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体外離脱 (2)

気がつくと、朝の光が目に入って来て、清々しい島の朝の音が聞こえる
体外離脱中にも、部屋の中を歩き回っていた猫の気配を感じて
私はゆっくりと目を開けた。

事務所に泊まり込んでくれていたのか
私が朝を迎えるまで寄り添ってくれていた祝田さんは
「昨夜は主人に電話して、客人が倒れてそのままの状態だから帰れないと言ったのよ。
でも、今朝は早く出なくちゃいけないから。」

祝田さんはこの島に来てから、マッサージ師の走川さんの紹介で、昨夜、初めてお会いした。
真言宗の修行をしたと言う、この島に住む宗教家だった。
私は昨夜この女性と話している内に、
自分の大きな過ちを指摘されたことをきっかけに、そのまま意識を失ってしまった。

精神的に追い詰められていた私は

彼女の言葉を受けた途端、

だんだんと目の前にいる彼女の輪郭がぼやけ始め、何重にもその姿が重なって見える様になり、
まるでサーカスの空中ブランコの様に目の前の景色が縦に大きく揺れたかと思うと
次は大きく横に揺れだして、そのまま、どんどんと頭が重くなり、重さに耐えきれなくなった頭が体ごとしな垂れて
まるでボーリングの球がスポンジに沈む様に、硬いはずの木の床にズブズブとのめり込んで行ってしまった。

体と精神が大きく分離する様な恐ろしさに見舞われ、
自分の体から遠く離れようとする意識を何とかしがみ付いて離れまいとするのだが、
一度、肉体から離れた意識は急速に闇の中に溶けて行く様だった。

意識は暗闇から一転して、
大スクリーンにフルカラーの映画が目の前で上映されている様な圧倒的な情景が流れ始め、
私は暫くそれを見ていた。

意識を失ってから4.5時間もその圧倒的な映像を見ていた。映像の中では、私がさっきのこの場面に戻りたいと思うと戻ることが出来た。映像から感じたことは、その出来事は過去の何処かで起きたことであったり、これから未来で起きる可能性の世界であったり、今、私が居る同じ時に別の場所で起きているであろうことであったりした。その中でもこれからを表していると思われる道筋があり、その情景は私の希望、、本当に望んでいるのかはその時は分からなかったが、未来へ続く道で、その道は暗闇に浮かんで光って見えた。


昨夜、知り合ったばかりなのに思いがけず長時間の滞在となり、すっかり迷惑をかけてしまった祝田さんの家を慌ただしく出て、島についてから借りたレンタカーでしばらくドライブしていると、海岸線の見える道に出た。何気なく街路樹を見ると、昨夜意識を失っていた時に見ていた映像の場面が目の前に広がっていた。なんと、フランス式庭園の様な街路樹が続いている。島のあちこちに植えてある街路樹ではあったが、その街道の一部分だけが道路工事で新しい苗木に植え替えられており、丸くカットされた新しい木々が植えられていたのである。意識を失っていた時は自分は鳥になったような視点で情景を見ていたが、レンタカーを運転して道路を走っており、その情景を車に乗りながら鳥の様な目線で見ていたのである。また、反対の通りを眺めると、水平線の先にこれまた、昨夜見た映像とそっくりの島影が見えてきた。

私は不思議な感覚に襲われて、あの映画の様な映像をたどって、これから長い旅に出て行く様な気がした。

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