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望郷

金曜の夜、最終電車、目を瞑って福島のことを思い出す。通用口を出て、自転車の鍵を差し込む。白い息を吐きながらサドルに跨って、自転車を漕ぎ出す。信号待ちのとき、ふと、空を見上げたら満天の星空で、オリオン座も、北斗七星も、全部全部見える。そういう、これまでの毎日の、当たり前の夜のことを思い出してちょっと泣く。世は華金、誰もが浮かれて、大きな声で笑って、おまえの吐いた酒臭い息が電車の中に充満する。私はまた一つイヤホンの音量を上げて、でも電車が駅に停車するとまた一つ音量を下げる。私には故郷がある。福島は故郷だ。故郷。愛しい故郷。考えるだけで涙が出るような、そんな愛しい故郷が、私にはある。それだけで生きていける。

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