刀ステ維伝「隠す演出」の見事さについて

言わずと知れた超人気舞台シリーズ「舞台 刀剣乱舞」。
このシリーズがどんなに素晴らしいかは、わたしなどが言うまでもなくたくさんの人たちが言葉を尽くして語ってくれている。例に漏れず、わたしもこのシリーズが大好きで大好きで仕方ない。しんどいけど!

その中でも、最新作「維伝 朧の志士たち」は非常に完成度の高い大傑作だった。
末光健一氏の紡ぐ重厚な物語やキャスト陣の熱演はもちろんだが、この作品は演出の妙に感嘆することが多かった。わかりやすく気持ちの良い演出ーー特に「隠す」ことで観客の視線を誘導する演出がピタリと嵌まっていたと感じて大感動したので、記しておきたいと思う。

※ただしあくまでも素人の一意見ですので、ご了承くださいませ。


①照明で隠す

今作の舞台セットは、「朧」の名の通りに基本的に黒く、暗い。舞台はおぼろげに隠されていて、全体を見渡すことができないようになっている。
その代わり、そこに明るいスポットライトが当たると、明暗のコントラストで目が引き寄せられてはっとする。白い映像が映し出されると、どきっとするほど際だって見える。
スポットライトを当てたいキャラクターに文字通りスポットライトが当たることで、演出が見せたいとおりに視線が誘導されるのだ。光が当たるタイミングも音楽と合わさってドンピシャで気持ちいいのでぜひ確かめてほしい。

また、"スポットライト以外”が隠されていることで、シーンが進んでいる間に陰でセットを換えることができ、場面転換が短くスムーズにすすめられている。

例:陸奥守と龍馬が初めて出会う瞬間、城下町に無数の眼が開くシーン、小烏丸と鶴丸が語り合うシーンなど多数


②舞台セットで隠す

今回の舞台セットは、割れる!動く!

階段の付いた高い台がいくつも動いてくっついたり離れたりすることで、限られた中で多彩な場面を作ることができる。
そして上手いなと思ったのが、このセット、人力で動かすタイプなのだが、大きいものは中に空洞ができていて、その中に人が入って動かすように作られている。つまり、セットを動かす人は基本的に隠されていて見えない。
それによって、視界に入る情報量が少なくなり、観客は本筋のお芝居に集中しやすくなる。

またそれだけでなく、動かす人が隠されていることで、観客からはまるでセットがひとりでに自由に動いているように見えるのだ。このセットが動くという(舞台ではままある)演出そのものが、実はのちのち物語の根幹にも関わってくる。なんて上手い作りなんだ!(二回目)

例:街が“生きている”シーンなどセットが動くところ全般


③人で隠す

人を目隠しがわりにして、観客の視線をそらす。舞台中にものを持ち込む。シンプルだけどすごく的確。

とにかく今回は(今回も)アンサンブルの皆様のご活躍がほんとうに凄まじい。
今作は刀剣男士vs多数の乱戦の場面が多いのだけど、アンサンブルの皆様の「斬られっぷり」もとにかく素晴らしいのでぜひ注目してほしい。殺陣はやられ役によって迫力が何倍にも増すのだというのがすごくよくわかる。どうしてもある刀剣男士たちの経験の差をさりげなく埋める的確なサポートが見事。

例:殺陣シーン、龍馬の姿が変わる瞬間のシーン


応用編

②+③=一対多数の乱戦のシーン

ダイナミックに動くセットと、そこを縦横無尽に行き来しながら繰り広げられる圧巻の殺陣が凄い。魅せ方がめちゃくちゃ緻密に計算されている。

ちなみに、よく見ると、床や動かないセットの上で行う殺陣は刀剣たちは動きながら刀を振っていて、動くセットの上では止まったまま刀を振っていることが多い。安全性を確保しながらダイナミックさを損なわない工夫だと思うので、ぜひ注目して見てみてほしい。
(逆に、動く足場の上で動きながら殺陣をしている方の身体能力えぐすぎる!となるのでそこも注目してほしい)

①+③=罠ミュージカル!

めちゃめちゃ大好きなシーン!
やられる遡行軍→黒子が罠を持ってくる(持ってくるところは照明を暗くして隠す)→遡行軍の後ろに罠をスタンバイ、刀剣が周りで踊るor南海先生が罠を作る(罠を遡行軍と刀剣男士の後ろに隠す)→スポットを当てた瞬間に遡行軍と罠が入れ替わる
という一連の流れがスムーズすぎてめちゃめちゃ気持ちいい!何度も繰り返して見たくなる名シーンだと思う。


「隠す演出」に重点を置いて、刀ステ維伝の素晴らしいところを挙げてみた。

維伝は、脚本や構成、キャストの皆様の演技力も素敵だけど、初見のときこういった演出の気持ち良さが印象に残った作品でもあった。ぜひ円盤などで演出にも注目してみて!


そして、この素晴らしいシリーズが物語を重ねていけますよう、いつか絡まりあう円環の向こう側に行くことができますよう。今はただただ、それを祈っている。

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