見出し画像

【story】雨に負けた ~西船橋駅

高校3年の冬、付き合っていた彼と自然消滅した形で別れた。原因は私の嫉妬癖だと思う。はっきり「別れよう」とは言われてなく、友人から

「あいつからの年賀状に、『今年から独りになりました』って書いてあったぞ!」

と教えられて、別れたことを知った。
付き合おう、と言ってくれた昨年のバレンタインデー。結果的に1年続かなかった。
しかし、別れたと実感しても不思議と悲しくなかった。どこかでこうなることは予測していた。今思えばあれだけ嫉妬深くねちねち妬いていたらそりゃ嫌になるだろうな。

それから高校卒業し、私は就職した。
毎日慌ただしく働いている。
働きつつもプライベートも充実させようと、習い事始めたり、カラオケしに行ったり、夜は殆ど家にいなかった。実家暮らしだったが、親からも「どうせなら独り暮らししたら?」と勧められ、雑誌で部屋探しをしていた時だった。
家の電話が鳴り、親が電話に出る。
「愛ちゃん、健太くんからよ」

健太とは高校時代付き合ってた彼。
いつの間にか、別れたことになってた相手。

「もしもし?久しぶり。どうしたの?」
「愛?元気?…卒業してから半年経ったけどどう?仕事頑張ってる?」
他愛もない話が続く。やれ俺も卒業して家業と副業で忙しいだの、免許取るため教習所通ってるだの、健太自身の話題を早口で語られる。
「ところで?何か用事?」
途中で健太の話を遮る。心の隅にやはり失恋の種が残ってて、少し鈍い痛みがするから早くこの電話を終わらせたかった。

「あのさ。俺もある程度稼げるようになったからさ、夕飯でも一緒に食べに行かない?」

その時はあまり深く考えずに「いいよ」と返事してしまった。ついでに別れた理由でもちゃんと聞こうかな、ぐらい軽い気持ちで。約束の日にちと、時間と待ち合わせ場所を決めた。

当日。仕事をする手がどこか世話しない。
時計ばかり気にするのは、半年ぶりとは言え会うのは元カレ。第一声何て言おうか、化粧は大丈夫か、いろいろ気になる。ふと窓の外を見たら

雨が、降っていた。

「雨降ってきた…」
私の心も雲行きが怪しくなる。
健太と付き合ってた時、デートの約束しても当日雨が降ると「今日雨だからデートなしにしよう?」とドタキャンされた。雨降っても室内で遊んだりすればいいじゃん?と言っても「俺、雨嫌いなんだよね」と頑なに拒否された。また朝から雨だと「雨だから駅に迎えに行かないから」と一緒に学校へ行くのも拒まれた。
つまり、嫌な予感しかしない。

仕事終えて、西船橋駅の改札口で夕方6時に待ち合わせ。雨はまだ降っている。駅の改札は仕事帰りの人で混みあっている。
6時になった。健太が来る様子はない。
6時半になった。やはり来ない。
7時。これはもう確実だなと思い、健太の家に電話をした。
案の定、健太が出た。

「あのさ、今日雨だから、ご飯食べに行くのまたにしない?また連絡するから。」

予感的中。ドタキャンか。
ま、そんな予感がしたので「いや、いいよ。じゃあ帰るね。」と電話を切り、そのまま西船橋駅でご飯食べて帰った。

しばらくして。
また健太から電話があり、夕飯を食べに行く約束をした。今回は雨は降らず晴天。夜景がきれいなところでと言われたが、ららぽーとTOKYO-BAYの展望レストランで普通にカレーライスだった。
他愛もない話をした後、健太は

「愛のこと、忘れられなかったんだ。もう一度やり直さないか。」

復縁を申し込んできた。
素直な感想は…

私は雨に負けたじゃん。
本当にやり直したい程好きなら雨でも会いに来いよ。
しかも今、カレーライス食べてたし。
恐らく健太は精一杯のロマンチックなイメージで復縁を望んで来たと思う。けど私は先日の「雨でドタキャンされた」時点で別れた理由なんて別に聞かなくてもどうでも良くなった。

私は、健太のどこが好きだったんだろうとわからなくなった。

返事をするまでの短い間、素直な感想を心で整理して

「ごめんなさい。健太とは友達でいたい。」
「で、でも愛は今付き合ってるヤツいないんだろう?」
「けど、好きな人はいる。」
「…そっか。」

好きな人は別にいなかった。咄嗟に出た嘘。
健太はあっさり引き下がった。

ハッピーエンドにならなかったせいか、帰りは殆ど会話しなかった。健太は南船橋駅からとりあえず西船橋まで一緒に戻り、私だけ西船橋駅で降りた。

さて、どこか寄り道しよう。
いつか、雨より私を優先してくれる彼氏と出会えますように。

*****

このショートストーリーは、ベースに実体験があります。高校時代付き合ってた彼は雨が嫌いでした。本当に雨が降るとデートはドタキャンでした。
今その彼は、雨でも推しのイベントへは必ず出向くそうですよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?