労働基準法の賃金

労働基準法で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
・退職金のほか、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金又は私傷病見舞金等の祝金・見舞金等が賃金に該当するかどうかは、労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確なものであるかどうかで判断される。支給条件が明確な場合には、賃金(臨時の賃金)に該当する。そうでない場合は、恩恵的給付とされ、賃金に該当しない。
・住宅の貸与、食事の供与、作業衣(制服)の支給などの現物給付は、一般的には、福利厚生又は企業設備とされ、賃金に該当しない。ただし、均衡給与相当額は賃金とされる。
・休業手当、通勤手当、税金や社会保険料の補助、スト妥結一時金は賃金になる。
・休業補償、出張旅費、宿泊費、無料乗車券、生命保険料の補助や財産形成貯蓄奨励金の支給、解雇予告手当、労働者持ちの器具の損料は賃金とならない。

・賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払う、これを賃金支払5原則という。

・賃金は、通貨で支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約(労働組合と会社との間の約束のこと。双方の記名押印等がある書面で作成された場合にその効力が生ずる。)に別段の定めがある場合又は一定の賃金について確実な支払の方法で一定のものによる場合においては、通貨以外のもので支払うことができる。
※現在法令で定められているものはなく、労働協約で定める必要がある。

・使用者は、労働者の同意を得た場合は、次の方法で賃金支払いができる。
①当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込
②当該労働者が指定する金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限り、第一種少額電子募集取扱業者を除く)に対する当該労働者の預り金(所定の要件を満たすものに限る)への払込み(証券総合口座などへの払込み)
③指定資金移動業者(第二種資金移動業を含む資金移動業者であって、指定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者をいう)のうち当該労働者が指定するものの第二種資金移動業に係る口座への資金移動(いわゆるデジタル払い)
ただし、3に掲げる方法による場合は、当該労働者が①または②に掲げる方法による賃金の支払いを選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、指定資金移動業者が満たすべき所定の要件のうちの一部について説明したうえで、当該労働者の同意をいなければならない。使用者は、労働者の同意を得た場合は、退職手当の支払について前記①~3 の方法によるほか、銀行振出小切手、銀行支払保障小切手、銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を交付する方法によること。

・直接払いの原則があっても、本人が病気であるときなど使者(賃金を本人に支払うのと同一の効果を生ずる者)に支払うことは問題ない。

・賃金は、その全額を支払わなければならない。ただし、法令に別段の定めがある場合又は労使協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

・購買代金や社宅費、寮費、組合費などを賃金から控除する場合は労使協定を締結する必要がある。労使協定を行政官庁に届け出る必要はない。この労使協定締結により、全額払いをせず賃金を控除しても労働基準法違反の罰則の適用を受けないとする効力を生ずる。免罰的効力という。実際に賃金から控除するには、就業規則、労働契約等でその旨を定める必要がある。

・次の端数処理は労働基準法違反ではない。
①1箇月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
②1時間当たりの賃金額及び割増賃金額の1円未満の端数を四捨五入すること。
③1箇月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額の1円未満の端数を四捨五入すること。
④1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)の100円未満の端数を四捨五入すること。
⑤1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に生じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。

・労使間の合意によって使用者が労働者に対して有する債権と労働者の賃金債権を相殺することは、それが労働者の完全な自由意思によるものである限り、全額払の原則に違反しない。

・賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時の賃金等(賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当)については、この限りでない。

・たとえ年棒制でも、賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

・使用者は、労働者が出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

・使用者の責に帰すべき事由(経営障害、予告なしの解雇の予告期間中の休業、新規学卒採用予定者の自宅待機)による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。(生活保障)

・出来高払いその他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ、一定額の賃金の保障をしなければならない。

・労働基準法で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日(賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切り日)以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額
※条文では算定事由発生日以前となっているが、実際には算定事由発生日は認めず、その前日から3箇月間で算定。賃金締切日があるのが通常のため、平均賃金の基本計算式は次の通り、(銭位未満切捨て)

算定事由発生日の直前の賃金締切日以前3箇月間の賃金の総額÷算定事由発生日の直前の賃金締切日以前3箇月間の総日数=平均賃金の原則額

算定事由発生日
解雇予告手当→解雇通告日
休業手当→休業日(休業が2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)
年次有給休暇中の賃金→年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2日以降の期間にわたる場合は、最初の1日)
災害補償→事故発生の日又は診断により疾病の発生が確定した日
減給制裁→減給の制裁の意思表示が相手側に到達した日

・賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われる賃金で一定の範囲に属しないもの(違法賃金)は算入しない。

・平均賃金の算定期間中に次の期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定期間及び賃金の総額から控除する。。
①業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
②産前産後の女性が法65条の規定によって休業した期間
③使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
④育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児介護休業法と表記)に規定する育児休業又は介護休業をした期間
⑤試の使用期間
⑥正当な争議行為による休業期間
⑦労働組合事務専従中の期間

・年次有給休暇の取得日数及び年次有給休暇の賃金は、算定期間及び賃金の総額から控除しない。
②介護育児休業法に定める「子の看護休暇「介護休暇」の取得日数および当該休暇中の賃金は、育児休業、育児開業の場合と異なり、算定期間及び賃金の総額から控除しない。

・賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60が最低保障される。

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