せて、思いっきり泣き合った。これが最後の『号泣ごっこ』になることは、2人ともわかっていた。

長すぎて語られないあどの物語と、風の南の島の物語はクロスして、この先はたぶん離れていく。軌道を共にしていた2つの星が、ゆっくりと遠ざかっていくように。

さんざん泣いた後、鈴原風は立ち上がり、ユニコーンの角を頭に乗せて歩き始めた。

1歩、2歩、3歩。4歩目で角はひたいを離れ、リンリンはそれを上手にキャッチした。


「帰りの飛行機で、めっちゃいいアイデア思いついたんだ」

「いいアイデア?」

「あたしもおみやげがある。はい、これ。キャッチして!」


鈴原風はわざわざ距離を置いてから、真神村流輝が教室でしたように茶色いカタマリを投げつけた。


「な、なにコレ? 岩?」

「岩じゃないよ。サーターアンダギー」

「なにそれ。もしかして……ミヤコウマのフン?」

「ちがうよ。めっちゃウマい沖縄のお菓子。甘い」

甘いというフレーズを聞いた瞬間、あどの口はシーサーのようにカパッと開いた。

「待って! いま食べたらディナーが台無しになる!」

「ディナー? ディナーって何?」

「これからみんなで、屋上のデッキでパーティー」

「みんなで? みんなって誰?」

「遅すぎだけど、あたしたちの誕生日パーティーをするんだ」

「ウソ! そんなの聞いてないよ! ていうかウチ呼ばれてなかった!」

「でも、ちゃんと来てるじゃん、こうして」

「それはたまたま」

「あたしね——」

城主レエがリンゴにしたように、リンリンはサーターアンダギーにかぶりついた。

「ああ! それ、ウチのおみやげ!」

「ブラさんじゃないけど、この先ずっと、たまたまとか偶然を思いっきり信じることに決めたの。今日、あどちゃん、ゼッタイに来てくれると思った。そしてたぶん上にはもう、みんなが来てくれているはず」

「他に誰が来るの?」

「レエさんでしょ、マカムラでしょ」

「マカムラ? え? さっきまで学校でミシンしてたよ」

「きっと来てくれてる。あとはあたし、あどちゃん、それともう1人」

「ブラさん?」

「ブラさんは福島でしょ」

「なんで知ってるの? じゃあ誰——」

「そんなの行けばわかるよ。あたし、もうお腹、ペコペコのベコベコだよ」

バンビはハムスタの手を取って引っ張った。

「ほら、行こうよ! 空を見ながらめっちゃ食べよう!」


『ポニイテイル★39★』へつづく

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