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#105 ショルダーフォンがやってきた日

 今から30年以上前、私が大学院生の頃、研究室にOBが珍しいものを持ってやってきてくれました。今では珍しくないですが、当時はまだ誰も見たことがなかった携帯電話の試作機「ショルダーフォン」”肩掛け電話”でした。「すご〜い。」研究室の一同、皆感動していました。それまでは、電話と言えば「黒電話」や「公衆電話ボックス」のように、有線電話しか街中にはありませんでした。車から誰かに連絡を取ろうとすると、トランシーバーで並走している友達と近距離通話するか、タクシーやトラックのような無線通信しかありません。肩にかけた移動式無線電話、今から思えばデカいですが、当時はその小型化に目を見張りました。

 研究室を訪れてくれたその先輩は、我々大学院生の間では、「有名人」でした。修士論文の写しが研究室に保存されていて、色々な先輩の実験結果を修士論文を読ませてもらいながら勉強会(輪講)をよくしていました。その中で、その先輩の修論は特別よくまとまっていて、実験結果も理路整然と書かれていました。伝説的に憧れの先輩でした。名前は存じ上げていましたが、お顔を拝見したのは初めてだったのですが、携帯電話の一般公開前の試作機を見ながら伝説の修論の先輩にあった感動を噛み締めていました。

 それから20数年後、新聞記事を見ていたら「アレェっ!」と驚いたある日。携帯電話の会社の新社長就任の新聞記事で、見たことがある名前が載っていました。(あの先輩だぁ!)と思い、ウェブで検索したらやはり「ショルダーフォン」を研究室に持ってきてくれた先輩でした。やはりすごい人だったんだなぁーと、改めて思いました。翌日のTVニュースでは、見覚えのあるお顔が写っています。

 そう言えば最近、「黒電話」のかけ方がわからない若者がいると言う話を聞きました。考えてみれば当たり前なのですが、生まれてから見たことがないものの使い方、わかる訳は無いですね。停電になっても別電源だから、電話機が使えたなんて、言っても??と思われるだけでしょうね。今時の「電話機」はとても賢い(smart)なので、人間がわざわざダイヤル回さなくてもいいですよね。(話しかけるだけで電話がかかるスマホが、今では当たり前ですね。)

 ポケットに入る携帯電話を見ると、時々あの先輩が持ってきてくれたショルダーフォンが目に浮かびます。