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【story】オムライス ~コウキくんとミチルさんのショートストーリー番外編

ミチルさんがこのところ元気がない。
秋に同棲を開始、年末怒濤の仕事をこなし、元旦に入籍。
同棲以来相変わらず部屋は別々でパーソナルスペースは現状維持。
僕も忙しいこともあり、土日にも職場に出てしまうことも。
恐らくお互いがお互いを求めている状態なので…リビングにいる時のさりげない密着度が高い気がする。
しかし、お互い照れ屋のためか「甘え方」が解らない。
僕はまったく解らない。
ミチルさんも年上であるということに気を張っているのか…僕は別に気持ちも態度も甘えてくれれば受け止めるのに。

そんな最中に、テレワークの指示が出た。
週5勤務から週1勤務、他4日間はテレワーク。

テレワークの状況はミチルさんも同様。
週1出勤は、お互い曜日が異なるため、一緒に出勤することは無さそう。

朝は一緒に出勤…ということは無く。

ミチルさんは必ず僕を見送ってから出勤している。
多分、彼女のこだわりだと思う。
ミチルさんの出勤が遅れるのも申し訳ないので、僕は気持ち早く家を出る。
独身時代から比べたらだいぶ早起きするようになったけど、ミチルさんは更に早く起きて朝ご飯の支度をしてくれる。

とにかく、すべてにおいてミチルさんに申し訳ないと思っている。
余計疲れさせてるのなら…と、今日の日曜日。
ちょうどお昼ご飯。

「ミチルさん、今日のお昼は僕が作ってもいい?」
「え?どうしたの?」
「それとも何か用意してた?」
「…ううん。今日は何だかぼーっとしちゃうことが多くて…。お昼私はいいかな…なんて思って悩んでたとこ。」

リビングのソファーでぼーっとしている様子のミチルさん。
確かにお昼ご飯を用意している素振りがなかったので、これはチャンスと思って声を掛けた。

僕もまったく作らない訳ではない。
先に帰宅した時には、僕が夕飯を準備することもある。
僕が夕飯を用意した時の、翌朝は…かなり豪華だったりすることも。
僕も別に朝はご飯と味噌汁と納豆でいいのだけど
「えー。コウキくんはまだ若いしおかずも食べなきゃ。」
と、必ず一品追加で準備してくれる。
若いって言っても、4歳年下だけなのにな。

台所に向かい、冷蔵庫から残っていた冷やご飯を探す。
それから、コンビーフとコーン。
それでチキンライスを作る。
作っている様子が気になるのか、ミチルさんがちょいちょい振り返る。

「そういえば、一緒に暮らしてから…コウキくんがご飯を作っている様子をちゃんと見たことなかったかも。」
「そうだったっけ?」
「うん。たぶんちゃんとは見てない。」

僕が作る様子を見たくて、ミチルさんがソファーから立ち上がり、僕の横にやってきた。

「手伝うことがあれば言ってね。」
「大丈夫だよ。…僕が作るのはオムライスなんだけど、多分普通の作り方と違うから見ててね。」
「普通と違うの?」
「うん。」

ささっとチキンライスを炒めて、ボールに避けておく。
卵を3つ溶く。
フライパンに油を入れて熱し、バターを入れる。

「じゃあ、ミチルさん。卵が入っているボールに好きな量のチキンライスを入れてかき混ぜて。」

ミチルさんはキョトンとして僕の顔を見つめる。

「溶き卵にご飯をいれるの?」
「そう。入れたらかき混ぜて。」
「ええ?」

キョトンとしながらも僕の言われた通りにかき混ぜる。

「かき混ぜたよう。」

時々ミチルさんの言い方が可愛くてついドキッとする。

ミチルさんから渡された溶き卵チキンライス入りを受けとり、熱したフライパンに入れる。
後はオムレツを作る要領で形にしていく。
ミチルさんは出来上がる様子をじっくり見つめながらも、手際よくお皿と冷蔵庫からケチャップを用意してくれた。

「はい。出来上がり。」

何かのテレビ番組で見たオムライスの作り方。それを真似ただけなのだが、ミチルさんはにこにこして

「わあ。美味しそう。」

と嬉しそうにテーブルに持って行った。
そういえば、好きな量だけチキンライスを入れていいよとは言ったものの。
さっきそんなにお昼お腹空いていないような発言をしてたのにも関わらず、チキンライスの量は結構多かったな。

ミチルさんがオムライスにケチャップで何やら書いている。
が、失敗したらしい。
苦笑いしている。

「ケチャップで文字を書こうとした私もどうかしてる。…あのさ。オムライス一緒に食べよう?はんぶんこしよう?…それだとコウキくんには足りないかなあ?」

チキンライスの量はそういうことだったのか。
チキンライスには何故か「あ」の文字。

お湯を沸かして、コンソメスープを2人分作り、テーブルについた。
じゃあ、オムライスをはんぶんこするなら…
いつもは向かい合わせの椅子を、ミチルさんの隣に持って行く。

「え?」
「だってはんぶんこでしょ?」
「向かい合わせでも出来るよ?」
「僕はミチルさんの隣にいたい。」
「ふふふ。」

ミチルさんはひとくちオムライスを食べた。嬉しそうに美味しそうに食べてくれた。素直に嬉しいな。

「ミチルさん?」
「ん?」
「疲れている時は、ちゃんと疲れたって言っていいんだよ。」
「うん…。」
「甘えたい時は、甘えたいって言っていいんだよ。」
「んん?!」
「ところで、ケチャップで何て書こうとしたの?」

「うん…『あいしてる』って書こうとした。そしたら『あ』がデカすぎて諦めた。」

はは。

「ミチルさん、とりあえずパーソナルスペースでそれぞれ部屋を持ってるけどさ、ひと部屋余ってるじゃん。そこを2人の寝室にしない?」
「ん?!」
「パーソナルスペースはそれでいいし、どちらかが風邪引いたとかは隔離で各部屋でもいいけど…ああ。まどろっこしい。僕は一緒に寝たい!」
「…私寝相ひどいし。」
「それはお互い様。…え?ミチルさんは嫌なの?」
「…嫌じゃ…ないですう…。」
「よし。じゃあ決まり。次の週末ダブルベッド見てこよう。」

ミチルさんはオムライスを頬張って笑っていた。
やっぱり僕たちはお互い素直じゃないよな。

*****

コウキくんとミチルさんのショートストーリーその後。
駅ネタ恋愛物語が滞っているのは、外出自粛で駅旅が出来ないからでして。
番外編を作ってしまいました。
オムライスは実際に今日(笑)作って食べたものです。(画像はまさにそれ。)
何かのテレビでやっていたオムライスを作るようになりました。この方がとても簡単。

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