寺地はるな『水を縫う』感想
2020年に発刊された大ベストセラー。「普通はこう」だとか「〇〇してると痛い目に遭う」とかの世間一般の常識にがんじがらめになっていた中学生の頃に出会いたかった本。
物語は高校生の清澄が自分の好きなものと向き合える覚悟を持って、姉のウェディングドレスの刺繍を完成させるまでの話。清澄と清澄の家族や周りの人たちの視点で描かれる。好きなことに対するまっすぐな気持ちが揺るがなくなった清澄との関わりの中で、周囲の人たちが自分の抱えている問題を見つめ直していく。
登場人物たちの問題は、(架空の)他者の厳しい目で自分を見つめてしまうことにより起こっている。清澄は「刺繍を男がやるのはおかしい」、姉の水青は「チャラチャラしてると性被害に遭う、性被害に遭うのは被害者の落ち度もある」、母は「手作りは愛情の証」、祖母は「歳を重ねたら泳いだり派手なものを身につけたりするのは恥」、主人公の父の友人である黒田さんは「いい歳した人間が結婚して子供を持たないのは世間体が悪い。所詮血がつながらない子供とは実の親子ほどの絆は結べない」、主人公の父は「清澄と水青に合わせる顔がない、自分は父親の資格がない」とそれぞれ思っている。
まず清澄が良き友人たちの存在によって好きなものへの揺るがなさを手に入れる。「他者視点の厳しい目で見つめた結果コンプレックスに思っていること」を受容してもらえることは愛である。受け入れられて初めて、まっすぐにコンプレックスを見つめることができるようになる。それができたら他者のコンプレックスや気持ちを大切にできるようになる。愛は循環する。
一番好きな場面は、刺繍が完成したドレスに水青が喜ぶ姿を見て清澄が涙を流し、水青がそれをみて優しく微笑んだシーン。清澄も水青も、もう自分を縛っていた常識や思い違いから完全に解放されている。お互いに認め合っている。
愛って最高!
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