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【おすすめ本の紹介】ホーキング、宇宙を語る(スティーブン・ホーキング)

(えみる)おはえみる。もう三月も終わるねえ。
(山田)早いものです。
(えみる)おすすめ本の紹介もたくさんしてきたよね。
(山田)おすすめ本の紹介ですが、ありがたいことに本人に届くことが多くなってきました。『1%の努力』の記事はひろゆき本人にRTされましたし、『書くための文章読本』は出版社に気づいていただけました。

(山田)しかし、今回おすすめする本はもう著者には届かないのです。『ホーキング、宇宙を語る』。この本は、スティーブン・ホーキング氏が亡くなられた日(2018年3月14日)に買いました。

この宇宙はどうやって生まれ、どんな構造をもっているのか。この人類の根源的な問いに正面から挑んだのが「アインシュタインの再来」ホーキングである。難病と闘い、不自由な生活を送りながら遙かな時空へと思念をはせる、現代神話の語り部としての「車椅子の天才」。限りない宇宙の神秘と、それさえ解き明かす人間理性の営為に全世界の読者が驚嘆した本書は、今や宇宙について語る人間すべてにとって必読の一冊である。

(山田)この本を紹介する前に、2つ前置きをします。

山田は理系大卒ではありますが、電気電子工学が専攻で、宇宙論はSF好きの趣味のレベルでしか知識がありません。量子力学は習いましたが、もう10年も前の話です。

第二に、『アインシュタインの再来』とまで言われる天才が一冊の本にまとめたものを、ざっくりまとめることはできません。『時間と空間』の章ひとつ取っても、ニュートンからマクスウェル方程式からエーテルの仮定からマイケルソン=モーリーの実験からアインシュタインの相対性理論まで、非常にロジカルに話題が続いています。読みづらいという意味ではありません。飛ばして説明ができないという意味です。

なので、山田が興味を惹かれた部分の紹介をします。


あと、数式が苦手という方もご安心ください。ほんとに『E=mc^2』しか数式が出てきませんし、この式も意味をしっかり説明してもらえます。

この本の中に数式を一つ入れるたびに、売れ行きは半減すると教えてくれた人がいる。そこで、数式はいっさい入れまい、と決心した。しかし、とうとう一つだけは入れることになってしまった。アインシュタインの有名な式 E=mc^2である。

『1 私たちの宇宙像』について

亀や像が大地を支えるモデルや、地球平面説よりも、我々の習った地球像・宇宙像が正しいのは、それが客観的に観測と一致するモデルだからです。しかし、ここに至るまでには先人たちの試行錯誤がありました。

ニュートンの重力理論によれば星はたがいに引きあうので、本質的には動かずにいることはできないように思える。ニュートンはこのことを理解していた。だとすれば、星はいずれどこか一つの場所に寄り集まってしまうのではないだろうか?

この後、エドウィン・パウエル・ハッブルが、どちらの方向を見ても、遠方の銀河は我々から急速に遠ざかっているということを観測しました。つまり、2点を書いた風船を膨らませたときのように、この宇宙は満遍なく膨張しているのです。

なるほど、これでニュートンの万有引力に由来するパラドックスは解決されたように思えました。しかし、膨張しているということは、膨張の速度を算出し、逆回しすれば、ひとつの点=宇宙の始まりがあったということになります。では、そのビッグバンを起こしたのはなにか。

このようにひとつ問題が解決すれば、新たな問題が生まれるのが物理学です。私たちの宇宙像は、亀が積み重なっているころから、観測によって大きく塗り替えられてきました。いま人類は相対性理論と量子力学のふたつの部分理論から、『万物の理論』を探求しているのです。

知識に対する人間のこの上なく強い欲求が、われわれが探求をつづけることを十分正当化するのである。そして、われわれの住むこの宇宙の完全な記述こそ、その目標なのだ。

『2 空間と時間』について

科学によって塗り替えられるのは、宇宙像だけではありません。時間についてもそうです。ニュートンもガリレオ・ガリレイも時間は絶対の尺度だと信じていました。しかし、そうではないことを、アインシュタイン以後の人類は知っています。

相対性理論。絶対的な時間というものは存在せず、この宇宙で絶対的なものはそれぞれの観測者から見た光速度。帳尻を合わせるように、時間は伸び縮みする。いわゆる『ウラシマ効果』というやつですね。

さらに光速度に近づけば近づくほど、質量が大きくなってしまい、加速のためのエネルギーがさらに必要になるため、なにものも光速度は超えられない。

相対性理論により、我々の『時間と空間像』も大きく塗り替えられることになりました。この本で唯一、『E=mc^2』だけ数式を採用しているあたり、相対性理論が現代科学において、いかに重要かがわかりますね。

『4 不確定性原理』について

(えみる)SF読みが好きなやつだよね。
(山田)『ハイゼンベルグの不確定性原理』、関係ないですが『ゲーテルの不完全性定理』とよくごっちゃになるやつですね。ところで、大学の頃、ディベートの授業で『ゲーテルの不完全性定理』(の誤解釈)で論破しようとしてきやつがいてですね。それを言い出したらお前の論拠もなくなるだろうと……!
(えみる)いいから。

まず、『ラプラスの悪魔』というものを説明します。これもSF読みの大好物。ピエール=シモン・ラプラスによって提唱された概念で、端的に言うなら、『ビリヤードの球がどのような動きをするか計算ができるように、この宇宙のすべての状態は計算可能なのではないか』というものです。決定論ですね。そんな計算が出来る存在がいなかったとしても、我々の脳内も含め、初期値の段階で未来のすがたはすべて決まりきっている。そんな問題提起です。

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。

それを否定したのが、量子力学。
我々の直感が通用しない微小の領域を扱います。そこでは、粒子だったものが波のように振る舞ったり、波だったものが粒子のように振る舞ったり。あるいは越えられない壁をするっとすり抜けたり(トンネル効果)、存在が確率で表現され、『観測すること』で存在が確定するような奇妙な世界です。

別にSF小説の設定を話しているわけではありません。トンネル効果、このnoteの記事を読んでるデバイスの中でも平気で起こっているものですから。

(山田)みんな大好き『シュレディンガーの猫』もこの文脈です。
(えみる)大好き!
(山田)これはもともと量子力学の奇妙さをついた批判的なモデルなんですが、名前のかっこよさから量子力学の代名詞みたいになっていますよね。

猫と放射性元素のある密閉した鋼鉄の箱の中で、放射性元素の1時間あたりの原子崩壊確率を50%とし、ガイガー計数管が原子崩壊を検知すると電気的に猫が殺される仕掛けにする。
箱の中では、箱を開けてそれを確認するまで、猫が死んでいる状態と生きている状態の重ね合わせになる。これは量子力学的にはなにもおかしなことではなくて、観測による波束の収束の結果が相互に排他的で両立し得ない性質を持つ2つの状態の間の選択になっているだけである。

でも、猫が生きているか死んでいるかなんて当然わかることで(\にゃー!/)、『生きている状態と死んでいる状態が半々に重なり合っている』なんてことはないわけです。要は微小なものを扱う量子力学を巨視的に適用すると直感と反するよ、ということですね。

話を戻して。『ハイゼンベルグの不確定性原理』は量子力学の文脈において『位置と運動量(質量×速度)は同時に厳密に決定されない』というものです。

位置を厳密に図ろうとすると、運動量がおろそかになり、その逆も然り。最初これを聞いたときには、『なるほど。ミクロな世界だと位置を測るのに光を当てるだろうから、その光を当てること自体が運動量のノイズになるんだろうな。観測の問題だ』と思っていたんですが、どうやらそうではないらしく、大学にいた頃の量子力学の授業で、見事に定式化されていて驚きました。

観測の手法の限界ではなく、この宇宙がそうなっているんですね。

(えみる)わけわからん。
(山田)神に聞いてください。

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。

いずれにせよ、かくして『ラプラスの悪魔』は退治されました。ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることは、原理的にできないからですね。

『6 ブラックホール』について

スティーブン・ホーキング氏といえば、ブラックホールの特異点定理。この本でも二章に分かれて、ブラックホールについて書かれています。

(山田)割愛します
(えみる)ええ!?

うまく噛み砕けないんですよね。『ブラックホールに落ちるひとを、ブラックホールの外から見たら、永遠に落ち続けるように見える』とか、SF的なネタはあるんですが、山田の力不足により、うまく説明できないんです。

が、

この本の第七章のタイトルをお伝えしましょう。
『ブラックホールはそれほど黒くない』

ブラックホールは熱力学第二法則の要請上、流入するエネルギーに対応した温度を持たなければならない。温度を持っているということは、(細かいことは省くが)ブラックホールから飛び出してくる粒子が存在するということです。

その結果はすべて、ブラックホールは、あたかもその質量に依存するある温度をもった熱い物体であるかのように、粒子と放射を放出するはずだということを確認している。そして質量が大きいほどその温度は低い。
事象地平の内側から何も外に脱出できないことがわかっているのに、ブラックホールが粒子を放出しているように見えるということが、どうしてありえるのだろうか? 量子力学が教えてくれる答はこうだ。

(山田)続きは君の目で確かめてみよう!
(えみる)ファミ通の攻略本か!


(山田)この記事、長くなりすぎました。前編後編にもしたくないので、ここで切りましょう。『宇宙の起源と運命』『時間の矢』『物理学の統合』『結論ー人類の理性の勝利』と続きます。

『時間の矢』はエントロピーの問題でよく用いられる単語。物理学上、時間を逆回しにしても法則は成り立つのに、どうしてこの宇宙では、『原因→結果』の順番でしかものごとが起こり得ないのか。

『物理学の統合』は、『万物の理論』に関するお話。前に書いたように、ミクロなものを扱う量子力学と、マクロなものを扱う相対性理論では矛盾が起こります。また、我々に身近な重力ですが、他の3つのちからに比べて非常に弱く、扱いが難しいとされています。重力だけ他の次元に漏れている(我々が観測できない方向のちからがある)なんて記述も見たことがあるくらい。

『結論』は、『神が宇宙を想像する際にどれだけの自由度があったのだろうか』というフレーズが印象的でした。無矛盾で、人間のような複雑な生命体を存在させる『万物の理論』にはおそらく自由度がほとんどない。

仮にそれがあったとして、なぜこの宇宙は、それを存在させるということができるのか。『万物の理論』は誰が動かしているのか。それとも『万物の理論』自体に、自らをも実現させるほどのちからがあるのか。

科学者は『何であるか』を説明できるが、『なぜ』を問うことができない。一方、哲学者は物理学が数学的になりすぎたため、この場に入れずにいる。そんな文脈から、この願いで締めくくられました。

しかし、もしわれわれが完全な理論を発見すれば、その原理の大筋は少数の科学者だけでなく、あらゆる人にもやがて理解可能となるはずだ。そのときには、われわれすべてーー哲学者も、科学者も、ただの人たちもーーが、われわれと宇宙が存在しているのはなぜか、という問題の議論に参加できるようになるだろう。もしそれに対する答が見いださえれば、それは人間の理性の究極的な勝利となるだろうーーなぜならそのとき、神の心をわれわれは知るのだから。

そんな本です。

扱っている内容は最先端の科学で、しかもブラックホールなど想像のしづらいものであるから簡単ですとは言えないのですが、数式はほんとにあのひとつしか出てきません。スティーブン・ホーキング氏は偉大ですが、気負いせず、科学の読み物として読むのがいいでしょう。

わからないところはわからないでいいんですよ。
また、スティーブン・ホーキング氏は偉大な分、噛み砕きが適切なのです。

6才児に説明できなければ、理解したとはいえない(アインシュタイン)

(山田)どうですか、創作に活かせそうなアイディアがたくさん見つかりそうでしょう。
(えみる)そういう趣旨なの!?

この宇宙はどうやって生まれ、どんな構造をもっているのか。この人類の根源的な問いに正面から挑んだのが「アインシュタインの再来」ホーキングである。難病と闘い、不自由な生活を送りながら遙かな時空へと思念をはせる、現代神話の語り部としての「車椅子の天才」。限りない宇宙の神秘と、それさえ解き明かす人間理性の営為に全世界の読者が驚嘆した本書は、今や宇宙について語る人間すべてにとって必読の一冊である。


昨日の記事はこれ!
コミケの中止を受けて、小説総集編第二巻から、ウェブ初出のエピソードを掲載しました。


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