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映画「リズと青い鳥」の演出についての感想と考察①

 京都アニメーション制作「リズと青い鳥」についての考察と感想を、感動を交えて書いたものです。
 誰にでも伝わるように努めますが、ネタバレを多く含むので未視聴の方だけは自己責任でお願いします。

 考察に関しては、「作品を見た人が感動はするけど、何故なのかは言葉にできない」と思われるものを言語化するように努めています。
 流れとしてはまず作品中の一つ一つの演出についての考察をした後に、そこまでの考察を踏まえて全体の考察をするという展開で書く予定です。
 また誰にでも伝わるように配慮するつもりではありますが、相当細かく拾っていく予定なので、作品を観られる環境で読むことをお勧めします。

本記事は作品冒頭~タイトルが出るまでを書きます。

・絵本「リズと青い鳥」の冒頭シーンで流れる演奏

 この演奏は、作中でみぞれや希美が演奏するものとは違う、いわば作曲者が想定した本来の「愛ゆえの決断」の演奏であると思います。というのも、作中で語られる楽器間の掛け合いという要素が、両者対等な技術で演奏されている完璧な、いわゆるプロの演奏に聞こえるからです。どれかが技術的に優れすぎたり感情的になりすぎたりということのない、欠点の無い演奏だと思います。
 この完璧な演奏を冒頭に持ってくることによって、映画を見ている観客は一度本来の完成形に触れた上で、みぞれ達の演奏を聴くことになります。そうすることで、この二人の演奏がどのように違っているのかということを感じ取ってほしいのだと思います。
 ちなみに、この「愛ゆえの決断」の冒頭のフレーズは何度も出てきますが毎回別の演奏が用いられていて、それぞれに込められた演出上の意味がまったく違います。ここに楽器担当の演奏技術の高さと監督の熱意が感じられます。


・同じく冒頭の絵本「リズと青い鳥」の作画に関して

 同じシーンの今度は作画面についてです。冒頭リズの全身が画面に出てきたときに、頭身の高さに違和感を覚えるのではないでしょうか。一般的なデフォルメされたアニメの少女キャラであれば大体6~7頭身、リアル系作画でスタイルのいいキャラクターでも8頭身前後のはずですが、この絵本のリズは10頭身はあろうかという作画です。
 これは、「リズと青い鳥」本編のみぞれ達ではなく、後ほど出てくる絵本に描かれたリズの頭身に合わせたものだと思います。
 また、全体的に色味が赤や黄色味のある暖かい色合いで着色されています。これも頭身と同じく絵本の色合いに合わせたのだと思います。
 頭身と色合い、さらには水彩画調の背景と、みぞれ達の絵本の外の世界との対比がここで描かれていると思います。

・みぞれが希美を待つシーン

 ここから絵本の外に出てきます。
 コンクリートを歩く足のアップ、そして引いたカメラに映るみぞれと校舎の階段。この画面を見て視聴者は、さっきまでの絵本の世界との色味の大きな違いを感じるはずです。先ほどまでの暖色系の色合いと違い今度は水色っぽい寒色系の色合いで画面が構成されています
 またここで、先ほどまでの豪華な演奏と打って変わって、ビー玉が跳ねるような軽い静かな音のBGMに切り替わります。先ほどの絵本との明確な対比が描かれています。

・合流から音楽室に向かう最中

 希美が登場して二人の最初の会話が、希美が拾った青い羽根をめぐっての「ありがとう?」の会話。この微妙にテンポのずれているけど仲のいい不思議な会話が、2人の関係を観客にまず伝えます。
 そしてここからは2人の行動の対比の描写が続きます。上履きを落とす希美と置くみぞれ、足跡が左右にずれて歩く希美とほぼ一直線上を歩くみぞれ、軽快に胸を張って歩く希美と脚が遅れて歩くみぞれ……
 また、並ばずに距離をある程度空けて歩いている様子からも、二人の雰囲気が伝わってきます。
 そして、階段で上からのぞき込む希美と、それを見て瞳を揺らすみぞれ。ここからみぞれが希美を想う気持ちが伝わってきますが、直後の希美を見上げるシーンでほぼ希美の脚しか映らないところから、みぞれが希美をなかなか直視できない性格が伝わってきます。

・音楽室に到着

 音楽室に到着し、みぞれが鍵を開けます。が、この時みぞれはすぐには開けません。実に5カット分ためらいます。それに対して、何のためらいもなく(それどころか軽く一回転してから)音楽室に入る希美。そしてそれをただ眺めるだけのみぞれ。
 ここに希美とみぞれの対比が描かれていると思います。音楽室に向かうために歩いていた希美と、2人で音楽室に向かっていたみぞれ。この対比描写を、言葉を一切使わずBGMも乱すことなく、さらっとできてしまう作品の質の高さに既に感動してしまいます。
 そして流れる「disjoint」の文字。数学的な意味で「互いに素」。ざっくりと説明すると、2つの集合が共通するものを持たないという意味です。かわいいBGMに反して、ここまでの希美とみぞれの対比描写への、残酷ともいえる明確な表現だと思います。

・無人の音楽室での準備

 てきぱきと準備する希美に対して、希美の様子を見ながら渋々とも取れるほど受動的に準備するみぞれ。2人が登場するシーンは(特に序盤は)観客が苦しくなるほど対比が続きます。

(ここで個人的な感想ですが、最初にこの準備するシーンを観た時に希美のフルートを吹く音が、本当に息を吹き込んで出ているフルートの音と伝わってきて録音と音響の良さに感動しました)

 この苦しい対比描写が一旦止まるのが、みぞれの「嬉しい」という呟くような言葉から始まる会話です。ここまでいまいち噛み合ってなかった2人の感情が、ようやく「嬉しい」という感情をきっかけに合わさります。
 ただ気になるのは、希美の「嬉しいよね」という同意の返事から、カメラが比較的短い時間で何度も動く点です。
 希美の顔→楽譜→(みぞれの顔)→希美の顔(カメラ揺れながら)→希美の顔(カメラ引き)という順で動きます。これほど動きながらも、会話の区切りや呼吸に合わせるわけでもなくややランダムに動きます。そしてみぞれの返事は「うん」という簡素なものです。
 これは根拠が少々薄いので考察というより想像に近いですが、みぞれはこのシーンで希美の同意が嬉しすぎて、肝心の希美の返事をほとんど聞きそこなったのではないかと思います。

・希美が絵本「リズの青い鳥」を説明

 先ほどの会話の後、希美が絵本「リズと青い鳥」をみぞれに見せます。この表紙に出てくるリズはさきほど作品冒頭で出てきたリズと同じように高い頭身です。アニメ作画だと少々違和感のあったリズの頭身ですが、絵本で見るとそこまで違和感を感じないと思います。
 ここでこの絵本を読んだことのないみぞれに見せるために、希美が大きくみぞれに近づき絵本を開きます。そこから希美はリズと青い鳥の解説をしてくれますが、みぞれは希美が急に自分に近づいたことに嬉し驚きで、明らかに最初のあたりの話が入ってきてません。ここでも感情の動き方に対比がされています。
 希美の解説であらすじを知ったみぞれが思い浮かべるのは、小鳥のようなバレリーナのような希美の動き。そこからみぞれは2人の出会いを思い出しますが、絵本の中の青い小鳥と同じように、思い出の中の希美はみぞれの元を離れてしまいます。
 昔の悲しい出来事を思い出して少し表情が暗くなったみぞれに希美が「私たちに似ている」と言います。少し落ち込んでいたみぞれにとって軽く済ませられない言葉ですが、希美にとってはなんて事の無い絵本の感想です。ハッピーエンドが良いと言う希美に安心して、希美に体を預けるように寄せるみぞれですが、体が触れる直前に希美は席を立ち演奏を誘います。
 絵本をめぐる短いシーンではありますが、丁寧に2人の対比描写が連続でされています。

・2人で初めて「愛ゆえの決断」を演奏

 2人は初めて合奏しますが、微妙に違和感のある演奏です。映画冒頭で完成形がどのような曲なのか伝えていたこともあって、2人の演奏にわずかなズレがあることを感じ取れる人も多いのではないかと思います。
 フルートもオーボエもどちらも下手という訳ではないのですが、確かに無視できないズレが2人の間には存在します。希美のフルートが歌うように感情豊かに演奏するのに対して、みぞれのオーボエはやや硬い印象を受けるカチッとした演奏。どちらも少なくとも間違ってはいないはずの演奏なので、音程が微妙にズレてるせいかなとも感じられます。
 私は音楽に関して素人ではありますが、そんな私でも感じ取れるようにこの微妙な演奏を表現しきる、楽器担当の方の技術に驚きを隠せません。
 そして、ここまで行動や演奏などあらゆる描写で2人の対比をしてきたところで、タイトル「リズと青い鳥」が出てきます。そこで観客は、この作品はこの2人の対比を軸に進むのだなと感じ取れると思います。

・ここまでの感想と感動

 この作品の凄いところの1つは、ここまで上げた対比表現を明確に理解していなくても、誰でも対比そのものは何となく感じ取れるように作られている点だと思います。
 2人が登場してから多くの対比描写がされましたが、そのどれも説明しすぎない、けれど制作者の自己満足になりすぎないという絶妙なバランスで描かれています。そのため、描写の数のわりに鼻につかないと思います。(逆に言うと、今なるべく多くの対比描写をやりすぎなほど言語化したので、これを読んでいる人は鬱陶しいと感じているかもしれません)

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