1. Supramolecular chiral sensing by supramolecular helical polymers

HG超分子ポリマーで有名な広大の灰野研究室の新作論文。2023年 1月25日 Chemical Commun誌受理。助教の平尾先生と修士の岸野さんがco-1st。内容としてはお得意のハミルトン型のポルフィリンダイマーのHGであり、すこしそのルーツから流れを勉強していく。

ルーツになっているのは(おそらく)この論文。ハミルトン型のポルフィリンダイマーによる自己相補的二量体形成に関する論文で、2005年に灰野先生が1stとしてTetrahedron Lettに掲載されている。この論文では、クロロホルム中で平衡(二量化)定数Kが3*10^2程度。トルエン中では5*10^3程度であることが1H NMRによって解析されている。 骨格の結合部位にピリジンを用い、アミド基を介してポルフィリンを連結することで、2つのポルフィリンが同じ方向を向き、綺麗に相補的な構造をつくれるという美しい設計。

溶媒中での二量化定数はそれほど大きくはなく、一方で電子不足な色素をゲストに包摂する平衡定数は大きいため、ゲストの導入によって二量化を解くこともできることが報告されている。

doi.org/10.1021/jo052224b

さらに、このホスト基とゲスト基を単一のリンカーで結合した分子(ホストとゲストが結合しているので、H-G型とする)を集合させることで、超分子ポリマーが調製できることを2012年にAngewante Chemie誌に報告した。
DOSYと粘度測定での解析が主であり、AFMでの観察は現代的な視点でみればやや不鮮明だが、おそらく平衡定数があまり高くない点から、それなりに濃い濃度を必要とし、そのため独立した繊維構造の観察が難しいのかもしれない。

doi.org/10.1002/anie.201107655

実はこれより前の2009年、PNAS誌に、ポルフィリンダイマーの腕どうしを結合した構造(H'-H'型とする)が報告されていた。正直このデザインは知らなかった。この分子では、形成された超分子ポリマーが超ラセンを形成することが報告されており、トルエン中でのこれらの平衡定数は1.5*10^6と計算されている。10^6オーダーは分光的に追跡しやすく、0℃~100℃の範囲で制御しやすいのでちょうど良さそう。なお、isodesmic機構で伸長する系のようだ。

他にもポルフィリン中の亜鉛の5座目の配位を利用した超分子ポリマーのネットワーク化や,

doi.org/10.1002/anie.201508475

H'-H'型とG-G型のコポリマーの調製、

doi.org/10.1002/anie.201800980

H-G型のポリマーの環-鎖平衡の解析、

doi.org/10.1021/acs.macromol.9b01012

など、さまざまな解析を報告している。
 灰野研はこのポリフィリンダイマーの研究以外にも、グラフェン修飾超分子ポリマーや、カリックスアレンを用いたホストゲスト化学、分子ケージなど本当に多様な超分子化学の研究を行っており、ポリフィリンダイマーの研究は長い歴史がある一方で正直本数はそれほど多くない印象がある。

さて、このような背景で今回の論文は、H'-H'型の自己相補的な腕ー腕結合のポルフィリン四量体の超分子重合。不思議なことに、この系はキラル溶媒を認識して不斉増幅が起こるらしい。一般的に多く使われるリモネンだけでなくピネンという溶媒でも検証されている。しかも面白いことに、キラル溶媒の比率に対して、この検出されるCDバンドの強度が完全に線形的な応答を示すらしい。この結果から、筆者らはこのポリマーがキラルセンシングに使えると記述している。

気になる点としては、CDシグナルが完全な鏡像になっていないこと。これはなぜなんだろうか。また、今回新たに合成された(キラルセンシングに使われた)分子は、イソプロピル側鎖が使われているが、なぜこの分子でこの結果が得られたのだろうか、、、溶解性の補償とは書かれているが、謎である。線形的な環境応答は、この分子系がisodesmic機構で自己集合することとなにか関係があるのだろうか、、、。この辺はもうすこし勉強したいところかな。

内容としては結構シンプルで、灰野研らしいクラシカルな解析を大事にしている感じがした。Chem Commun誌に掲載されるのは妥当だろうと思った。一方で、この系をさらに発展させる難しさというか、深掘りしていく難しさも感じた。機構自体はすでにクラシカルなものだし、やはりこういう超分子ポリマー系はバルクでの性質が求められるようになるのだろうか。合成の困難さや苦労に対して、起きる現象はシンプルで、教育的には好ましいかもしれないが現代的な爆発力みたいなものを作り出すのが難しそう。すでにゴツくてイカつい骨格にさらに機能的な官能基を入れるのも難しそうだし、ポルフィリン自体が光学的に特徴的な性質を持っている(しかも4量体!)ので、置換基選びも大変そう。。。結構この論文も紆余曲折あって大変だったんだろうな、、、

アゾベンゼンとか入れても吸収被るだろうし、発光系での展開もたぶんポルフィリンに吸われてやや難しそうとだなんて思った。こういう中でまだまだ新作が出てくるっていうところに灰野グループのパワーみたいなものを感じました。


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