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旅するパートナーとしてのデザイナー 〜カミノユウキさんのロゴデザインを通じて考えたこと

こんにちは、イマニシと申します。

先日、内向型の人へ向けての情報発信やコーチングをされている、内向型プロデューサーのカミノユウキ(@yukikamino)さんのブログ「内向街人間の教科書」の為に、ロゴデザインを担当させて頂きました。

このデザインを行う中で、私自身もクライアントとの向き合い方について、特にデザイナーへの依頼を普段の業務としていない方とのデザインプロセスやそうした時のデザイナーの資質について、学ぶところがありましたので、Noteにまとめたいと思います。

今回のロゴのデザインプロセスを紹介します

完成したロゴはこちらになります。内向型の人への共感、親密さ、また信頼感を表現するロゴとしてよい結果にたどり着いたのではないかと思います。

今回、このロゴのデザインプロセスは、結果的に、半構造化とも言うべきプロセスを経ることになりました。ビジネスの現場では、時間の制約や予算の制約がありますから、出来るだけプロセス(というよりスケジュール?)をコントロールして進めるべきということで、後戻り不可な進め方になりやすいですが、今回はもう少し探索的な進め方になりました。

探索のプロセス〜どっちに行けば幸せなんだ?

当初はブログのヘッダを作りたいということでお話を頂きました。その段階で私が考えたことは、「内向型」という概念をいかに表現するかということ、カミノさんのパーソナルブランドをどう方向付けていくかという、2点が課題かなということでした。

そこで、ちょっとしたヒアリングをさせて頂きました。Google Docsに質問を書いて、答えを戻してもらう様な簡素なものですが、普段の発信の中で気をつけていることなどを聞かせて頂いて、課題認識を深めてゆきました。

この段階では、シンプルさ・相手に寄り添う・信頼感、といったことがデザイン上表現されるべきポイントだろうという認識をしました。

当初提案が下記の様なものになります。

この段階では大きなビジュアルを作成しましたが、どちらかというとよりシンプルなロゴだけのものも見たいということで、ロゴとして追求ということで提案したのが下記です。

ここで、カミノさんから、これはロゴのアプローチAが一番いいですねというはっきりした決断を頂き、ここからはこれをいかに仕上げていくかというフェーズに入りました。

追求のプロセス〜着地点を探す

仕上げるにあたっても、何が課題なのかの認識が重要ですが、カミノさんからは新たに「遊び」というキーワードが出てきていたので、カジュアル感やブログ読者との共感といったものが、表現されるべきポイントになっていくだろうな認識をしました。

そこで、ブラッシュアップ案を作成すると共に、一度ビデオ会議を挟むことにしました。

通常こうしたミーティングでは収束と決定を期待する状況ですが、今回は見過ごした課題はないか、気になっているが言い出せていないポイントは無いかということを、あれはどう?これはどう?とこちら側から根掘り葉堀り掘り返す様な対話を行いました。

そこで見出されたのは、

・レイアウト(二段積みになっているのがいいかどうか)と

・ピクト(教科書だけでいいのか?)で、

その会話を受けてできた修正案が下記になります。

特に作り手としては「内向型人間」にメッセージの重心が置かれなければならないところですが、表現しにくい概念が故に「教科書」の方に重心が寄りがちになるので、そうした課題認識を基に調整を行なっています。

ここから更に、フィニッシュまで数回のキャッチボールを行い、主にピクトグラム部分を調整し、完成形にたどり着きました。ピクトグラム部分は、共感の表現の重要ポイントと思っていましたので、人らしさの表現(具体性)と老若男女問わず私に関係があると感じてもらえる表現(抽象性)のバランスの検討を細かく実施しています。

クライアントとデザイナーの関係、という古くて新しい問題

一般的に、デザインの世界では、クライアントの持つ課題に対して専門家として最適な解を提供することを良しとします。

これは、ある意味でご神託を下すことを目指すもので、「クライアントに指示されたものを作るのではない」ひいては「デザイナーが良いと思うものを主張する」という意味にも繋がります。

またこの派生で、複数案展開や修正の受け入れは本来はあまり望ましいことではない、という考え方があります。「考え抜かれた責任ある一案のみ提示すべし」というものです。

(たしか、スティーブ・ジョブズから複数案展開を求められて、自分はただ課題に最適なデザインを行うから、クライアントを満足させる為だけに複数案展開はしない、と蹴飛ばしたデザイナーがいたような気がするのですが、、、どこで読んだのか忘れてしまった、、、誰でしたっけ?)

私はこの考え方に半分同意し、半分疑っています。

同意するのは、デザイナーは考え抜くべきだという点です。ともすれば現実の業務では、クライアントの代理オペレーターになってしまうケースも見受けるだけに、デザイナーが「何がベストなのか」を考え提案することは非常に重要だと思います。

一方で、場合によっては、クライアントの意思を取り入れながら共に試行錯誤することを悪いことだとは思いません

なぜなら、今回の様に、デザイナーに仕事を依頼することを普段の仕事にしていない人が、プロジェクト開始前に要望や課題を明確に定義することはほぼ不可能だからです。

裏返しに、製造業や広告業にはデザイナーに依頼することを業務の一環とされている立場の方がいらっしゃいますが、そうした方は、正しい「依頼の技術」を磨かれるべきだと思います。私自身依頼側に立つ事もあるので、その価値は極めて高いと考えています。

プロジェクトによっては、事前に課題が完全に明確にならず、目に見えるものが出来てみて、後から課題がはっきりしてくるということを、受け入れなければならないのではないかと思います。

その様な環境では、クライアントとデザイナーは、薄靄の中で、共によりよいゴールを目指す旅に出ることになります。その過程では、複数案展開やクライアント起点の修正も、より良いゴールへの道を探すのに不可欠な行為に思えます。

もちろん勘違いしてはならないのは、デザイナーは言いなりになるべきという訳ではないということです。こうしたプロジェクトでは、出発地点では薄靄に包まれていて、クライアントとデザイナーは対話を通して、共創的にゴールを探していくのだと思います。その二つは似ている様で、実は全く違うものだと思います。

デザイナーの資質にも色々ある

とは言うものの、実はこうした進め方、今、どんなデザイナーにも出来るかというと、そうでもないのかなという気がします。なぜかと言うと、デザイナーに、対話を通じて「クライアントは本当は何を抱えているのか」ということを高度に推測する力が求められるからです。

流行りのストレングスファインダーで言うと、個別化や共感性や調和性と言った資質がそれに近いと思います。デザイナーにも色々いて、エゴイストも多いし、自分の良いと思ったものしか作りたくないという話は今も昔も見聞きします。

デザイナー、ストレングスファインダー受けるのは仕事に役立つかも。。

薄靄の中でクライアントと手を取り合える力は、これまでデザイナーの能力の中でもあまり扱われなかった領域です。専門家としてご神託を下すだけなく、クライアントと対話し共創するマインド、クライアントこそがクライアントのビジネスを一番わかっていて、それを引き出してデザイン成果に結びつけるというマインドは、まだそんなに広く醸成されていない様に感じます。

当たり前なのに忘れられがちな話なのですが、デザイン事務所やフリーランスデザイナーがやっていることは、弁護士や会計士なんかと一緒で、クライアントのお困りごとを解決するプロフェッショナルサービスです。一方で、言語化しにくい感性的な要素を扱う業務ですから、クライアントとの共創というのも、今後のトレンドになっていくのではないかなぁと感じています。

終わりに

ここまでお話してきたことは、20年近く仕事してきた中で薄々感じてきたことではありますが、今回のカミノさんとの案件をやっていく中で、だんだんと明確になっていく感覚がありました。おそらくは、カミノさんが、デザイナーとものを作る経験はあまりなくても、対話をすると言うことについて高い力をお持ちだからだろうと思います。

(ちなみに、やりとりはほとんどfacebook messengerでしたが、明確にポイントを示すクリアなやりとりでさすがでした。この辺りサラリーマン時代は色々と難儀したものでしたが。。)

このテキストは主には同業者を想定して書いています(異論のある人もいらっしゃるかと)。あともうひとつ、デザイナーに仕事を依頼する側の人にも参考になれば嬉しいと思っています。

クラウドソーシングを通して、簡単かつ安価にデザイナーに発注をかけられる様になりましたが、一方でこの依頼の仕方で納品受けた後どうするつもりなのかな?というシーンもしばしば見受けます。

ビジネスを営む中でちょっとデザイナーと付き合わないといけなくなった...という時には「薄靄の中を旅するパートナー」になってくれるのは誰かという目で、相手を選んでみるもの良いかと思います。

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