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天の川方面へのフライト『ポニイテイル』★64★

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テストは『7月8日に実施』と決まっていたけれど、どんなテストの形式なのかぜんぜんわからないので、ハレー少年は毎日ゆうびん受けが気になっていました。ゆうびん受けには、底の部分に重さを感知するセンサーをつけてあるので、何かがそこに入るとすぐに部屋につけたゆうびんランプが光るようになっています。ここ1週間は、ふだんは弱にしているセンサーを最強にして、髪の毛1本が入っても光るようになっていました。

7月6日火曜日。もちろん今日も学校へ行かず、ブラウニー図書館へ直行……と思ったのですが、日曜日の夕方にパナロが連れてきちゃった女の子がなかなか帰らず、ずっと11階で読書をしているらしい。どうせ月曜になればと思っていたのだけれど、昨日は学校を休んだらしく、今朝もまだいるようなのです。

できれば誰にも会いたくない。
テストに向けて集中力を高めたい。

図書館での勉強は取りやめ、外での体力づくりに変更しました。宇宙船にのるために必要な技術や知識や心がまえはたくさんありますが、体力も重要なファクタです。前回の6次試験では、シミュレイタとよばれる機械で、上下さかさの状態での運転能力をためされました。

ハレー少年は地面で30分間逆立ちをすることができたので、このテストは問題ないだろうと高をくくっていましたが、逆立ちし続けるのとさかさまの姿勢で運転するのとでは大ちがいでした。試験開始5分くらいでくらくらして、なんとか最後まで運転しきったものの、反省すべき点がいくつもありました。

少年は6次試験が終わった帰り道、オレンジ色の灯台がある港に立ち寄って、大きなタルをもらってきて、それと鉄棒を組合わせてシミュレイタに似せた機械を自作しました。回転軸は8方向、回転スピードは3段階にしかかえられない機械ですが、2、3日練習すると、5分でくらくらする、というヤワなことはなくなりました。

今度のファイナルテストはおそらく『宇宙まで実際に運転する』ことになるでしょう。『それほど遠くない星に行って帰ってくる』というのが、ハレー少年の予想する最終試験です。なぜなら6次試験の合格通知には、最終試験日から1週間は、スケジュールを空けておきなさいと書かれていたからです。最終試験を受けるのは、自分一人のようなので、かなり大がかりで、大胆な試験をおこなう可能性があります。

かりに近くの星まで往復するのが最終試験だとしたら、問題はどのコースを通るかです。コースによって難易度がちがうはずです。望遠鏡で見た感じだと、天の川方面へのフライトが、隕石群があって、最も難しそうに思えました。だからこそ試験のコースになる可能性があります。そのあたりの細かい情報は、ハレー少年の手持ちの本ではまったくカバーできないので、ブラウニー図書館へ調べに行くことになります。

ブラウニー図書館はハレー少年の力づよい味方でした。1階のカベをなめないと入館できないというシステムだけは、いまだにちょっとなれませんが(かなりまずい味がするのです)それ以外は快適で、1年前からすっかりお世話になっています。何といっても、他に利用者がいなくて、自分専用なのです。

少年がパナロに『王立宇宙学校を受ける旨』を打ち明けると、パナロは世界中に散らばる宇宙関連の本を一手に集めてくれただけでなく、13階に『宇宙のフロア』を増設してくれました。生まれた場所へ次から次へと集まる素敵な本は、まるで輝ける星々のようで、小さな宇宙が日々生まれていくそのエネルギーを糧に、少年はせっせと準備を重ねました。

ブラウニー図書館の表側には、窓みたいな大きな正方形の枠がいくつもついていて、それが遠くから見ると板チョコのデコボコに似ているように見えるけれど、それは実際は窓じゃありません。ブラウニー図書館には窓がないのです。ただ増設された『宇宙のフロア』は最上階なので、天井がとうめいの厚いガラスばりになっています。夜に13階の床にゴロリと寝転ぶと、広々とした宇宙が眺められて、とても幸せな気分になります。13階にはきわめて高性能な望遠鏡が4台、備えつけられています。

この透明な天井はぜひマネしてみようと思って、ハレー少年は家の屋根の一部をさっそく改造したのですが、透明のガラスばりにすると、部屋の室温がひどく上昇してしまい、ブラウニー図書館のように開閉式の屋根にしないと、太陽光の熱を扱いきれないことが判明しました。開閉式の屋根を作るとなると大がかりなことになり、テスト勉強のための時間が、何パーセントか削られることになってしまいます。開閉式屋根はファイナルテスト後の楽しみにとっておくことにしました。
 
体力づくりは、まず町のはずれにあるブラックフォールまで1キロあたり3分ペースで走っていき、滝のてっぺんで30分間休憩してもどってきたあと、2時間かけて水泳とジムワークをこなすというメニューでした。しかし、少年の綿密な予定はブラックフォールでペガサスを見つけてしまったことで、正確にいえば、『もう1頭の銅のポニーに出会ったこと』で、大きく狂っていきました。

『ポニイテイル』★65★へつづく

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