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#99 人生は履歴曲線?

「電子材料」の講義を担当していて、一番面白いと思えるのは、強誘電体や強磁性体の”履歴曲線”です。自分の学生時代には、「非線形は面白い!!」と先生が”熱く”語っていたのが、ソンナモノカナァーとぼんやりと思っていましたが、「ヒトトオリ」いろいろな関連知識を体系的に理解すると、そのすごさを実感しています。「人生」と似ているなと思える部分もあります。

「所持金が同じでも、満足は違う!」 入力と出力の関係

あるシステムに入力(Input)を入れると、それに応じて出力(Output)が出るとします。例えば、自動販売機には、「定価」のお金を投入すれば、期待する商品を手にすることが出来ます。

さて、人間の「満足感」はどうでしょうか?財布に1000円札が1枚あるとき、「多い→満足」あるいは「少ない→不満」のどちらになるかは、その時だけではなく、過去の状態によって違いませんか?小学生の頃、硬貨しかもっていなかった子供が、突然1000円札をもらったら、もう”天にも舞い上がるような気持ち”になりませんか?(私はなっていました。)あるいは、苦労して手にした1000円札は、金額ではなく持っているだけで満足だと思います。反対に、大人になって普段から財布にお札がたくさんある人(私ではありません:笑)は、1000円札の「満足感」はたぶん”薄い”と思います。つまり、同じ入力(お金)でも、過去の状態(経験)によって、出力(満足)は異なります。

「雑音に惑わされない」

 日常生活では、小さなことが生じていて、その一つ一つにイチイチ対応していたらとてもタマリません。「おおめに見る」ことも時には必要です。新しいことを始めるかどうかを決めるとき、多少の”変動”には目をつぶってそのままでいたとします。その後、新しいことを始める環境になり決断して始めたとします。いったん始めてからは、同じような多少の”変動”にはやはり目をつぶるのですが、その時は新しいことをしばらく続けるという側に変わっています。いったん始めたことを、その効果が確認できるまでは多少目をつぶって継続してから判断します。これも、一種の”履歴曲線”と言えると思います。

 ディジタル回路では、シュミット トリガーと呼ばれるヒステリシス利用した電子回路があります。入力を大きくしていくときの”階段”の”変わり目”(しきい値)と,入力を小さくしていくときの”変わり目”が違うので、入力の値が雑音(ノイズ)で変動しても、変わり目の範囲では、上りと下りの違いから波形が、雑音を取り除いた「キレイなディジタル波形」に整形されます。

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履歴?

 さて、日本語で「履歴」と言うと何を連想するでしょうか?「温度履歴」が最初に浮かぶのは、きっと工学系で金属・半導体材料などの熱処理を専門に勉強している人でしょうね(笑)一般には「履歴書」だと思います。真実を書くのは当たり前なのですが、前々回のnote記事に書いたように、相手の意図(この場合はどのような人物を採用したいか)を考えて、自己アピール(面接会場でこのことを聞いてください。私を採用しないと損しますよ。と言う内容)を書くべきかと思います。ちなみにアメリカではresume、ヨーロッパなどではcurriculum vitae(CV)と呼ばれる書類です。

同じ場所に戻る?

 人生は、いつでも後戻りできます。但し、戻るときの”景色”は違います。”履歴”がありますから、同じ状況に戻ったつもりでも、その環境(入力)にいる自分の行動(出力)は、強磁性体やシュミット トリガーのように以前とは違います。”行って戻って”をすると、エネルギーが”損失”として失われるような気がしますが、人間の場合は「生きた証(あかし)」となり、多くの場合は充実感や幸福感につながると思います。たとえ、その時つらくても、振り返ると「想い出フィルター」効果で”シンドカッタ”は、ほぼすべて”頑張った、楽しかった”に記憶が書き換わっていると思います。この現象は”老化”の一種かと思いますが、これは喜んで受け入れるウレシイ効果です(笑)。、、、、お後がよろしいようで。

(写真:授業の解説用に書いた図。iPad+GoodNotes5)