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MDの最終形態

MD、あったよね

皆さんにはお気に入りの記憶媒体はあるだろうか?私にはMDがそれである。
今やとんと見ることのなくなったメディアだが、時折思い出すことがある。MDを使っていたのは15年ほど前、10歳かそこらの頃だ。iPodが普及し、最盛期は過ぎていたが、MDプレイヤーはどこにでもあったし、iPodは人に音楽データを渡すのには全く向かなかったので、まだまだMDは第一線にいた。私はもともと然程音楽を聴く方ではなく、自前のMDプレイヤーも持っていなかったが、それでも音楽をスピーカーで流したりカーステレオで聞いたりするにはMDだったから、触れる機会は多かった。
CDより遥かにコンパクトでケースなしで持ち歩け、好みの色のディスクに書き込んで使えるMDはオンリーワンの存在だった。CD-Rもまだそれほど普及していなかったし、我々が気軽に書き込んで楽しめるのはMDしかなかった。

私がMDを特に気に入っている点の1つはコンパクトながらモノとしての存在感があることだ。CDウォークマンを持っているが、これは持ち歩こうと思えるサイズではないし、CD自体も持ち歩きに気を使う。それに引き替えMDはコンパクトで耐久性もあり、持ち運びに適した洗練されたイメージを与えた。カセットテープと違いデジタルメディアなので、曲送りもできた。当時としては画期的なメディアだった。
だが、後のフラッシュメディアと異なり、すべての曲が入るわけでもなかったから、聞きたい曲に応じてディスクを選んで入れ替えるという作業を必要としたし、物理的に動作するメディアだったので、モノとしての存在感があり持っている満足感を与えてくれた。古めかしさと近未来感がうまく融合していたのだ。
当時は音楽を人にあげるときにはMDにコピーして渡していたが、データの受け渡しに光磁気ディスクを手渡すというのもSFチックでクールだ。

もう一つ気に入っているのは音と動作だ。音と言っても音質のことではない。ディスクやプレイヤーそのものの出す音である。持つとディスクがカチャカチャと音を立て、プレイヤーにディスクをシャッと挿し込み蓋をパチンと閉める、そして蓋を開くとシャキンといってディスクが素早く飛び出す。
これがMDの醍醐味だ(と勝手に思っている)。PSPで使われていたUMDも同じ楽しさを持っていた。UMDより後、同じように動作と音が楽しいメディアは出ていない。

また、当時は持っていなかったポータブルMDプレーヤーをあれこれ見ていると、多く出ている機種のデザインは多種多様でとてもオシャレだ。正方形で意趣の凝らされたデザインはアンティークタイルを彷彿とさせる。

Panasonic SJ-MJ80
SHARP MD-SS311

色々と調べていると手元に欲しくなり、いくつか購入してみることにした。

MDの到達点

一口にMDと言っても1992年の発売から改良が行われ、様々な種類が出ていて、大きく3つに分けると、音楽用MD・データ用MD、そしてHi-MDがある。
音楽のデータ形式として最初からあるステレオモード(SP)と長時間録音に対応したMinidisc Long Play (MDLP)とがあり、古いMDプレイヤーはMDLPに非対応でMDLPで記録された音声は再生できない。PCとの連携については2001年に登場したNetMDによって、MD・PC間での音楽の書き出し・読み込みが可能になっている。
Hi-MDはMD末期の2004年に登場したMDで音楽用MDとデータ用MDの特徴を兼ね備え、容量も1GBまで増加している。フォーマットはFAT32になっており、PCの外部記憶装置としても使うことができるようになっていた。
つまり、MDの到達点は普段は音楽プレーヤーとして使いつつ、データ受け渡しが必要になるとすっと懐から取り出してPCに接続する、という形になる。
MPとMDLPはデータ形式の違いなので1枚のMDに共存させることも可能だが、Hi-MDはそもそもフォーマットが異なるので従来のMDとHi-MDを切り替える際には初期化が必要になる。フォーマットすることで従来のMDでもHi-MDとして使うことが可能だが、対応プレーヤー以外では再生できない。

Hi-MDの登場は2004年である。この時期にはMDは駆逐されつつあり、Hi-MDに対応した対応したポータブル端末はSONYとBuffaloしか出していない。今回購入したのはBuffaloが2005年に発売したMD-HUSBである。実はこの製品はBuffaloの開発ではなくSonyが米国でMZ-NH600Dとして発売したもののOEM生産品で実質ウォークマン。

Hi-MD Storageと記載されている

この製品は主にストレージとしての用途が主のように感じる。ボディはすべて樹脂製で高級感はお世辞にもあるとは言い難く、乾電池を内蔵するのもあって厚みは2cmほどもある。ストレージにMDプレイヤー機能を付けたような印象を受ける。調べた限りUSB2.0に対応しているのはこの機種と最後のMDウォークマン、MZ-RH1だけである。

さて当然だが、これを使うにはMDが必要だ。まだ80分用MDはSONYが生産を続けてくれているので普通に電気店や通販で買うことができる。差し当たって5枚ほど購入することにした。
ほぼ15年ぶりに目にするMDだが、想像以上にかっこいい。透明なカートリッジに入ったディスクが輝く様は、過去のメディアであるにも関わらず未来を感じさせてやまない。私の記憶にあるMDは大抵色付きカートリッジだったから、余計にこのシンプルさがスタイリッシュに感じる。

かっこいいぞMD

専用Hi-MDは残念ながらすでに生産終了しているのだが、今回中古品を入手したのでこれを使ってみようと思う。1GB Hi-MDはディスクが見えている部分がなく、データ用という印象を受ける。

HIGH CAPACITY MEDIA
SHOCK ABSORBING MECHANISM

Hi-MD使ってみる

MDの近未来感から忘れてしまいそうになるが、MDは20年前のメディアである。それを今使おうとするとひと手間必要になる。空のHi-MDをPCに繋ぐと自動的にHi-MDにフォーマットされるようでPCに外部メディアとして認識される。

1GBある

MD-HUSBにはBeatjam for BuffaloというソフトのCDが付属していたが、Win11環境では何かと挙動が怪しい上にNetMDが使えなかった。
ネットに情報があったので、それに従ってXアプリをインストールし、NetMD用のドライバーに少し手を加えてインストールするとNetMDでの転送が可能になった。

SONYに敬意を表してmoraで何曲か適当に購入して転送してみる。

AmazonアカウントでログインできるのにSONYアカウントでのログインがない謎

今回は再生用に別の機種を用意した。2005年に発売された最後の再生専用ウォークマンMZ-EH50である。もちろんHi-MD対応。下に付いている黒いものは単三電池ボックスである。本体には交換可能なニッケル水素電池(ガム電池)を入れて使うのだが、長時間再生が必要な時には乾電池を増加バッテリーとして使えるようになっている。乾電池のみでの稼働も可能。このスタイルはポータブルMDプレーヤーで広く採用されていたようだ。乾電池はもちろん、ガム電池も互換品が今でも手に入るので長く使うことができる。

さあ再生だ。
MDを入れて再生ボタンを押すと、再生できた!
2023年、MDで音楽聞いてるぞ!
謎の嬉しさがある。サウンドにも全く問題はない。
これを持って外出すれば、MDで曲聞いてることを思い出して一人でウキウキしてしまいそうだ。

付属のリモコン

古くからのMDも

せっかくなので、Hi-MDでない旧来のMDも試してみる。ここではSPモード、MDLPの2倍録音モード(LP2)、4倍録音モード(LP4)が選べる。LP4ではさすがに音質の劣化が目立つそう。

SPモードでの転送は結構時間がかかる

再生に使ったのはゲームボーイアドバンスSP、ではなく1998年に発売されたウォークマンMZ-E33である。Hi-MDはおろかMDLPにも非対応なのでSPモードで転送する。ヒンジにも見える部分には単三電池もしくはバッテリーが入る。単三電池での動作時間は約9.5時間。MZ-EH50が単三電池で最大48時間動作することを考えるとメキメキ省電力化していったことが分かる。

ゲームボーイアドバンスSP

再生は問題なくできた。筐体は金属製で高級感がある反面、持ち歩きにはわずかに重いかなという感じもあるが、90年代にこのサイズで曲の頭出しができて読み書きできるメディアは革新的だったろうなぁと感じる。

本当にMDは詰んでいたのか

MDは2005年あたりにはiPodに追い詰められて消滅の道をたどり、開発元のSONYもフラッシュメディアの方に注力していく。
今回記憶媒体を調べているとこんなものを見つけた。SONYとPanasonicが共同開発したOptical disc archieveという事業用データ長期保存用光ディスクで、MDと同様ディスクがカートリッジに収められたメディアだ。

コールドデータの保存のため、HDDなど他のメディアより耐用年数が長く、電磁波・物理ダメージなどに強いメディアとして開発されている。一般にはここまで大仰なものは必要ないものの、人生の中で蓄積されていくデータを長期保存することには一定の需要があるのではないだろうか。CD→DVD→Blu-rayのように多層化などによって容量を増加させることは可能であったろうし、その程度の容量あれば、一般家庭の需要は満たせるように思われる。
MDそのものの復活ではないにせよ、似たメディアの登場に期待を寄せつつ終わろうと思う。

余談

今回買ったHi-MDは2枚あったのだが、その1枚には曲が収められていた。井上陽水・円広志・Godaigo・テレサテンなど時代を感じる曲たちだ。20年近く前に何処かの誰かがCDから焼いて聞いていた曲を、今自分が聞いていると思うと何か感慨深い。リアル世代の人たちがこういうオリジナルベスト集をシェアして楽しんでいた話はよく聞くが、それを体験できたようで少し楽しい。

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