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ヤニス・リッツォス『いちばん星』の訳

ヤニス・リッツォス『いちばん星』(1955年作品) 

ヤニス・リッツオスはギリシャの詩人。1909年生まれ1990年没。モネンバシア出身。フランスの詩人ルイ・アラゴンに私たちの時代の最大の詩人と評されたことがある。



1. 

かわいいお嬢ちゃん、持って来てあげよう、
ユリの束のランプをね、 
君のゆめを照らすから。 

持って来てあげよう、 
可愛いお庭をね、 
お庭って、一羽の蝶だよ、
羽の上に模様を描いてる鱗粉は、花片の様だからね、
蝶は、君の青い夢の中をふらふら飛び回るから。 

持って来てあげよう、 
可愛い十字のオーロラの光りをね、 
十字はね、僕の詩の二行が光線になって、交差しているんだよ、 
二本の光線が、君の禍いを払うからね、 
君を照らすからね、 
お嬢ちゃん、僕にぶつからないでね、 
だって、柔らかい裸足なのだし、 
影には棘があるんだよ。  

眠りなさい。 
早く大きくなるからね、
長い道を歩かないといけないのだから、お嬢ちゃん、 
それに、君はサンダルを一足しか持ってないからね、空で出来たサンダルだね。 
眠りなさい。  

乳母さんのお顔は輝いているよ、 
君の夢の中の薔薇色の低い丘の上で輝いているんだ。 
お顔は、春の月なんだよ。 
お顔は、君へ降り注ぐ乳母さんの細かな目配りが光線の束になって四方に出ている、
その真ん中に、僕の歌の薔薇の茂みの真ん中に、あるんだよ。 

眠りなさい、かわいいお嬢ちゃん。 
道は長いんだよ。 
君は大きくならないといけない。 
道はね、長いんだ、 
        長いんだよ、 
             長い道なんだ。  

2.

お嬢ちゃん、 
君は何もかもとなかよくなる、一緒にいられる、って。  
「違う」って、僕に言う声はひとつもないよ。 
それでね、君と僕を結びつけるのと同じで、
敵と味方を結びつけるんだね。 
昔のこととあしたのことを結びつけもするんだ。 
あしたからの全部のことと、
ずっとあることの全部も結びつけるんだね。 

昔の崖はどこにあるの? ー 僕は見たことがない ー 
崖はないんだ ー 
橋だ、君は、 
いや、橋でもない、 
命だ。 

君のお母さんと僕の間に、 
君。 
きのうとあしたの間に、 
君。 
大地と光りの間に、 
君。 ― 
命はいつも突き進んでいるんだ。それに、
静寂も続いているよ。 
聴きなさい、命が何て言っているか、
聴きなさい、どんなふうに笑うのか。 

それで、僕となかよくなる様に、君は、 
敵とも、味方ともなかよくなるんだね、 
鳥たちの中に、僕の血流、 
海に、僕の根、 
星々に、僕の花片。 

それで、僕はやって見よう、たった一歩で、 
大地と空を 
通り過ぎる。 

お嬢ちゃん、 
二枚の羽を広げた、 
白い小鳩が、 
君のぶらんこを照らしているよ。 

そして、すべてが黄金の素敵な時間だ、 
君は、素敵な夜明けと一緒に来るんだね、 
夜明けは君と一緒に来るんだね、 
そして、空と大地を一緒にするんだ、 
そして、命は、 
光りとパンに、 
光りとワインに、 
光りと凪になるんだよ。 

それから、僕たちのドアの後ろに、 
夫人、主婦、
温かな心の持ち主、 
大きな、神聖な箒がいる、 
腰には、強いげんこつを持ってる、 
ずっと眠らずにいる、いつでも用意出来ている、 
彼女は、 
病気の月のために、 
黄色い葉が落ちるのを放っておかない、 
それに、僕たちの敷居を 影が 
大股で一跨ぎするのも放っておかない、 
それで、躓くこともないし、けがもしない、 
ちいさな、ちいさな、小指も無事、 
泰平と言う女の人。


3.  

眠りなさい、お嬢ちゃん。 
二本の稲妻の間に、笑顔が、 
まっ青な - まっ青な子鹿が、君を見てる。 
一本の、星々で出来た小さな - 小さな川。 
そして、子鹿は、 
君のお口の中に、二つのサクランボを入れるよ。 

それで、僕は君に、編んであげよう、 
君に、あ、君に編んであげよう、お嬢ちゃん。 
コリヤナギで、小さなコリヤナギで、 
一番の黄金の光線で切り取られたコリヤナギの枝でね、 
君に、あ、 - 君に編んであげよう、 
ひと振りの、ちいさな、 - ちいさな籠を。 
それをね、君のちいさな、ちいさなひじにかけるんだよ、 
お嬢ちゃん、それで、通りに出掛けるんだよ、 
お嬢ちゃん、君が中に入れるのは、きっと、 
影の小石か、鉛の兵隊か、だね、 
それはどれも、まっしろな光り、ユリの花になるんだね。 

眠りなさい。 
そして、はやく大きくなるんだよ。 
僕らの人生は、苦い、苦いものなんだ、お嬢ちゃん。 
でも、僕たちは、 
君の人生は、甘い、甘いものにしなくてはならない。  

眠りなさい、お嬢ちゃん。  

一本の枝に、甘アカシアの枝、花をつけた甘アカシアの枝に、 
一本の小枝に、星の小枝に、 
僕たちは、僕たちの息を入れた浮標をかけておくね、 
その息が、君の髪を吹き流すだろうからね、 
それから、光の剣もかけておくね、 
それで、君は、夜明けの桃色から影の皮を剥きとるんだよ。 

眠りなさい。 


4.  

樹々が花をつけたよ、 
樹々はなぜだかは知らない、 
花をつけるんだ。 
花々は気にはしないよ、 
実がなるかどうかなんて、 
そも、実はなるんだよ。 
だから、僕は歌おう、 
なぜだかは知らない、 
僕は歌うんだ。 

僕は、娘が一人ある、
僕は、娘が一人ある。 
僕は、空の中に立つ、一本の樹なんだ。 

一つのクッションの上で、それは月なのだけど、 
僕の娘は、眠りこんでいる。 
爪先にある、 
全宇宙が、 
僕たちの窓を通して、 
僕の子供を見詰めている、 
眠っている娘を見詰めている。 

一本の花をつけたアーモンドの樹、 
星々のすべてが、その花なのだけれど、 
その樹が、僕たちの窓の前で、 
僕の子供を見詰めている、 
眠っている娘を見詰めている。 

雀たちと子供たちの神が、 
花柄のカーテンの後ろで、 
僕の子供を見詰めている、 
眠っている娘を見詰めている。 

おかあさん、この子を 
起こすのは、 
ずっと、ずっと後だよ。 

嬉しさでいっぱいの庭で、 
君の心臓の小さな扉が、 
開け閉めする度に、起こる音、 
それは、なんて可愛らしいんだろう。 

嬉しさでいっぱいの月が、
まぶしくて、 
あけたりしめたりする君の 
たくさんの 
睫毛が起こす風、 
それは、なんて可愛らしいんだろう。 

しずかに、 
    しずかに、 

僕の子供は眠っている。 
そして、僕は歌う。 

5. 

お嬢ちゃん、 
大きな目、 
なんて大きいんだろう、 
どこの空を見て笑ってるんだろう、 
覗き込む僕たちの後ろに、何を見ているんだろう。 

君のばら色の蹠の下に、 
ふたつの心臓、 
母の心臓、
父の心臓。 
しっかり踏みなさい。 
落っこちたりはしないからね。 

君がさわる所はどこも、羽毛と光、
羽毛と光、それはお母さん、 
羽毛と光、僕、 
風が、 
羽毛と光を僕に持ってくるんだよ。  

お嬢ちゃん、僕を捕まえていてね、 
風が僕を連れて行くものだから、
高い、高い、 
山の上のもっと高い所へだよ。 
紺碧の双翼、 
双翼、双翼、 
海の様な双翼、 
晴渡った海の様な。 
僕を捕まえていてね。 

一つの星が、僕にウインクをしてみせる、 
一ひらの蝶が、僕にカップを運んで来る、 
二羽の燕が、僕に僕の椅子を持って来る、 
四羽の鳩が、僕にテーブルを運んで来る、 
一羽の鷲が、僕に僕の服を持って来た、 
風の中で、 
風の中で、僕は裸だ、 
風は、僕に、
一本の羽毛と光を持って来る。 

僕を掴んでいるのは、曉色の  
クロッカス一輪、君の笑顔だけだよ。  

僕を捕まえていてね。 


6.  

葉叢に隠れていたナイチンゲールが一羽、 
朝の星々でしっとり濡れたナイチンゲールが一羽、 
僕のこころの置き所を持って来た。 

お嬢ちゃん、 
おととい、君は産まれた、 
きのう、君の母と、それから、僕が、 
きょう、世界が産まれたんだよ。 

一本の灌木の後ろに、ふたつの星、 
二匹の蝉が、自分たちの 
マンドリンを弾いている。 
歌の街にある、 
鳩の家並の上で、 
千の鐘が、明らかに、鳴っている。 

滑らかな手で、 
花々が拍手する。 

お嬢ちゃん、 
君のスズランの様な手の中に、 
どうやって、幸せを容れておくのか知ら? 
君のスズランの様な手の中で、 
どうやって、 
銀色の独楽が回るのか知ら? どうやって回るの、 
回る、回る、ぶううんと鳴る、 
どうやって、世界は回るのか知ら? 

この不思議なたくさんの光、 
千の火花、 
羽毛と火花、それらが、 
回る、回る、ひゅーっと音を立てる、 
ぶううんと鳴る、僕の心の中で。 

僕を捕まえていて、お嬢ちゃん。 

星の芝生の上に、一輪の雛菊の鐘から
きっと、僕は、落ちるだろうね。 

7.  

泣いているの? お嬢ちゃん。 
母さんが恋しいの? 
さあ、泣かないで。 

母さんはいないんだよ、 
ちょっと、お空に出てるんだ、 
星のお花をたくさん、
摘みに行っているんだよ。 

二体の小さな天使がね、 
天国のとっても涼しい 
小径でね、 
母さんに会ったんだよ。 

天使たちはね、母さんに、君のことを尋ねたよ、お嬢ちゃん。 
それから、自分たちの翼から、二本の羽を取り出して、 
それを、君に送るんだ、 
僕たちの心で、君がそれを濡らして、そうして、 
神様に手紙を書くように、くれたんだよ。 

神様にこう書くんだよ。「はいけい、 
わたしたちはげんきです。 
だいすきなかみさま、 
こどもたちみんなに 
ほしがいっぱいの 
うたがいっぱいの 
みるくのかわをください。 
だいすきなかみさま、 
みんなをげんきにしてください、 
そしたら、わたしたちはうれしすぎるけど、 
だからって、あんまりはずかしくなくなりますから。」 

君は一つ間違いをしたね、ほら。 
うれしい、が、 
緑色で書かれてないよ。 
赤色で書かれている。 
うれしい、は、 
赤いカーネーションなんだ。 
覚えておきなさい、 
赤いカーネーションだよ。 

あさって、僕が話すからね。 

8.  

両方のまぶたを開けなさい。 
すると、一枚の窓が開くんだよ。 
また、一枚、 
もう、一枚。 
界隈の窓の全部が、 
開いていくよ。 

窓のガラスに、 
細長の空が二つ、 
庭が一つ。 
それに、雀が八羽、 
ひとつの光りの玉で遊んでいる。 
そして、玉の反射が、君の顔の上に、 
ちらちら映っているよ。 

一羽の鳩が、 
くちばしに 
小さな海を、リボンになった海を、をくわえている。 
リボンは、空に円を画いている、円をいくつか。 
それらの円の中を、 
小さな魚が何度も何度も通り過ぎる、 
金色の魚、青色の魚、紫の魚が過ぎる。

おや、動いた、 
君の柔らかい手が。 
すると、一瞬に、暗闇が消えた。 

君が、小さな足で、 
星でいっぱいの空を蹴ると、 
幽霊たちは隠れるよ。 
戦争も隠れるよ。 
暗闇はみんな、君の小さな青い靴の下に、隠れるよ。 

君は僕にそうしてくれた、それなら、ねえ、僕の子供、 
じっと立って、待ち伏せている、あの 
幾つもの影を、僕は、どう切り抜けたらいいのだろうね? 
ほら、君の満開の花の様な笑顔の後ろにある影だよ。 
君は僕にそうしてくれた、それなら、ねえ、僕の子供、 
パン屋牛乳や本を、 
どうやって、僕は、君に持って来ればいいんだろうね? 

君の星々の間に、 
通路が開いた。 
君の花々の間に、通路が開いた。 
それで、僕は、路に出られるよ。 

夜の始めには、帰って来るからね、 
もっと優しくなって、もっと美男になって、 
君のお父さんは、帰って来るからね。

9. 

外で、何人もの人が叫んでいる。 ― 
誰が叫んでいるのか知ら? 
何て叫んでいるのかしら? 
新聞売り? 
青果売り? 
氷り売り? 
僕には分からないんだ、お嬢ちゃん。  

その人たちは、階段を上がったり降りたりする。― 
何を求めているのだろう? 
空中で、幾つもの旗が当たり合っている。 
声と剣が 
立って、落ちる、 
血。 ― 
目を閉じなさい、お嬢ちゃん。 
あの人たちは皆、君の兄弟ではないからね。 
それで、何を欲しがっているのだろうね? 
あの人たちは皆、僕の子供ではないよ。 
それで、何を欲しがっているのだろう? 

僕には分からないんだ、お嬢ちゃん。 
目を開けてごらん。 
よく見るんだよ、 
そして、学んで、僕に僕のことを話してね。

ヒロシマにね、お嬢ちゃん、 
お母さんたちがいたんだよ、お嬢ちゃん、 
― 違う、僕は君には話したくない ― 
子供たちがいたんだよ、お嬢ちゃん、…。 

君は知らなくてはいけない。 
君が産まれた時のことを、ね、お嬢ちゃん。 
最初の小さな蝉が聞こえて、 
それから十年経ってたんだ。 
よく考えなさい、お嬢ちゃん。 
ナガサキで、聞こえてから、 
十年経ったんだよ。 

外で、何人もの人が叫んでいる。 ― 
ほら、叫んでいる。 ―  
何て叫んでいるのかしら? 

その人たちは、階段を上がったり降りたりする。― 
何を求めているのだろう? 
新聞売り 
青果売り。 

オレンジはね、お嬢ちゃん、 
丸い光りだよね、それで、 
黄色い光りだけではないんだよ。 
赤いオレンジもあるんだ、 
血の様な赤だよ。 

外で、何人もの人が叫んでいる。 
何て叫んでいるのかしら? 

そこで、沈黙が、 
指を数えるんだよ。 
沈黙が、数え方を忘れてない様に、 
沈黙が、僕たちの家の番号を忘れてません様に。 
僕たちの鼓動が、 
円から落ちない様に。 
星々ぜんぶが、 
僕たちが生きている所の向こう、 
お嬢ちゃん、君が生きている所の向こう、 
水平線の向こうに、流れ出しません様に。

愛を奪うあの人たちを 
愛したりしないことを、君は覚えないとね。 
外で、あの人たちが叫んでる。 
さあ、君も大きな声を出して、 
僕も、大きな声を出すよ、 
僕は、歌うんだ。 

さあ、君の小さな手を握りしめてごらん、 

もう十年経ったら、 
お嬢ちゃん、 
もう十年経ったら、 
みんなの目が星になり、 
みんなの心がナイチンゲールになったらいいね。 

10.  

それは昨日ではないんだ、明日でもないんだ。 
すべては、瞬間の中にあるんだよ。 
すべては、君の手の中にあるんだ、 
昨日も、明日も、 
瞬間も、 
瞬間も、君の手の中にあるんだよ。 

君が僕を連れて来た遠いここ、お嬢ちゃん、 
ここは、時間の外、 
時間の外だよ。 
音の外だよ。 

たとえ、僕がいなくなってもね、 
お嬢ちゃん、僕は分かるんだ、 
大きな魅力的な 
目をした、 
美しさ、静寂が、分かるんだよ。 

ああ、見るんだ、ああ、見てはいけない、 
奈落の美しさを、 
荒野の美しさを、ね、 
月の中心を、ね。 
深い崖の、ふちのふち、 
ふちのふち、 
音もしない均衡を、見てはいけないよ。 
光りが均衡を保っている、闇が均衡を保っている、 
世界のすべてが均衡を保っているんだ、 
ふちのふちで。 
一輪のバラの中心の空洞のふちでね。 
ああ、それを見るんだ、ああ、それを見てはいけない、 
均衡の美しさを、ね。 
それを見るんだよ。 

どんな鳥も、地上では、さえずらないんだよ。 
無言の鷹の様にね。 

それを、どうやって君に隠そう、教えてくれるかな。 
僕が君に明かしてしまった、 
この光りを、どうやって君に隠せると思う? 

水は流れる、 
光りは通り抜ける、 
そして、君に、お喋りと全宇宙を持ってくるんだ。 
君に持って来るんだ、君に持たせるんだ。 
水 - 翼 
キス - 鳥。 

どんな鳥も、地上では、さえずらないんだよ。 
無言の鷹の様にね。 

鷲の揺るぎもしない目の中で、 
太陽は跪いているよ。 

鷲の揺るぎもしない目の中で、 
影は全部が 
太陽に変わる。 

どうやって、君に隠そう、 
美しさと言う奥様を。 

どうやって、君に持って来ようかしら。 


 

11.  

着なさい、 
君の一番の服を身に着けなさい。 

星と黒いタイルの 
濡れた様に輝く廊下で、 
みんなが君を待っているよ。 

それはね、夜の黒さと、 
夜明けの白さなんだよ。 

あさってには、君はわかるだろうから。 

さあ、着なさい。 
ぐずぐずしないで。 
みんなが君を待っているよ。 

ゴシキヒワが一羽、 
おうちを 
半分造りかけたままにして、 
君に会いに来たよ。 

さあ、 
僕は、一輪のバラを君に紹介しよう、 
お庭で一緒に遊ぶんだよ。 

それから、君に 
黄昏のものも言わない光りを紹介しよう。 
そう、僕たちの鍵を、その光がつかんで、 
一緒に、 
深く深く沈んでいくよ。 
僕たちの秘密をつかんで、 
ものも言わない光りの秘密の中に、深く沈んでい行くんだ。 

初めには、 
難しいよ、お嬢ちゃん。 
どう言っていいか、君には分からないんだよね。 

初めには難しいよ。 
それに、君はひとりぼっちなんだ、お嬢ちゃん。 
一緒なのは、君の従姉妹のバラと、 
君の姉妹の星々だけだよ。 

それから、君は知るだろうね。 

みんな一緒に、動き出す、 
みんな一緒に、進んで行く、 
でも、それぞれ離ればなれなんだ、って。

みんな何所に行くんだろう? 
みんな何所で出会うんだろう? 

僕たちの末梢、僕たちの根。 
根 ― 
君は知るだろうね。 

夕暮のことを考えながら、君は見ている。 
その夕暮は、去って行く、去って、去って行く。 
暗い赤色、暗い赤色になる、 
赤い黄色、 
菫色の夕暮、 
消えて行く、消えて行く、消えて行く。

空の他のところでも、 
太陽と一緒に何もかもが消えて行く、 
その様子は、 
苦い、苦い弔いのワインの色。 

君の月の 
無音の井戸の中に、 
今夜、君の 
最初の指輪が落ちてしまうよ。 

構いはしないんだ。 
すぐに、次のものを君は作れるからね、 
もっと明るい、もっと大きなものをね。 

それはね、お嬢ちゃん、 
君が学ぶのは、 
君が今いるところ、 
君が産まれたところを、だけではないからね。 
君が、これからなるものも学ぶんだよ。 
それはね、 
このバラ色の実、 
遠い所から、君の側の鏡に 
落ちて来た月が、教えてくれるよ。 

君がくれる喜び、 
それ以上に大きな喜びは、 
他にはないんだ。 

それは、覚えておいてね、お嬢ちゃん。



12.  

君はね、世界を変えるんだよ、お嬢ちゃん、こうしてね。 

僕は、一枚のワイシャツを持っている、 
それは、水の輝きで出来ているんだ。 
僕は、一着の金色の上着を持っている、 
それは、サモス島の夕日から出来ているんだ。 
僕は、ひとつの栄誉を持っている、 
それは、君の初めての笑い顔で出来ているんだよ。 

四月、五月、 
六月、七月の 
四つの月が、 
僕の魂の 
四つの角を作っている。 

ブドウの実が、点っている、 
赤色の、黄色の、 
ビオラ色の、スミレ色の可愛いランプ。 
それが、僕を照らしてくれるから、 
僕は、君への歌が書けるんだ。 

四人の君の叔母さん、桜の樹が、 
花を着けた桜の樹が、 
星々の間で、揺らしているよ、 
君の揺り籠を揺らしている。 

そして、は、、葉っぱがね、 
― 聞こえる様に黙っていないとね ― 
み、、緑色のね、 
葉っぱが、小さな足の裏でね、 
踊りを始める、 
空中でだよ。 
それで、君は小さな手で、 
は、葉っぱに、 
それに星々に、 
リズムをとってあげるんだ。 

黄金色のなあつ、 
黄金色、― 黄金色の 
夏が、君の呼び笛を 
君のベッドから取り上げて、 
そして、ふう、鳴らすんだ、 
天上界の樹の下でね。 
そして、眠たそうな目で 
笑っている 
お花たちを起こすんだよ。 
それに、三つの音符を 
お口からぶら下げいてる 
鳥たちを起こすんだ。 

コマドリが一羽、 
君の揺り籠に飛び降りて来た。 
小さな、きらきら幸福でいっぱいの目で、 
君を見詰めて、微笑んでいるよ。 
小鳥たちが微笑んでいるの、君にはどんな風に見えたかしら?  
ねんね、ねんね、お嬢ちゃん。 

ほら、あの雪だるま、 
僕たちの扉を開けたから、 
突然に、溶け出したよ。 
全身、ぽたぽた滴ってる、滴ってるよ。 
涙と笑顔、 
涙と笑顔が、 
こころに滴っているよ。 
ねんね、ねんね、お嬢ちゃん。 

ほら、ソルトシェーカーが、 
僕たちのテーブルの上にあるよ。 
まるで、おじいちゃん神様のめがねみたいだね、 
まるで、新聞と一緒にテーブルに 
置き忘れられている、めがねみたいだね。
おじいちゃんは、君の笑顔で心がいっぱいで、 
眠りに行ったんだ。 
さあ、ねんね、お嬢ちゃん。

ほら、あれをごらん、静かな夜だよ。 
金がかかった緑の羽根の孔雀、 
碧がかかった金の羽根の孔雀が、 
鐘楼の上で 
長い尾を引き摺っているよ。 
そして、小鳥たち、子供たちを重ね合わせている、 
小鳥たち子供たちを黄金で飾っているよ。 

ねんね、ねんね、お嬢ちゃん、 
ねんね、君のお父さんはね、 
呼び売り人だよ、素敵な時間を売っているんだ、 
お父さんはね、月の 
右の隅に、エメラルド色のカエルを、 
カエルの声に、星々を置くんだ。 
ねんね、ねんね。 



13.   

眠りなさい、お嬢ちゃん。静寂が、 
銀河の暖かい油に 
小指を浸して、 
君の可愛い眉毛をきれいに整えるよ。 

春は、君の 
枕の下に 
春が持ってた鍵を全部、置いて行くよ。 
鳥たちの扉の鍵、 
種の入った小さな衣装箱の鍵、 
それに、ひまわりの天窓の鍵、だよ。 

君の小さなてのひらの両方で、 
たくさんの鍵が抱卵されて温められている、 
他の鍵も抱卵されているよ、ひよこになるね、 
さえずっているよ、ほら、他の扉でも、 
たくさんの鳥がさえずっている、 
もっとたくさんの窓でも。 
他の鍵はね、僕は、今はね、持ってないんだ。 

君が眠ると、お嬢ちゃん、 
すぐにね、君は真っ直ぐになるんだ、 
まるで、宇宙に面した、一本の藍色の花の様だよ。 
そして、目を半分だけ閉じて、 
ほんの数歩だけ、這って行って、 
君が創った宇宙のずっと遠くを見ているんだね。 

君が眠るとね、 
僕は恐くなるんだよ、お嬢ちゃん。 
君を眠らせた睡眠が、君を遠くへ引き摺って行かないかと。 
僕は、僕たちが喜び過ぎてないか、心配なんだ。 

とっても小さなお魚さんたちの聖母は、 
広い一枚物のドレス、海を着ているよ、 
そして、君の室を照らしている。 
音も立てず、君のベッドの前を通って、 
君のオモチャを室の隅に片付けるんだ。 

天真爛漫な金色の小さなお魚さんたち、 
無邪気な小さなお魚さんたちが、 
君の蚊帳の前で、口を開けて見惚れているよ。 
それから、うっとりして、うっとりして、 
自分たちのしっぽを追っかけて、輪を書くよ。 

一挺の月の鋏が、
海百合を切るよ、 
そして、一匹のぶらぶらしてる鯛がね、 
二枚貝の半開きの 
格子の外から、 
息を吹き掛け、また吹き掛けて、 
ハーモニカにして鳴らしているよ。 

恐いんだ、お嬢ちゃん。 
嬉しくて恐いんだ。 
君の眠りが恐いんだ、 
僕の眠りが恐いんだ。 
眠りが僕を、連れ  連れて行くよ、 
無声の、無声の 
深い、金色の水中に、連れて行くよ。  
こわ 恐いんだ、僕は。 
眠りなさい、お嬢ちゃん、 
眠りなさい、嬉しいんだから。 


14.  

夕方にね、お嬢ちゃん、 
君をずっと見ているんだ。 
すると、一片の 
見知らない空が、 
僕の魂にぶら下がっていたんだ。 

耳を澄ませてごらん、 
ビズ、ビズ、ビズ、ビズ。 
立ってごらん、教えてあげるから。 
ビズ、ビズ、ビズ、 
羽音のしない蚊、星たちが、 
僕の心の中では、
君の髪を取り巻いているよ。

ビズ、ビズ、 
一匹の蝉が、 
雀さんのちっちゃな扉に鉋を掛けているんだ、ビズ、ビズ。 

ビズ、ビズ、コオロギの建具師たちの仕事場で、 
コオロギたちが鋸を挽く、鋸を挽く。 
薔薇の奥様の 
小さな洋服箪笥を作るんだ。 

ビズ、ビズ、ビズ、 
ほら、君のガラガラが 
ひとりでに鳴っているよ、 
ハリスト生誕の日の朝の 
小さな鐘の様にね、 
そうだね、 
山を横切っていく 
青い群れの 
子羊の 
青い鐘の様に鳴るんだ、 
ビジン、ビジン。

それで、そっとしておきなさい、 
ちょっとの間、黙ってごらん、 
そしたら、月の 
車輪が静かになるよ。 
そしたら、星々のコオロギたちも黙るからね。 

僕は、君に何か言いたかった、 
歌いたかった。 
僕は忘れた、君のこと。 
僕は忘れた、自分のこと。 
歌が、歌の海の中の 
歌の船に僕を乗せたんだ、 
歌は僕を溺れさせた、 
君の上、僕の上には、 
歌だけが残っているよ。 
ビズ、ビズ、ビズ、 
僕たちの頭の上に、 
一うねりの青い波が来た。 
 - 黙っててごらん、 何て言ってる? 
ビズ、ビズ、ビズ、ビズ。 

君の蚊帳の側、 
水とガラスの 
青い影が映っている、 
それは、きっと、君のお母さんだよ。 

波の上には、 
お母さんの二つの目だけ。 
それは、愛がこもったランプだ。 
静かな埠頭で、 
僕たちにこちらに来る様に、 
深々と、重々しく、目配せしているんだ。 
その砂浜にここに泊まる様に、って、ビズ、ビズ、ビズ、ビズ。 

お嬢ちゃん、僕たちは何処へ行くんだろう? 
僕をどこへ引っ張って行くんだい、ねえ、 
ねえ、お歌ちゃん?  

僕たちは忘れてしまった。 
母さんが僕たちを待っているよ、お嬢ちゃん。 


15.  

ほんとうにね、君の父さんは、 
何て無邪気なんだろうね、お嬢ちゃん。

僕の心臓の上、 
僕の上着の下に、
君の写真を 
大切に持っているんだ。 

ちょっと休憩、 
君のことは話さないね。 
そう、山の向こうを 
見る時みたいに、 
ぼんやりとヴィトリヌを眺める時みたいに、
僕の友達たちを迎え入れる、 
僕はお喋りをする、 
一冊の本に視線を傾ける、 
僕の靴を見る時みたいに、 
友達たちが僕を見ない様に、 
友達たちが気付かない様に、 
僕が君だけを見てることに気付かない様に、 
お嬢ちゃん、 
君以外は何も見てないことを覚られない様にするんだ。 

でも、ほら、見てごらん、お嬢ちゃん、 
何枚もの君の写真が、 
僕の服に刷り込まれているよ。 
スタンプだよ、 光りのスタンプだ、 
僕の上着の上に、 
僕の髪の上、両手の上に、 
眼の中に、 
君の写真が、… 
笑っている僕の子供、 
僕の子供、 
僕の家の扉に光りのスタンプ、 
空にスタンプ、 
山の向こうの雲に 
スタンプ、太陽に…、 
皆んなが、僕に気付いてしまうよ、 
君の手で僕を隠してお呉れ。 

ほんとにね、君の父さんはおばかさんだねえ。 

一羽の小さな兎がね、 
僕にその耳を振って見せるんだ、合図するんだ。 
どこに行こう? どこに隠れよう? 

それに、僕は、空のどこを進もう、 
犬たちが後ろから僕を追い掛ける、 
空吼えする、 
夢中になって、繰り返し繰り返し吼える…  
尻尾を振って見せる、 
カモミール・アスターを扇ぐんだ、 
そうやって、君に挨拶を送るんだ。 
皆んなが、僕に気付いているよ。

なんて無邪気なお父さんなんだろうね、お嬢ちゃん。 
お母さんに、何て言おうか? 



16.  

どうやって、世界を小さくするんだい、お嬢ちゃん。 

子供が一人、 
壁が四面、 
ベッドが一台、 
蚊帳が一張り、 
乳母車が一台、 
薄絹で出来た小舟、 
僕が押して行く、押して行く、― 僕は 
絹の様な風の中、どこに行くんだろう?  

どうやって、世界を広げるんだい、お嬢ちゃん。 

壁が四面。 
世界の四つの角に、 
月が四輪、 
ベッドが一台。 
あたり一面が海のところに、 
ボートが一艇。  

子供が一人。 
全世界には、 
千人の幼児。 

乳母車が一台、 
四つの四月が、それを引っ張って、 
小径を、銀河の小径を行くよ。 
四つの四月が、僕を 
空の中へ引っ張って行くよ。 

蚊帳が一張り、それは、 
薄絹で出来た小舟。 
鳥たちの息が、星々の息が、 
小舟を持って行くよ、 
空のまん真ん中に、 
海のまん真ん中に。 
― 僕たちはどこに行くんだろうね、お嬢ちゃん?  

大きいよ、世界はね。 
大きい、なんて大きいんだ。  

壁が四面、 
子供が一人、 
お母さんが一人、 
歌詞が何行か、 
乳母車が一台、 ―  
走らないで。 
どうすれば、僕は君に追い付けるかしら? 

喜びには壁はないよ。 
愛には別れはないよ。 

僕たちはどこに行くんだろう? どこに進んでいるのか知ら? 

絹の様な風が僕たちに吹き付けているよ、 
バラの上に、 
山々の上に、 
鳥たちの上に。 

笑顔が一つ、 ― それは錨、 
笑顔を、深く投げ落とす、 
すると、昼になるよ。 

7時だよ。 

母さんが君を待っている、 
君はおっぱいを飲む時間だ。 

僕たちが向こうに見ている 
あのふたつのバラ色のお山、 
お母さんだよ。 


17.  

静かにして。 
僕は自分のズボンにブラシをかけるから、 
星の埃を落とすんだ、 
海の小さなエメラルドを落とすんだ。 
そして、通りに出なくては、 
四角い物を見るんだよ、 
家を見るんだ、 
番号と名前を確かめるんだ、 
僕の名前を確かめるんだ。  

さあ、通りに出る時間だ。 

僕はしっかりとブラシをかけないとね。 
たぶん、みんなは、僕たちの旅に勘づくよ、 
たぶん、みんなは、分かるんだ、お嬢ちゃん。 
僕がどんなに小さな小人になったか、分かるんだ、 
君がどんなふうに僕を旅させたか、分かるんだ、 
君が、僕を手でつかんで 
窓から旅させたのが、分かるんだ、 
たぶん、みんなは、分かるんだ、 
パンの皮の下の 
柔らかい実のこと、 
それで、みんなは、僕を踏みつぶすよ、お嬢ちゃん、 
宇宙の大きなアーモンドの樹から 
落ちた生のアーモンドみたいに踏みつぶすんだ。 

僕たちは用心しないといけないよ、お嬢ちゃん。 

人々は悲しんでいるんだ。 
僕たちの喜びを許さないんだ。 
僕たちは忘れずにいないといけないよ、お嬢ちゃん、 
人々はうんざりしているんだよ。 

僕たちは、人々の 
悲しい手を 
打ち拉がれている手を、僕たちの手で握りしめなくてはいけないよ。 

よくご覧。 
僕の肩にひと摘みの星があるよ、 
それを残しては駄目だね。 

ほら、どうしたことだろう、お嬢ちゃん? 
ブラシは、僕を 
瑞々しい太陽の 
一かけらにしたよ。 
僕には光線が溢れてる ー 
光線、幾つもの光線。 
これで、どうやって 
通りに出ようか? 
みんなが僕に気付いてしまうよ。 

とっても、金ぴかの、金ぴか、 
君のお父さんは金ぴかなんだよ、お嬢ちゃん。 


18.  

来る前に、お嬢ちゃん、どこを回っていたの? 
そこで、母さんの愛が会うんだね、 
父さんの愛も。 
そこで、人々の愛が会うんだね、 
そこが、君の故郷なんだ。 

でも、お嬢ちゃん、来る前に、どこを回っていたの? 

君のおでこに、空の露、 
君のひとみに、海に映る月の影があるよ。 
深い、深い海の底の藻の中を歩いたね、 
高い、高い空の底の雲の中を歩いたね。 

魚たちに星々、いくつもの種に鳥たちは、 
黙っている君に秘密を喋ったね。 
あれたちは、秘密をもう一度は話さないことを、君は知らない。 
君のひとみの中に、君は、その秘密をしまっているんだよ。 
明日 ー 明後日、君はそれを探し回るだろうね、生きていく為にね。 

君は、世界の秘密を訪れたんだよ、 
秘密を見つけに来たんだ、 
そして、それを話す、 
そして、それを変えに来たんだ。 

どうやって見つけるの? 
きみは、どうやって、変えるつもりなの? 
秘密は、その半分が 
暗闇の中に、その半分が明りの中に 
それに、全部が無音で、隠されているんだよ。 

さあ、声を潜めて。 
それから、声を出すんだ、歌を歌うんだ。 

君の片手に、いままでが、ある、 
そして、もう片手に、これから、があるんだよ。 
それでね、僕たちの関心の中に、今があるんだ。 

深い沈黙に向かい合う、 
深い闇に向かい合う、 
君は明りだ、それは疑われ様もないよ、 
君は、紺碧の問い掛けなんだ。 
近くを見てご覧、遠くを見てご覧、 
君は、新生の笑顔、 
永遠のひとかけらなんだ、とても深いんだ。 

お嬢ちゃん、僕は、君と一緒に 
光りを、影を、沈黙を遣り直すんだ。 
永遠が僕たちの髪に吹きつけるよ、 
僕たちの心で、果実が薔薇色になるよ。 

僕の椅子の足が、 
葉を吹き出したよ、 
僕の椅子の背が、 
莟を出したよ。 
新しい星が一つ、 
紺碧の星なんだ。 
この星は、僕たちをどこに引っぱって行くんだろうね? 

僕たちの家はまだ遠い? 
僕たちの家は、昨日にあるの? それとも、明日にあるの? 
僕たちの家はどこかにあるの? 

あっ。 お嬢ちゃん、僕たちの家は、 
今持っているあの家ではないよ、 
今、僕たちが造っている家なんだよ。 

歩くんだ、お嬢ちゃん。 
長い、長い、長い路なんだよ。 

この路が、僕たちの家なんだ。 

歩くんだ、お嬢ちゃん。 


19.  

目が覚めたかい、お嬢ちゃん? 
太陽は、起きているよ。 

金色の種の 
小さなモーターが、たくさん、先に立ったよ。 

聞こえるかい? 

四輪の雛菊が、 
一台の小さな馬車の車輪になっている、 
それが、君に、たくさんの 
とっておきの贈物としあわせを運んで来るよ。 

四羽の燕、靴職人の鳥が、 
上へ下へ、上へ下へ 
行ったり来たり、 
銀の 
長い縫い糸を引っぱっているよ、 
夏の細い雨の一本がその縫い糸なんだよ。 
燕たちは、( 君が喜ぶから ) 
青いサンダルを仕立てるんだ。 

蜜蜂たちが、啄む、啄むよ、 
黄金金色のお花をね、 
黄金金色のお歌をね。 
蜜蜂たちは、君に、 
( さあ、手を広げて ) 
君に、君専用の蜂蜜を作るんだ。 

口の利けない、ずんぐりした、 
― ( 見てご覧 ) ― 滑稽な亀が一匹、 
光りを一切れ切り取っているよ、真っ直ぐな 
青い、それにほがらかな光りだよ、それを 
小川から切り取っている、 
それをね、君のゆりかごに吊り下げるんだ、 
鏡なんだよ、 
それを、君は、見詰めるだろうね、 
そして、君は、髪を梳かすだろうね。 

優しい 
真ん丸顔のパンが、一個、 
夏の台所の 
金色の中で、 
湧かしている、湧かしている、( 聞いてご覧、その音を、 
マンドリンが何挺か、奏でられている様だよ。 ) 
優しいパンが、 
( 君の大きな目は笑っているね、 ) 
君に、ミルクを湧かしているんだよ。

シクラメンが何本か、かわいいお耳を立ててるよ、 
まるで、バラで出来たちっちゃいロバみたいだよ。 
無音の漏斗を通して、
君が何と言ってるか聞いているんだ。 

すると、君は手を挙げて、 
一本の橋を作るんだ、 
その下を、通って行くよ、 
散歩しているよ、 
白鳥たち ー 百合たち、 
百合たち ー 白鳥たち。 

二人の小人、二人の小天使、 
彼らは同じ、君に自分たちの翼を送るよ、 
君に小さな列車のねじを巻いてくれるよ、 
列車は、百合の喝采の下、 
光りのレールの中を走って行くよ。 

君のお母さんは君を黙って見てるよ。 
小さいけれど、全世界なんだ。 

母さんは、君の周り全部の 
無口な海に気を付けてるよ。 
母さんは、君の眠りの青い丸天井に愛情を注いでいる。 
深紅色で金色の全世界の女王なんだよ。 

それでね、お嬢ちゃん、僕は、袖をまくり上げてね、 
パン家さんだよ、お嬢ちゃん、世界はね、 
どこもかしこも、 
星々のトウモロコシから出来た小麦粉を跳ね散らされてるよ、
僕が、深鉢の中で、僕のこころを捏ねているんだから、 
僕は、僕の歌で、 
どこまでも拡がるパンを作るんだ、 
大事な世界がお腹を空かせない様にね、お嬢ちゃん、 
君がお腹を空かせない様にね、僕の大事な君がね。

さあ、手を貸して、僕たちは、遅れてしまったよ。 
みんなが、今か今かと、僕たちを待ち兼ねているんだ、お嬢ちゃん。 

歩くんだ、お嬢ちゃん。      



おわり   




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