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灘の中で

「今度2人でディズニーシー行くんだ〜♪」
と言われ、自分だけ誘われなかったことに結構なダメージを追いながら「え〜いいな〜!誘ってよ〜笑」みたいなテンションで笑顔のまま熱々のアイロンを布地に叩き付けてた。


言ったそばから「厚かましいな自分」と思い脳内反省会が始まる。そりゃそう。2人とは1年生の頃からずっと仲良くさせてもらっているけれど、私だけクラスが離れているので、2人だけで紡がれる時間や友情があったっておかしくない。


でも私は図々しい人間なので、1年半ぶりくらいにディズニーシーに行った。


決して避けていた訳ではないが、エントランスを通るのは気が引けるし、後日寝れない夜にキャスト時代の嫌なことを全て思い出して、どうすることも出来ないままグズグズ泣いたりしていた。

ゲストの前で大泣きし、大慌てで上司に裏に引っ込められて、身にならない話を泣きながら1時間くらい話をした場面を思い出していた。


色んなキャストが一時的に休憩するために利用する場所で、知らない人からの刺すような視線を背中に集めながら壁に向かって泣いている自分。


ずっと惨めな3ヶ月だったな。思い出すのはいつも不出来で要領が悪くて泣いていて、どこか反抗的な自分。
はぁ。忘れたい忘れたい。無理だけど。不幸せな魂。歌い続けるからアズール、契約書にサインさせてよ。

ディズニーシーに行く前に家でオンライン面接を17時から受けていた。最終面接を受けられなかった会社より好条件だったので興味本位で一次面接を受けたら通過してしまった。はは……

履歴書には全日制の高校を中退して通信高校に転学したことも書かなければいけない。面接官に辞めた理由を聞かれたけれど「私は学校を辞めたことに対し、そこまでのダメージを受けていない」とか意味わからないことを言っていた。


「ダメージを受けていない」は勉学の面で言えばその通りだけど、精神面で言えば大ダメージで一生埋まらない大穴が空いている。 

しかしそれ以上の大穴はキャストを辞めたことだ。それに比べたら勉学の面でカバーされてる高校中退の過去は、それほど重くないのかもしれないとか考える(ようにしてる……)


面接が終わり呼び出しを受け続けていたので、スーツ姿のままディズニーシーに向かった。閉園まで3時間しかないのに呼び出しに答える私、面白すぎる。本当は自分だけ誘われなくて悔しかっただけなんですけどね。はぁ。

駐輪場に自転車を置いてエントランスに向かいながらチケットを買う。シーもランドも共通して、エントランスは嫌いだ。思い出したくないのに、ここを通らないと夢を見させてくれない。目をぎゅっとつぶりながらゲートを潜って逃げるように荷物を抱えて入園する。注射を我慢する子供のようだと思う。終わったことに安堵する。


呼び出してきたのは学校で仲良くしている2人組で、1人は私と同じようにDオタだ。ビリーブを見るためにハーバーのドセンでレジャーシートを敷いて待ってくれていた。スーツ姿の私に向かって「面接おつかれ〜」と労ってくれた。嬉しい。あれこれと話をしながらビリーブを見た。

フルバージョンで見るとああやっぱり素敵だな、と思う。個人的にモアナからエルサに移るシーンが好き。自分が何者かを知っていく2人が美しく表現されている。


見終わった後に感想を言い合いながら、残り少ない時間でセンターオブジアースに並んだ。Dオタの友達が「やっぱりさ〜ビリーブもいいけど私はズミの方が好きだったな」と言った。


ズミ、ファンタズミックの略。ああやっぱりこの子とはパークの中でも仲良くできるわと思いながら、分かる〜と返した。

ランドのエレクトリカルパレードのように、ずっと残り続けるシーのシンボルだと思っていた。なんだかもう二度と見れない気がすると思ってじっくり観たあの時が、本当に最後になるとは。コロナで世の中もパーク運営も、大きく変わってしまった。忘れたくない。

シーはディズニーランドと違って特別な思い出や感情がほとんどない。ランドの中で他人の思い出を作りたくなかったので、年パスを持っていた頃は人と会うのをなるべくシーにしていた。

本当に余談だけど、あの時送られてきたチケットがシーのものだったら何も考えずに一緒に行ってたと言える。ごめんね。 

センターを待ちながらまた喋る。Dオタの子に「なんで辞めちゃったの?辛かった?」と聞かれ、夢を壊さないように勤怠の部分が自分と合わなくて〜と誤魔化した。それが引き金で上手くいかない結果、色んな人に冷たくあしらわれてたのは事実だ。言わないけれど。


閉園までの3時間、あっという間で凄く楽しかった。けれど、帰ったらやっぱりしんどくてキャストになった事の後悔で情緒不安定になりながら今日に至る。何をしているんだろう。

新しいエリアも気になるし、オープン前にスニーク狙いで行こうと思って買ったチケットが、風邪で寝込んで使えないまま残っているけれど、怖くてもうしばらくは行けないなと分かった。


冒険とイマジネーションの海。私はいつ曇りのない心で冒険出来るようになるんだろう。
分からないまま、傷が癒えるのをじっと待っている。埃っぽいラグの上で、働いていた頃のように動けなくなりながら、これを打っている。

あの時は椅子に座ることも、ベッドで寝ることも出来なかった。床が友達だった。
そこにあるのに使い方を忘れたようだった。

忘れたくないことは忘れてしまうのに
忘れたいことは忘れられない自分。
ああ、早く忘れたい。
魔法があるなら、もっと幸せな夢を見させて。
痛みを感じないまま眠るように、消えてなくなりたい。

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