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【論文瞬読】Transformerモデルの内部を覗いてみよう!- 整数加算から見えてきた驚きの事実とは

こんにちは!株式会社AI Nestです。
今回は、Transformerモデルの解釈可能性に関する最新の研究をご紹介します。Philip Quirke氏とFazl Barez氏による論文「Understanding Addition in Transformers」では、1層のTransformerモデルがn桁の整数加算をどのように実行するかを詳細に分析しています。その結果、モデルの内部動作に関するいくつかの驚くべき事実が明らかになりました。

タイトル:Understanding Addition in Transformers
URL:https://arxiv.org/abs/2310.13121
所属:Apart Research, University of Oxford
著者:Philip Quirke, Fazl Barez

Transformerモデルの解釈可能性ってなに?

Transformerモデルに代表される深層学習モデルは、自然言語処理や画像認識など、さまざまな分野で目覚ましい性能を示しています。しかし、その内部動作は「ブラックボックス」と呼ばれるほど複雑で、人間にとって理解することが困難でした。

そこで注目されているのが、「Mechanistic Interpretability」と呼ばれる研究分野です。これは、個々のニューロンとその相互接続の振る舞いを解明することで、モデルの内部動作を理解しようとするアプローチです。

整数加算から見えてきたTransformerモデルの驚きの事実

Quirke氏とBarez氏は、1層のTransformerモデルによるn桁整数加算に着目し、その内部動作を詳細に分析しました。その結果、以下のような驚くべき事実が明らかになりました。

  1. モデルは課題を桁ごとの並列な処理に分割している

  2. モデルは桁の位置に応じて異なるアルゴリズムを適用している

  3. モデルは特定のまれなケース(9の合計を使うケース)の処理が苦手

特に、モデルが並列処理とアルゴリズムの適応的な選択を行っている点は、人間の認知プロセスとの類似性を感じさせ、大変興味深い発見だと言えます。

Figure2, 5桁の整数加算における桁ごとの訓練損失曲線。モデルが各桁を半独立に学習していることを示しています。

上の図は、5桁の整数加算における桁ごとの訓練損失曲線を示しています。各桁の損失が独立に減少していることから、モデルが各桁を半独立に学習していることがわかります。

数学的フレームワークと丹念な分析が明らかにしたモデルの内部動作

著者らは、加算のための数学的フレームワークを定式化し、モデルの学習過程と予測動作を丹念に分析することで、これらの事実を突き止めました。

Figure1, 5桁の整数の加算におけるTransformerモデルのAttentionパターンを示した図

上の図は、5桁の整数加算におけるTransformerモデルのAttentionパターンを示しています。モデルがどのように桁ごとに並列な処理を行っているかがわかります。

さらに、得られた知見を別のモデルでも再現できることを示すことで、その一般性も確認しています。

この研究の意義は、Transformerモデルの解釈可能性の向上に寄与することだけでなく、より複雑なタスクや多層モデルの分析への道筋をつけた点にあります。特に、モデルが苦手とするまれなケースの存在を明らかにしたことは、今後のモデル改善に向けた重要な示唆を与えてくれます。

Figure7, 3桁目の訓練損失。フェーズ2において、Use Carry 1の改善がBase Addに遅れていることを示しています

上の図は、3桁目の訓練損失を示しています。フェーズ2において、Use Carry 1の改善がBase Addに遅れていることがわかります。このことから、Base AddとUse Carry 1が別々に学習され、異なる計算を行っていることが示唆されます。

Figure9, 答えの3桁目(A3)を予測するモデルの加算アルゴリズムを詳細に示した図

上の図は、答えの3桁目(A3)を予測するモデルの加算アルゴリズムを詳細に示しています。モデルが桁ごとに異なるアルゴリズムを適用していることがわかります。

今後の展望と課題

一方で、この研究はあくまで1層のTransformerモデルによるn桁整数加算に特化した分析であり、より複雑なタスクや多層モデルへの一般化可能性については、さらなる研究が必要です。また、MLPの役割など、いくつかの点でより詳細な分析が求められます。

とはいえ、この研究はTransformerモデルの内部動作の理解に新たな一歩を踏み出した重要な研究であり、今後のAIシステムの解釈可能性と安全性の向上に向けた礎になるものと期待できます。

今後は、この研究の知見を足がかりとして、より複雑なタスクや大規模なモデルの解釈可能性の向上に向けた研究が進展することを期待したいですね。同時に、モデルの苦手とする部分への対処法の開発など、より実践的な課題にも取り組む必要があるでしょう。AIシステムの安全性と信頼性の確保に向けて、この研究のようなアプローチがますます重要になってくるものと思われます。

さいごに

いかがでしたか?Transformerモデルの内部動作に関する最新の研究をご紹介しました。モデルが並列処理とアルゴリズムの適応的な選択を行っているという発見は、人工知能の振る舞いを理解する上で重要な一歩だと言えます。

Transformerモデルに代表される深層学習モデルは、私たちの生活のあらゆる場面で活用されつつあります。そのような中、モデルの内部動作を理解することは、より安全で信頼性の高いAIシステムを開発する上で欠かせません。

この研究は、そのための重要な礎を築いたと言えるでしょう。今後のさらなる発展に期待したいと思います。

読んでいただき、ありがとうございました!