悪魔

渇きを潤すコシのよい音が首筋を這い、耳に伝う。

自分の渇きに気づいたのは、それを目の当たりにした時だった。

黒の塊を包容した白や黄土色は、悪魔と形容するのにさほど時間がかからなかった。

今思い返すと、幼い頃に悪魔と対峙した時は、これがどれほど悪魔なのかということをまだ知らなかったのだろう。
それはまるで天使のようで、神秘的だった。
悪魔とは程遠く、喉から手が出る程欲しいものだった。

時の流れとは恐ろしいもので、過去の経験や感情といったものはしばしば忘れ去られることがある。
藍沢も同様、この悪魔が天使だったことを忘れていたのだ。

丑三つ時には霊が出ると言われるが、15時にはまた、別の悪魔が現れることがある。

こんな暑い日には、なぜ悪魔なのかということさえ忘れて、頬張るのも悪くは無い。



この今日くらいはという感情こそが、悪魔なのだと気付かぬままに貪るジャンボ程、美味しいものは無いだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?