人生のサウンドトラックvol.5 the ambient works/chickii
「ambient(アンビエント)」とは「環境としての音楽」という意味がある。
環境としての音楽とは何だろうか。
「よし、この曲を聴くぞ」と対峙して聴くというよりも、「何となくその場にある音楽に身を寄せる」という感覚だろうか。
BGMというのとも違う。どちらかというと自然の音とか日常に溢れている音とかに近いのかもしれない。自然の音に対して「よし、聴くぞ」とはならないし、何となくいつも聴いているし、聞こえていないとも言える。
昨今、SNSの普及で音楽(ここでいうのはポップミュージック)の形も様変わりした。15秒とか短い時間で人の耳をガッチリ掴む曲が流行しやすいようだ。
そうした音楽と全く違うというわけではないけど、耳で聴くというよりも、もっとその場の空気そのものを体感する音楽がアンビエントだと思う。
chickiiの今作を僕はいつものように通勤途中の車の中で主に聴いた。環境としてはあまりよくなかった?かもしれないが、できるだけ時間をかけてその音に身を寄せてみた。
それでは一曲ずつレヴューしてみたい。
the beginning
柔らかく揺らめくアンビエントサウンドがブライアン・イーノを思い起こさせる。そこからゆったりとリズム隊が入り夜明けが訪れる。アルバムジャケットの色のイメージが頭をよぎる。
cave
水が滴る音など暗くてジメジメした洞窟を行くイメージ。この曲に限らず至る所に前作のようなファンタジーなテーマが垣間見えるが、サウンドアプローチは全然違ってリアルな肌触りがある。
bottom
抱擁力ある柔らかなサウンドで始まるが、途中から切り裂くようなかなり歪んだサウンドが耳を刺激する。この歪みが最初は異質に感じるが、だんだん心地よくなっていくから不思議。この曲もそうだが、演奏に即興性や偶然性が多分にあり、今までのアルバムより立体的で表情豊かな音像を獲得している曲が多い。
woodland
ループのような小刻みなフレーズが続き、森を探検してる気分になる。木々の間をこだまするようなディレイのかかった音像が心地よい。そのバックで薄っすらと不確かな何かが蠢く。
wildlife
かなりワイルドな生き物達ひしめくジャングル。途中、虎?と遭遇して必死に逃げる様子が浮かぶ。生き物の鳴き声などのサウンドにこだわった一曲。
clear river
上流から下流にかけて流れる川のイメージ。転調と同時に曲のテンポが遅くなっていくことも相まって上流では忙しく流れる川も下流ではゆったりと流れていく様子が浮かぶ。
ocean
川の流れ着く先。波しぶきが割れて弾けるようなサウンドに癒される。波しぶきが割れた後にベースが乗っかって独特のコード感がある。
a silent garden
呼吸するように振動を繰り返す高音が印象的。心安らかな庭。瞑想、悟りの境地のようなイメージもある。
starry
星屑が散らばるようなサウンド。AIRPORTの「Voyagers」でも披露した銀河を旅する物語のようだ。
celeste
サウンド的には複雑のようでシンプル。得体の知れないエネルギー溢れる渦巻きのようなイメージ。タイトルを調べると「神のいる天空」という意味だそう。a silent gardenからのラスト三曲は瞑想にふける三部作として余韻に浸れる。
…という具合に、アンビエントに振り切った今作だが、演奏の実験性(即興性・偶然性)があり、意外性に溢れている。
「the ambient works」は前作の「fantastic pieces」から8ヶ月と早いタイミングでリリースされた。
最近の彼はさらに制作意欲が増したようで、現在どんどん新作をリリースしている。
ぜひ、それらの作品群もじっくり聴いてみてほしい。僕もこれから聴いていきたい。
目まぐるしいスピードで変化する世の中。次から次へと生まれてくる耳を刺激する音楽もまた、今の僕らには日常に溢れている音と同じなのかもしれない。聴いているようで聴いてない。そういう意味ではアンビエントなのかな?
アンビエントについて考えを深める必要があるな…
最後に。好きなアンビエントのアルバム↓
Another Green World /Brian Eno
Ambient1 Music For Airports / Brian Eno
( ) / Sigur Rós
ブライアン・イーノのGreen〜はポップな歌モノも入ってたり厳密にはアンビエントアルバムではないけど、表題曲がアンビエントの走り。
シガーロスのアルバムをアンビエントと認識するのはちょっと違うかもしれないけど、アンビエントとして聴いてます。いいです。
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