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書く習慣アプリ忘備録 2024.3

「書く習慣」アプリにて、毎日出題されるお題を使用した小話のログになります。
少し不穏多めとなりますのでご注意ください。


3.31 <幸せに>

「まー気にすんなよ」
「前世が何やったかなんて知らないけどさ」
「今世こんだけしんどかったなら、来世はきっともうちょい楽に生きれるだろ」
 そう笑って死出の道を行く、小さな背中を見ていられなくて目を伏せた。
 足元で仔犬が尻尾をひとつ揺らした。
「言えば良かったじゃん」
「まだまだ全然罪は濯がれて無いよって」
「次は畜生道だぞ残念でしたって」
『……言えませんよ』
「はーぁ、お優しいことで」
 屈んで手を広げると、特に抵抗無く抱かれに来る。
 最近は着物を毛だらけにするのが好きなようで、いつものように腕の中でごそごそし始める黒い毛玉を撫でた。
 小さな背中はいつしか遠くに消えていて、名残惜しくも来た道を戻る。
(……言えませんよ)
(この形こそが贖罪の報いだなんて)
 温度の宿らない掌には、仔犬の体温は酷く熱い。
 今日はこの子に何をあげようか。
 永い永い時間に付き合わせてしまう代わりに、愛など知らない心で、この子に何を与えてやれるだろうか。

3.30 <何気ないふり>

とん、と手の甲が叩かれた。
 走行音ばかりがうるさいバスの中のことだ。
 スマホの画面から目を離すと、また一つ叩かれる。
 固細い指の持ち主は、窓枠に頬杖突いたまま。
 車内を軽く見回して、スマホに視線を戻した。
 とんとん、とん、ととん、
 何処かリズミカルに叩く指はじゃれているようで。
 片手はされるがまま、反対でスマホをタップする。
 
 窓の外に一台の車がいた。
 バスと等速で走るその車の、スモークガラスが少しだけ開いて。
 停車はまだ先のバスの中で、男が一人立ち上がった。
 運転席に並んだその男の、右手に刃物が光り……
 ……一言もなく男は倒れた。
 それを見た二人程が立ち上がり、やはり無言で倒れる。

 ざわめく車内、混沌が満ちる前にバスが急停止する。脈絡もなく開いた扉からはどやどやと、不審者の通報を受けたのだと言う警察が入ってきた。
 一人目の男は容疑者と、倒れた二人は怪我人として。騒ぎの元は瞬く間に連れ去られ、再び走り出した車内はまだいくらか混乱していたものの、取り敢えずは平和だった。

 男が立ち上がった瞬間に悪戯を止めた指を爪先でちょっとなぞって遊びながら、LINEの返信ボタンを押す。
『標的オールクリア。そのまま離脱で』
『私達は予定通りデートなので。今日これ以上使うなら休日出勤扱いにするって上に言っといて』
 隣がごそごそと仕事用イヤホンを外したので、指も腕も絡めて寄りかかった。
 殺し屋だって、たまには平和な休日がほしいので。

3.29 <ハッピーエンド>

結婚は人生の墓場だという。
仕事は苦役であり、人生は死ぬ迄の苦行だという。
そのヒトはそうやって、仰々しく悲観を唱っていた。

私はそのヒトに幸せになってほしかった。
笑顔でいてほしかった。

だから楽しめる趣味を見つけ、
働きやすい仕事へ声をかけ、
白染めの衣装の似合う相手を紹介した。

一等嬉しそうな笑顔で、ありがとうと言われたから。
私のお陰で、とても幸せになれたと言われたから。

この白く美しい墓場で
苦しみを忘れたような笑顔が
本当に本当に嬉しくて。

だから、其処で御仕舞いにしてあげた。

3.28 <見つめられると>

目が合うなぁ、とは思ってはいた。
此方が気付くと、澄ました顔で焦点をぼやかすけど
ふとした拍子に視線をやると、ぱちり一瞬き分、
その黒い目とかち合うのだ。
どうしたの、と隣に問われ。何でもないよ、と返す。
秘密を明かして尚今も、友人で居てくれる人だけど。
怖い話が一等苦手な人だから。

3.27 <My Heart>

「何でハート型ってこの形なんだろうね」
「んー?あー……説は色々っぽいが聞くか?」
「いらなーい」
ぐるりぐるりと塗り潰されていく胸部、鉛筆は離さないままに。
「ねー、心って胸と頭とどっちにあると思う?」
「胸なら心臓で、頭なら思考だな」
「そーいうんじゃなくてさー」
「……実体が無いのに何処とも」
「そーいうことでもないんだよー」
ぐるりぐるり、真っ黒に塗り潰されていく人形。
指先に咲いていく華は手遊びのようで。
「『君の心』って何処にあると思うのって話」
「……そういわれても」
熱く柔い血肉もない身体を、見上げる瞳は何処か必死な様に見えて。
「……そういうあんたは、何処にあるんだ」
「此処にあるよ」
投げられた鉛筆、黒ずんだ指先は顔を示した様に見えて、しかし違うと首を振られた。
「『此処』。足の先から頭の天辺まで、腹の内から指の先まで。『僕』って存在の全部に満ちてる、と思ってるよ」
だからね、と訴える。握られた腕に、うっすらと黒い手形が擦れる。
「此処に居る君こそが、君の心の証明だと。
 ……僕に、まだ信じさせていて」

3.26 <ないものねだり>

いいなぁ、と私は彼女に言った。
大きく広がる白い翼は、羽の一筋すら美しい。
ちょうだいよ、と私は彼女に言った。
空の果て迄飛べる翼であれば。
あげられないわ、と彼女は私に言った。
透き通る脚で尚目線を合わせて。

生きたかったのでしょう、と私は彼女に言った。
生きたかったよ、と彼女は私に言った。
死にたかったのに、と私は彼女に言った。
知っているわ、と彼女は私に言った。

それじゃあ逆で良かったじゃない、と私は。
いいえ間違えないで、と彼女は。

「わたし、あなたとふたりでいきたかったの」

3.25 <好きじゃないのに>

「まーたやってんの天邪鬼め」
「向こうが勝手に勘違いしてるんですー」
ふわり翻るスカートに、似合いのピアス揺らして。
綺麗に整えられた髪も、白魚の様な指先まで美しく。
「契約期間いつまでだったの」
「早死にしないようにーだし。死ぬ迄じゃない?」
重たい睫も濡れたような瞳も、薄く色付く唇すら見とれるような、そのヒトは。
「ほんと、並の女の子より可愛いとか詐欺だろ詐欺」
「やりたくてやってる訳じゃないのにー」
「じゃ、着たい服は?」
「えー……花嫁さん?」
「お前ほんと上目遣いやめて死者が出る」
「答えの方に突っ込んでよー」
「あ?どう考えてもばりばり似合うだろうが」
「そっち?」
ころころ笑いながらシェイクに口をつける一瞬、眩い日差しがスポットライトみたいにその背に落ちて。
ーーー柔らかな白のベールの夢想。
「花嫁姿二人分とか、華やかすぎるよなぁ」
「んっふふ、それも良いけどねー」
伸ばされた指先、輝くスパンコール。
緩く柔く突かれた胸元は。
「君のタキシードだって、ばりばり似合うんじゃない?」
潰し尽くした胸の内を、小さく撫でるよう引っ掻いた。

3.24 <ところにより雨>

頭に感じた硬くもべとりとした感覚。
反射的に空を見上げれば、一面のカラフルに思わず舌打ちした。
こっち、と呼ぶ声のまま潜った軒の上、がらがらべたべたと騒がしく。
「今日は一日晴れじゃあなかったか」
「その筈。通り飴だといいんだけどね……」
まだ硬い内の破片を払う横、重く粘る甘さに早々拭うのは諦めて、せめてと髪を解きながら。
「うわ、家の方チョコボンボン降ったって」
「は?チビ共庭遊びの日だったろ」
「チョコの時点で屋内に間に合ったみたい。でもやっぱりアルコール臭やばくて、みんな寝かせたらしいよ」
「また拗ねるな……。次の雨は?」
「予報通りなら明日。チビちゃん達のご飯が終わる頃には」
「はー……了解」
がらりがらりと飴が降る。
硬いままに転がり積もればまだ良いものを、地上にぶつかる度べたりべたりと溶けていく。
日頃は鬱陶しい雨も、コレを洗い流してくれるなら待ち遠しいばかりだが。
「どうしよっか、傘と靴買ってく?」
「……いや」
差し出されたハンカチを押し返して、少し先の自動ドアへ視線を向けた。
「明日に帰ると連絡しといてくれ」
「それは、」
ひとつ、ふたつ、息をする間。赤らんで見える耳。
「……そういう言葉は、期待、しちゃうよ?」
「は、抜かせ」
喫茶店も商店も、東屋だって近くにあったくせに。
「『この軒』を選んだのはお前だろ。なあ?」
つり上がった口許を、隠せても居ない癖に。

3.23 <特別な存在>

ちょっとしょっぱいキャラメル味。
期待に期待を重ねて食べた飴は、
あんまり好みの味じゃなくて、
笑われながら背を叩かれた。
「お前は此方が好きでしょう?」
嘗め終わったらゆっくりお食べ、と
積まれたのは至極ありふれた米菓。
お爺ちゃんの作った可愛い湯呑みに
熱くないお茶を入れてくれるお婆ちゃん。
「わたし、この特別の方が好き」
炬燵の両隣からふわふわと
柔らかく撫でる手が嬉しくて。

3.22 <バカみたい>

「こんなの作ってなんになるのさ」
「生者の心の安寧に」
「此処にはなんにも居ないくせに?」
「信じる限りは聞いている」


「こんなの作ってなんになるのさ」

「お前もどうせ、居ないくせに」

3.21 <二人ぼっち>

手を繋いで走っていた。
後ろから来るモノに、追い付かれてはいけなかったから。
時々小さく手を引かれたけど、その度に強く引き返して走り続けた。
追い付かれてしまわぬよう、力付くで引き続けた。
走って、走って、走って

突然強く腕を引かれた。
転んでしまったのかと振り返った。
繋いでいた、握りしめていた手を見た。

其処には誰もいなかった。
後ろにすら、何も無かった。

開いてみた手の中で
小さな小さな指が
黒く干からび潰れていた。

直ぐ隣に居た筈の人を、
顔も声も思い出せない程、
気を遣っていなかったことに気が付いた。

3.20 <夢が醒める前に>

美しい時間だった。
君と出会ってから、
沢山重ねてきた日々。
夕焼けを背に笑って、
紡がれた筈の言葉。
「……教えてほしいよ」
君の残した走馬灯の中、
いつも、いつも、何回も、
三文字目から先を
聞くことができなくて。

3.19 <胸が高鳴る>

集中なさいとシャーペンの頭でつつかれて
慌ててノートに目線を戻した
「どんなところに惹かれるんだい」
「きらきらしてて優しい所」
「アレは化粧の賜物で、八方美人の渾名だが?」
「そういうことじゃない」
「……心や精神性なぞ目じゃ分からんと豪語していたな?」
「そういうことでもない」
「恋は盲目?」
「似てるのは認めるが違う」
「じゃあなんだい、勉強会ほっといてまで夢中なのは」
「……きらきらしてるだろ」
炎天下のグラウンド、部活に勤しむ人々は
皆汗だくで煌めいて
「それで優しいだろ」
後輩にはマメに休ませる癖、一人先生や先輩との軋轢に走る背中
「……ああ、成程」
酷薄な目が窓へ向く
心底憐れんだ声が言う
「お前、アレを獲物と見たな」

3.18 <不条理>

外から来た人が言いました。
此処はおかしいと。
連れていくから逃げようと。
私は首を傾げました。
別におかしな事なんて無かったから。
外から来た人が言いました。
そんなものは食べ物じゃない、
そんな仕事は危険すぎる、
そんなーーを崇めるなんて、
あ、と
思った時には、
外から来た人は、

今日は新鮮なご飯でみんな嬉しそうでした。
私には釣りの才能があるそうなので、
明日もご飯を釣りに行きますね。

3.17 <泣かないよ>

君がついに旅立ったと、手紙がありました。
大々的に、なんて昔は言ってましたけど、
随分小ぢんまりしそうな気配がするのは
気のせいでしょうか。
親も子も片割れも置いていくなんて、
薄情な君らしいなぁと思います。
結局約束を破られてしまったけど、
此方は守り続けるつもりなのでね、
後で悔しがる君の顔が目に浮かびます。
……はは、ざまみろ。
精々一人で天国探索しててください。
それじゃあ、またいつか。

3.16 <怖がり>

「何で大概の水場には、必ず鏡が置かれるんでしょうね」
 赤い口紅をポーチに仕舞いながら彼女は言う。
「化粧室とか洗面所はまだ分かるのよ。お手洗いやお風呂場やキッチンにも置かれる理由が分からないの」
 まして、と小さく指差された先。
「こんな大きな合わせ鏡にするなんて」
 広く見せるためじゃないの、と問えば。
「化粧直しなんて、寧ろ誰にも見えないようにしたくないかしら」
 それもまあ一理、と鏡を見やる。
 化粧して尚青白い肌の彼女は、
鏡の向こうで赤い唇を吊り上げ嗤っていた。

3.15 <星が溢れる>

蒼いシロップを透き通るまで割って
ふわふわの綿飴で蓋をする。
雫模様を描いたグラスには
強めのクリームと鮮烈なレモン。
きらきらと注がれるサイダーに
小さな金平糖が踊っている。

ふと視線を向けた暗闇は、
気の遠くなる様な銀紗に覆われて。
私のいないその暗闇は、
いっそ五月蝿い程に眩いようで。

サービスです、と差し出されたチョコレート。
白い果実を隠した黒を、皮肉かしらと見上げれば
次は暫く先でしょう、とマスターは笑う。

それもそうか、それもそうだ。

私を見えなくなった人々の歓声に耳を傾けながら、
移り行く時にグラスを重ねた。

3.14 <安らかな瞳>

硝子は性状としては液体なのだと言う。
細かな理屈は忘れてしまったが、
昔確かに教室で聞いたのだ。
身近なモノが必ずしも、
一般的な様相を示す訳ではないと。

そう言えば水もそうだった。
氷になると体積が増える、なんて
一番身近なくせして他と真反対を起こすのだ。

であるならばその透明も、
白膜を切り開き溢れる水晶体も
きっと同じことを起こすのだ。

閉じられた目蓋の奥
二度と開かない目蓋の奥
きっと其処には普通も常識もない、
天上だけが写っている筈なのだ。

3.13 <ずっと隣で>

「好きだねえ」
「好きだよお」
右腕にぴったりくっついて、筋をなぞって遊ぶ。
見慣れすぎた角度では、彼女はいつも楽しそう。
でも風に身を震わせたから、駄目元で手を握った。
「体冷えてるよ、せめて逆に来ない?」
「やだ、こっちが好きなの」
「……じゃあせめて、コートか毛布被ってて」
「……はあい」
其処にいてね、と言われたから
当然だよ、と頷き返す。
小さな背が扉の向こうに消えたから、
左手で右腕に触れた。

硬く、無骨で、人の形をなしていない、
冷たい冷たい義手に触れた。

まだ肉の有る左半身の方が温かいのに、
寒空の下では彼女の温もりすら秒で消える。
「オーバーヒート機能、いくらだったかな」
小さい溜息も風に飛ばされ、
ただ少しだけ目を閉じた。

3.12 <もっと知りたい>

好きな食べ物 好きな色 好きな服装 好きな場所
嫌いな人 嫌いな勉強 嫌いな季節 嫌いな曲
良い記憶 悪い思い出 覚えたい景色 忘れた言葉
隅から隅まで 端から端まで 爪先から頭の天辺まで
そうしたら、そうすれば

「残念だね、もう全部『私』のモノなの」

『私』の『そっくりさん』は、悲鳴をあげて消えていった。

ようやっと『私』は私になれたのだ。

3.11 <平穏な日常>

田んぼ、川、盃、田んぼ、茶釜、馬ノ目
「暇だねえ」
蛙、川、茶釜、田んぼ、川、盃
「まあ、暇が一番でしょ」
田んぼ、田んぼ、川、盃、田んぼ、茶が……
「あっ」
「あっ」
「あーあ、やっちゃった」
「もー。だぁれ、輪廻切ったの」
釜割れ、杯砕け、崩田、血河、荒馬、蛙毒、
「人間ってば、争い事が好きねえ」
「また運命ほどくとこから再開じゃん、めんど」

3.10 <愛と平和>

「何で鳩?」
「先輩から借りてきた」
白く柔らかな羽毛は本物のようで、
加えた葉付きの枝がどこかコミカルで、
割れた硝子目が妙に不気味だった。
「手品の種だって」
「そんなの飄々と人に預けて良いの?」
「先輩が渡してきたから良いんじゃない?」
ビーズ入れから青球を二つ、
「黒じゃないの?」
「指定入った」
割れと罅入りの黒硝子を外して、てきぱき縫い付け、
「はいおわっ……おお?」
「どうし、て、ええー…」
修復された筈の鳩の縫いぐるみは、机の上でちょんと自立し、そうして翼を広げ窓から飛び立って行った。
「手品の種……?」
「いや普通に綿の感触したよ……?」

先輩からの返事は『付喪神って知ってる?』の
一言だけだった。

3.9 <過ぎ去った日々>

「やぁ、元気してたかい」
「元気に見えるなら目が腐ってるな」
じゃらり鳴る鎖の拘束、無骨な鉄柵の向こう。
強い眼差しが爛と刺さる。
「早く吐いてくれれば出してあげられるのにさぁ。
 強情って言っても程度があるでしょうよ」
「知らんと言ってる」
「『君が知っている』ことを僕が知ってる」
「………」
「だんまりはいい加減飽きたよ?」
蹴り付けた金属音が不快に鳴り喚く。
肩を揺らすことも、視線を外すこともなく。
「……今日中」
蹴り付ける。そんなことで柵も錠も壊れはしないのに。
「明日になったら、聞いてあげられるのは
 晩餐のリクエストだけだよ」
「……は、そりゃいい」
一度だけ空気を食んだ唇は、当然弧を描いていた。
「お前の五月蝿い舌でシチューでも作ってくれ」
「それは、」
「お前らのとこじゃあ人食いは地獄行きだったな」
「……そうだね」
そしてそれは、貴方の所では愛の証明だった。
憧れるよな、と月の下で笑っていた貴方を、
その手の暖かさを惜しんだことを。
貴方の元に居ることを、日常にしたかったことを。
「考えておくよ」
「じゃさっさと行けよ。忙しいんだろお偉いさん?」
端から手に入れることの出来ない幸福を踏み潰して。
「……じゃあね『リーダー』」
「クソ喰らえよ『新人』」

3.8 <お金より大事なこと>

「結局さ、通貨って同文化圏内でのサービス引換券な訳じゃん」
「急にどしたの」
「ほら彼処のケチ坊主」
「あ?あー……恨まれ過ぎてて駄目だねぇアレ」
「地獄の沙汰も金次第、とか。せめて地獄の通貨持ってきてから言ってほしいわ」
「それ一回地獄渡りしろと同意ー…。まあ、だから救済措置に善行とか感謝とか祈りとか数えるのにねぇ」
「割と露骨に伝えてる筈なんだけど、もっと分かりやすくないと駄目なのか?つら」
「うーわお仕事お疲れ。ハグる?」
「ハグらせてマジ」
「本っ当お疲れ様じゃない…。おいでおいで、転生まで頑張ろーね」
「がんばる……」

3.7 <月夜>

「夜道に気を付けろって脅し文句有るじゃん」
「あるねぇ」
「何で明るい日が前提なんだろ?」
「相手から見えないけど、相手も見つからないからじゃない?」
「そっかー。真っ暗な日にやってくれたら狩りやすいのになぁ」
「そうだねぇ」


「其処の君に言ってるんだよ」

3.6 <絆>

あまり良い意味ではなかったんだよ、
指同士を繋ぐ色糸を辿って彼は言う。
人を結ぶ暖かさじゃなく、
家畜を繋ぐ綱だったのだと、
糸の先の私に言う。

貴方と私、畜生はどっちだったのかしら
分かっていて私は問う。
随分と高評価なんだね、
溜め息を付くように貴方は答える。

赤とは反対色の糸に繋がる、
貴方と私の定めを嗤う。

3.5 <たまには>

ハイネックのシンプルワンピ
マキシ丈のスカートと幅広ベルト
帽子とネイルはお揃いデザイン

警察も好奇の目線も知ったことか
反物の色もモチーフも全部計算ずくに
現代の着物スタイル、最前線は此処なのだ!

3.4 <大好きな君に>

「それ俺に聞く?」
「何か色々意味出てきてややこしい」
「あー……取り敢えず、まあまあ一発でヤバイの以外はあんま気にしなくて良いと思うぞ」
「一発?」
「明らかにクソ高い奴とか、指輪とかリボンとか」
「装飾も駄目なんだ?」
「違う違う『プレわた』って奴」
「……………リアルにいるの?」
「居るんだわコレが……」
「こわ……戸締まりしとこ……」
「素直に菓子とかで良いんじゃねえの」
「マシュマロは『嫌い』って知って泣いた」
「多分商売のアレだから深く気にするな……」

「で」

「良いのかコレで」
「良いんだよコレで」
「いや好きなモン選べるのは良いっちゃ良いんだが」
「何だよもっと喜べよデートだよ」
「……成程確かに」

3.3 <ひなまつり>

出先で見かけた赤い雛壇に足を止めた。
私の家に飾られていたのは最上段の二人だけだったから、二桁に届いていそうな大きく豪華なそれが珍しかったのだ。
「三人官女と五人囃子と……赤い方が右大臣だっけ」
人形達の細かな役職も飾られた道具の意味も、今となってはほとんど忘れてしまったが。案外3番くらいまで思い出せた歌をなぞって顔を覗き込む。
「……単純に、『綺麗な人』って意味だと思ってたんだけどね」
官女の真っ白な顔に、『お嫁に入らした姉様』の苦労を忍ぶなど。そんな大人の哀しみを、赤い夕日と共に背負い歩き出した。

3.2 <たった一つの希望>

 朝日に金を帯びた切先が、真直ぐに振り下ろされる。
 一時は危篤を叫ばれながら、五体満足で復活して見せた彼。戦神だと崇める民衆と、太陽だと沸き上がる兵士達と、私は果たして同じ色の瞳で見ることが出来ていただろうか。
 綺羅綺羅しい演説も、勇敢さを彩る顔の傷も、彼らにとっては強靭の証明でしか無いのだろう。
 次が必ず勝利の時だと、張られた低い声。そうだ、そうだろう。私は知っている。
 呑み込むような歓声は、其処に滴る痛みの色を知りもしないが。
 
星が死ねば何となる。砕け消えぬ程の巨星であれば。
民を導く大きく光輝く星であれば。
ーーー其処に残る絶望は、彼の餞に足りもしない。

3.1 <欲望>

君と出会い
君の事を知った
君と目が合い
君と話した
君と同じ趣味で
君と共に出掛けて
君と食事をして
君と温もりを分けあった
君と、君と沢山の時間を過ごした

それでも、もっともっとずっと一緒に居たかった


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